ペイドソーシャルの世界は、Facebook、インスタグラム、そしてYouTubeといった少数のプラットフォームによって支配されてきた。だがその寡頭制も、まもなく終わりを迎えることになるかもしれない。競合するソーシャルメディアプラットフォーム各社に対する広告主の視線が、いままさに変わりつつあるからだ。
ペイドソーシャルの世界は、Facebook、インスタグラム、そしてYouTubeといった少数のプラットフォームによって支配されてきた。だがその寡頭制も、まもなく終わりを迎えることになるかもしれない。競合するソーシャルメディアプラットフォーム各社に対する広告主の視線が、いままさに変わりつつあるからだ。
パンデミックの影響により、企業各社はその目をネットショッピングに勤しむ人々へと向けるようになった。Appleがデータプライバシーに対する締めつけを強めたことで、Facebookにおけるトラッキングは難しくなった。そんななか、メディア支出の多様化をめぐる会話は、世間話の段階から、いかにそれを実行するかを検討する議論へと変化している。
ソーシャルメディア広告費に関しては、とてつもない規模と圧倒的なターゲティング力を誇るFacebookとインスタグラムがいまなおトップに君臨していると、メディアバイヤーたちは話す。だが、TikTokやピンタレスト(Pinterest)、Snapchat(スナップチャット)などのプラットフォームも独自のサービスを提供して、競争をさらに激化させており、広告主たちはこれらの企業に注目しはじめている。
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なおメディアバイヤーたちによれば、LinkedIn(リンクトイン)やTriller(トリラー)、Twitch(ツイッチ)、Reddit(レディット)などのプラットフォームが抱えるオーディエンスはニッチすぎるため、マススケールの一般オーディエンスをターゲットにするのは難しいという。
これから迎える第4四半期には、いったいどんな情勢が見られるのだろうか? その全体像をつかむべく、米DIGIDAYはソーシャルメディアのエキスパートとメディアバイヤー5名から話を聞いた。彼らは、ソーシャルメディアの現状についての自身の考えを語り、どのプラットフォームが2021年に大勝利をおさめるのか、どのプラットフォームが2022年の覇者になるのかについて、意見を述べてくれた。
トップグループ
Facebookとインスタグラム
2007年の導入以来、Facebookの広告システムはソーシャルメディア広告の絶対的な地位を維持してきた。その安定したインタレストターゲティング、ファーストおよびサードパーティデータ、コンバージョン……それはまさに、メディアバイヤー垂涎の広告システムだ。2012年にFacebookがインスタグラムを買収するや、その妙味はいっそう増した。
しかし現在、同社はある課題に直面している。Facebookのターゲティングに依存する体質を改めて、広告費の多様化をはかるべく、予算配分を変える広告主が増えてきたのだ。メディアバイヤーたちによれば、その主な原因は、AppleがiOS14の導入で強化する、トラッキングとデータプライバシーに対する取り締まりだという。
こうした環境の変化だけではない。SnapchatやTikTokのような、広告製品の提供を改善し、ユーザー基盤を拡大しているプラットフォームも増えてきている。しかし、それでもなお、Facebookとそのプロパティがペイドソーシャル市場を支配する体制は今後も続くのではないかと、メディアバイヤーたちは見ている。
米DIGIDAYが話を聞いたあるメディアバイヤー(匿名希望、以下A氏)は、次のように語る。「ほかのプラットフォーム各社は依然としてウォールドガーデン体質であるのに対し、Facebookはつながりを増やしている。高いトラッキング機能も持っている。ROIが高く見えるのは、パイプがしっかりとつながっているからだ」。
Snapchat
Snapchatはここ数年、ソーシャルメディアのエコシステムに自身の軸足を移すのでやっとの状態だった。しかし、Z世代のオーディエンス獲得とダイレクトレスポンス機能への大規模投資により、広告主に対するアピール力を高めることに成功した。メディアバイヤーたちによれば、同プラットフォームに対する関心は再び高まりつつあるという。これがとくに顕著に現れているのが、D2C(Direct-to-consumer)ブランド界隈だ。また、ゲームやアプリをベースとするブランド各社も興味を示している。ソーシャルメディアおよびインフルエンサーマーケティングエージェンシー、ファンバイツ(Fanbytes)の創業者でCEOのティモ・アームー氏は、次のように語る。「Snapchatは、ほかのチャネルよりも効率よく、この不可欠なパフォーマンス要素を高めてくれる。とくに優れているのが、ディスカバー(Discover)セクションの、フル画面・ノンスキッパブル型のストーリー広告だ。視聴時間の面でも、エンゲージメントレートの面でも、素晴らしい力を発揮してくれる」。
Z世代にフォーカスするSnapchatは、いまや完全に勝者のテーブルに自身の席を見つけたと、メディアバイヤーたちはいう。しかし、D2Cブランドたちを引き付けることは、同時にそのほかの広告主を遠ざける可能性をはらんでいるということでもある。「Snapchatでは、大勢の人をフォローしていない限り、実際には『ディスカバー』セクションでしか情報を得られない」と、A氏は語る。そしてさらに、キュレーテッドコンテンツは、ビューティおよびエンタメブランドにこそ向いており、それ以外が入り込む余地はほとんどないという考えを示した。
こうした点を踏まえると、Snapchatがビューティ、およびエンタメブランドからなる現在の規模をさらに拡大するのは、なかなか難しいのではないかと同氏は話す。
ピンタレスト
どちらかというと地味な存在のピンタレストだが、Facebookのそれに似たターゲティング機能により、その人気は高まりつつあると、メディアバイヤーたちは話す。
A氏によれば、ピンタレストの広告プレイスメントとCPM(現在のCPMレートについては、詳しくは語られなかったが)は効率がいいという。ピンタレストはまた、安定したトラッキングシステムを完成させており、より正確なデータ測定の統合にも取り組んでいる。さらには、ブランドセーフティに配慮したインフルエンサープログラムや、インスタグラムのストーリー(Stories)を模した機能もすでに導入している。
ピンタレストは今年、「ショッピング・リスト(Shopping List)」機能を公開して、ソーシャルコマース市場への参入をさらに推し進めている。しかしほかのプラットフォームに比べると、ピンタレストはニッチな存在だ。そこには、TikTokやインスタグラムにあるようなストーリーテリング機能はない。ソーシャルマーケティングエージェンシーのモディフライ(Modifly)CEO、イライジャ・シュナイダー氏は、リターゲティング機能を求める広告主の眼中には、ピンタレストは入っていないのではないかと述べる。そのビジュアルサーチ機能を考えれば、どちらかというと、ピンタレストはGoogleとFacebookのハイブリッドとしての役目、あるいはさらにAmazonのような役目を果たしていると、同氏は付け加える。「実際には、ピンタレストは発見プラットフォーム、つまりビジュアルサーチプラットフォームだ」と、シュナイダー氏は語る。
また、ピンタレストの大きなセールスポイントのひとつは、ブランドセーフティだ。ピンタレストはこの点を広告主に売り込んでいるものの、現状ではその実績が十分に認められているとはいい難いと、A氏は話す。ピンタレストは今年7月、ただでさえ厳しい自社の広告ポリシーに、ダイエット関連の広告を禁止する新たな項目を追加している。
発展途上
TikTok
いまや多くの人に愛されるソーシャルプラットフォームとなったTikTokだが、広告費を使うよりもオーガニックな成長に賭けることに積極的な広告主への広告販売に関しては、いまだ発展途上だ。だがその一方で、広告主の関心を集めているのは、そのオーガニックリーチ、および拡大を続けるオーディエンス規模だ。マーケティングエージェンシーのダガー(Dagger)で戦略ディレクターを務めるアビー・ヒル氏は、次のように語る。「クリエイター主導の熱烈なTikTokコミュニティの心をつかみたければ、ブランド各社は真正性と美意識について考えなければならない」。
いまのところ、TikTokの広告プロダクトはかなり高額だ。ハッシュタグチャレンジや、フロントページのテイクオーバー広告などの大型プロダクトは、特にそうだといえる。米DIGIDAYの既報のとおり、TikTokでフルページのテイクオーバー広告や大型キャンペーンを実施しようと思ったら、150万~200万ドル(約1億6500万円~2億2000万円)の費用がかかる。また、ハッシュタグチャレンジに関しては、指標のインフレというリスクもある。というのも、クリエイターたちは自分の投稿がより多くのオーディエンスに届くように、こぞってトレンドになっているハッシュタグを使うからだ。「いろいろ差し引くと、CPMはまだかなり低水準だと思う。私がそこから得ているインプレッションのすべてが最適だとは、必ずしもいえないだろう」と、A氏は語る。
ただ、ダガーでメディアスーパーバイザーを務めるフィル・ルウィツキー氏によれば、TikTokのオーディエンスにはまだまだ成長の余地があるという。「ここ最近のファーストパーティ測定ソリューションである『ブランド・リフト・スタディ(Brand Lift Study)』の追加やオークションプロダクトの増加により、広告主が利用できるオプションやデータも増えてきている」と、ルウィツキー氏は語る。
ピンタレストと同じように、TikTokもまたeコマース市場への参入を着々とを進めている。同社は8月24日、Shopify(ショッピファイ)と提携して、アプリ内で新たなショッピング体験を提供するためのテストを行う計画を発表した。
メディアバイヤーたちによれば、Twitterのポリシーは、ほかのソーシャルメディア巨大企業のそれに似た「速く動き、壊せ」だという。これを物語る最新の例は、インスタグラムのストーリーに似た、フリート(Fleets)機能の終了だ。ユーザーと広告主の両者に向けて新機能を次々と公開していくTwitterの勇猛果敢さ。これがTwitterを、広告費を投じるに値する選択肢のひとつにしていると、A氏は話す。
Twitterは昨年末、スワイプ可能なカルーセル広告機能を発表した。A氏によれば、この機能の公開によってTwitterは、インスタグラムなどのビジュアルベース型プラットフォームとも張り合えるポジションを確立したという。
ほかのプラットフォームに比べると、Twitterのユーザー基盤が見劣りするのは確かだ(ピュー・リサーチ[Pew Research]によれば、 米成人の2019年のFacebook利用率は69%だったのに対して、Twitterのそれは22%だったという)。だが、その一方でTwitterには、ほかのプラットフォームにはまねのできないリアルタイムマーケティング機能がある。
またルウィツキー氏は、Twitterに関して特筆すべき点として、ブランデッドノーティフケーションやインスタントアンロックカードといった、ブランドエンゲージメントのためのユニークな機会を提供する、カスタム広告フォーマットを挙げた。
しかし、ブランドに安全な環境を整備すると明言しないかぎり、Twitterはほかのプラットフォームの後塵を拝することになるのではと、メディアバイヤーたちは述べる。A氏は次のように語る。「広告主は、ネガティブキーワードターゲティングを徹底すれば、プロフィールに表示されるのを回避できる。しかしTwitterは、そのコントロールが難しい」。
[原文:Media buyers weigh in on the leaders and challengers on the social media landscape]
KIMEKO MCCOY(翻訳:ガリレオ、編集:村上莞)