ブランドセーフティがらみの報道はコンテンツビジネスの動画面にスポットが当たり、広告主が敬遠したがるコンテンツの排除の問題、除外リストに頼りすぎてエンゲージメントが損なわれる問題に直面する。一方、音声分野では解決策が講じられ、特にポッドキャストでは新しいコンテンが続々と生まれ、広告収入が劇的に増えている。
ブランドセーフティがらみの報道は、コンテンツビジネスの動画面にスポットが当たることが多い。広告主が関連付けたくないコンテンツから、彼らを遠ざけるというチャレンジが続いているからだ。また、排除リストに頼りすぎて、より良いエンゲージメントが損なわれるという面もある。
デジタル音声の分野では、メディアのバイヤーとセラーが動画のような問題に見舞われないようにするための予防策を講じている。その背景にあるのは、ポッドキャストで新しいコンテンツが続々と生まれ、広告収入が劇的に増えていることだ。
グループエム(GroupM)でスペシャリティチャネルソリューション担当エグゼクティブディレクターを務めるジェン・ソック氏が公開した統計データは、この爆発的な成長を示している。同社の推定によれば、2020年には新しいポッドキャストが30秒に1本の割合で登場し、トータルで88万5000本のコンテンツが作成された。
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「動画の売上が急増して供給が少なくなるなか、音声の分野にお金が流れるのは自然なことだ」と、ソック氏はいう。「私はポッドキャストが今後も成長し続けると確信している。クライアントとの打ち合わせも活発だ。とはいえ、まだイノベーションの段階にあるため、取り組まなければならないことは多い。我々もこの分野で利用できる登録リストと除外リストを用意している」。
ポッドキャスト、GARMへの加入
音声プラットフォームのSpotify(スポティファイ)は、成長源としてのポッドキャストに大きな期待を寄せており、デジタル音声サービス専門の企業として初めて(そしていまのところ唯一)、責任あるメディアに向けた世界同盟(Global Alliance for Responsible Media:以下、GARM)に加入した。本稿のために連絡を取ったメディアバイヤーらにとって、この動きは初耳だったようだ。
Spotifyで広告ビジネスマーケティングの責任者を務めるクルム・マルク氏は、GARMとの連携に至った理由を次のように説明する。「(GARMは)我々にとって、(ブランドセーフティの問題に前もって対処する)必要性を満たすのに最適なパートナーだった。彼らはマーケターやエージェンシーの視点からの顧客で構成されたコミュニティであるだけではない。業界標準に従うだけでなく、継続的な改善をともに進めることができるプラットフォームでもあるからだ」。
マルク氏によれば、GARMとの提携は、Spotifyがポッドキャストのような場所でブランドセーフティ対策を講じるうえで、すでに効果を発揮しているという。同社は最近、「デリケートな話題のポッドキャスト(Sensitive Topics for Podcasts)」という製品カテゴリーを設定し、ブランドが特定のポッドキャストコンテンツを除外できるようにした。たとえば、カリフォルニア州に住む母親にリーチしたいと考えるCPG(消費財)ブランドが、AIベースの文字起こし技術を用いて、成人向けコンテンツ、犯罪や暴力に関するコンテンツ、武器を話題にしたコンテンツなどを除外するといったことができるという。
「まだ始まったばかりだが、GARMはすでに、我々の製品ロードマップに影響を与えている」と、マルク氏は語る。
より正確なブランドセーフティ
「十分な透明性とコントロールが確保されているデジタルコンテンツは存在しない。音声コンテンツもそうだ」。そう指摘するのは、GARMのイニシアチブ責任者であるロバート・ラコウィッツ氏だ。「透明性と一貫性のレベルを高める」ほど、次々と生み出される膨大な数のコンテンツの「より良いコントロールと収益化ができるようになる」と、ラコウィッツ氏はいう。
また、文字起こし技術のおかげで、ポッドキャストは全体としてますますブランドセーフティな環境になっているものの、除外リストが「より外科手術並みに正確となる」ことを期待していると、ラコウィッツ氏は語った。
グループエムのソック氏も、文字起こし技術が除外リストの精度を高めているとの意見に同意し、そのおかげでさまざまなポッドキャストから特定のトピックを見つけたり除外したりできるようになったと話す(ソック氏が統括しているスペシャリティチャネルは、音声、デジタル、地上波のすべてのコンテンツを一括管理しているだけでなく、アドバンストTV、出版、ダイレクトレスポンス、ローカル動画なども対象としている)。
だが、やるべきことはまだまだある。「ポッドキャストのバックエンドに関するレポートを改善する必要がある。視聴数は把握できても、ダウンロード数はまだわからない。こうした指標はいまやごく基本的なもので、動画と同じくもっと多くのデータが必要なのだ」と、ソック氏は語った。
より的確なアルゴリズム
IPG傘下のメディアハブ(Mediahub)でナショナルオーディオインベストメント担当アソシエイトメディアディレクターを務めるジェイコブ・シュワルツ氏は、YouTubeなどの動画プラットフォームと比べてポッドキャストが有利な要素として、ユーザーが選んだことのないコンテンツをアルゴリズムがフィードに表示しようとしない点を挙げている。「ユーザーが選択したことのないコンテンツを自動的に再生しようとするプラットフォームを私は知らない。もし私がジョー・ローガンのポッドキャストを聴いていれば、その後もジョー・ローガンのエピソードが再生されるだろう。アレックス・ジョーンズやレイチェル・マドーのコンテンツが提案されることはない」。
ポッドキャストの広告収入は今後も増え続けるだろう。シュワルツ氏によれば、2021年には10億ドル(約1137億円)となり、2023年にはさらに倍の20億ドル(約2275億円)に達する見込みだ。
[原文:Media Buying Briefing: Brand safety in digital audio (especially podcasting) gets ‘more surgical’]
MICHAEL BÜRGI(翻訳:佐藤卓/ガリレオ、編集:小玉明依)