インスタグラムが長尺動画のプラットフォーム「IGTV」で、ついに広告収入の蛇口を開く。だが、IGTV広告の収益還元をすでに2年近くも待ちつづけるメディア企業たちは、その金の流れが自分たちに向かうまで、さらに半年待たされることになりそうだ。
インスタグラムが長尺動画のプラットフォーム「IGTV」で、ついに広告収入の蛇口を開く。だが、IGTV広告の収益還元をすでに2年近くも待ちつづけるメディア企業たちは、その金の流れが自分たちに向かうまで、さらに半年待たされることになりそうだ。
6月第1週を皮切りに、インスタグラムはIGTV動画での広告掲載を開始し、広告収入の55%をクリエイターに還元する。ただし、この収益化プログラムはいまだ試験運用の段階で、当面、対象となるのは個人のクリエイターに限られる。メディア企業の幹部たちによると、インスタグラムの親会社で、同社のアプリとメディア企業の取引関係を管理するFacebookから、IGTVの収益化プログラムがメディア企業に広く公開されるのは2021年になると言われたそうだ。
「IGTV広告の試験運用は2020年末までつづく。当面、IGTVの収益化プログラムからもっとも恩恵を受けるのは新興のクリエイターたちだが、いずれ各種のアカウントでもテストを行い、エクスペリエンスを損なわないように、時間をかけてロールアウトする。試験運用の拡大について、現時点で発表すべき具体的な計画はない」。インスタグラムの広報担当者はそうコメントした。
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関係者は「いまひとつ及び腰」
インスタグラムがメディア企業に対して、ほかのプラットフォームのために作成した動画広告をIGTVに流用するのではなく、はじめからIGTV向けにオリジナルの動画広告を作成してほしいと望むなら、収益化プログラムの段階的な導入は、かえって好都合かもしれない。メディア企業が動画制作にかけるコストは、スタジオやロケーション撮影にかかる経費を含め、個人のクリエイターよりも高くなりがちだ。IGTVの広告収入で当初からこのようなコストがまかなえるものか、メディア企業の幹部たちは懐疑的だ。「短期的にはとても現実的とは思えない」と、ある幹部は言っている。
インスタグラムとしては、開始当初は、IGTVの広告在庫を単独の広告商品として売り出す考えらしい。広告主にIGTV広告に金を出してもよいと思わせるには、IGTVがインスタグラムのほかの動画広告はもとより、Facebook、YouTube、Snapchatなどのプラットフォームと比べても、遜色のない規模のオーディエンスとパフォーマンスを証明する必要があるだろう。エージェンシーの幹部たちもそう口をそろえる。ある幹部は、IGTVに対する広告主側の感触について「効果のほどが分からないため、いまひとつ及び腰」と評している。
メディア企業やクリエイターによるIGTVの導入を「いまひとつ及び腰」と表現するのはかなり寛容な言い回しだろう。2018年6月のIGTV公開以来、動画制作者たちは収益化プログラムの導入を心待ちにしている。なかには、来たるべき広告収入の還元、いわゆるレベニューシェアリングの開始に備えてオーディエンスを構築するため、すぐにもIGTV動画の投稿をはじめるものもいて、そういう者たちは動画にスポンサーをつけて当面の稼ぎを確保している。
どっちつかずの状態が続く
「我々も確かにそのような取り組みを強化してきた。視聴者数は安定している、もしくはわずかながら増加している」。そう語るのは、ティームウイッスル(Team Whistle)でコンテンツとブランドプラットフォームを統括するシニアバイスプレジデントのジョー・カポロソ氏だ。ソーシャルメディアの分析を手がけるクラウドタングル(CrowdTangle)のデータによると、同社の@whistlesportsアカウントは、IGTV動画で、過去12カ月間に3530万回、過去30日間で169万回の再生数を獲得している。
反面、メディア企業とクリエイターの多くは、IGTVへの一貫した動画投稿を控え、YouTube、Facebook、Snapchatなど、レベニューシェアリングのあるプラットフォームに注力している。「IGTVは居場所の定まらないひとつの商品というだけのこと。新しい選択肢はほかにもあるため、私の関心は薄れてしまった」。別のメディア幹部はそう語った。
IGTVに対するメディア企業の関心は、実質的な収益性が見込めるまで、どっちつかずの状態が続くだろう。「それはまだ半年も先の話だ。うちは何の備えもしていない。収益が見込めない限り、このプラットフォームでは何もしない」。3人目の幹部もそう述べている。
ミッドロール広告への期待
とはいえ、メディアにしても、エージェンシーにしても、いますぐにではないにせよ、収益化の実現については疑っていない。その根拠は、インスタグラムが予定しているIGTV動画への広告のはさみ方だ。少なくとも当初は、メインフィードで再生されるIGTV動画のプレビューの視聴後にのみ広告を挿入するという。15分のプレビュー再生後、動画の続きを見るためには画面をタップする必要があるのだ。そして動画の続きが再生される前に、15秒以下の広告が再生される。
基本的にはミッドロール広告であるため、広告の再生と同時に切られる可能性は否定できない。一方で、メディア企業も広告主も、ミッドロール広告を最後まで視聴する人々がいることを知っている。ただし、今回取材した幹部たちから、具体的な数字は得られなかった。ミッドロール広告はテレビ番組に挿入されるコマーシャルと同じ手法で、YouTubeやFacebookでも普及が進んでいる。特にここ数カ月、これらのプラットフォームではCPMが下落しているため、クリエイターもメディア企業も、ミッドロール広告の積極的な活用で広告収入を増やし、CPMの下落分をカバーしている。
あるエージェンシー幹部によると、「動画を最後まで視聴する人々に対しては、ミッドロール広告は高いパフォーマンスを発揮する。我々が扱うブランドのなかには、ミッドロール専用のラインアイテムと予算を用意しているところもある」。
関係者の意識変化もありえる
プレビュー後の配信により、IGTV広告の完全再生率は上がるかもしれない。インスタグラムが2019年2月にユーザーのメインフィードに動画のプレビューを挿入しはじめた際、メディア企業たちはIGTVの視聴者増を経験している。米メディア大手のメレディス(Meredith)は、昨年、「この機能のおかげで、動画1話の平均再生回数が2桁伸びた」と言っていた。インスタグラムが収益分配の仕組みをもっと幅広く公開すれば、メディア企業もクリエイターも、視聴者が広告を最後まで見たくなるようなIGTV動画づくりに注力するようになるだろう。
「できるだけ長く見てもらうため、最初の数秒になにかしらの『掴み』を入れるなど、編集上の工夫は確かに必要だ」。ティームウイッスルのカポロソ氏はそう指摘した。
TIM PETERSON(原文 / 訳:英じゅんこ)