Spotifyは2022年2月の第3週、急成長を遂げるポッドキャスト分野での優位性を加速させる同社の一連の動きとして、「ポッドサイツ(Podsights)」と「チャータブル(Chartable)」の買収を発表した。これにより、実質上、Spotifyはワンストップショッピングに位置づけられることになった。
Spotify(スポティファイ)は2022年2月の第3週、急成長を遂げるポッドキャスト分野での優位性を加速させる同社の一連の動きとして、「ポッドサイツ(Podsights)」と「チャータブル(Chartable)」の買収を発表した。「ポッドサイツ」は、広告主と連携するポッドキャスト広告測定サービス。「チャータブル」は、プロモーションに対する測定およびオーディエンスインサイトツールを介してパブリッシャーのオーディエンス識別を支援するポッドキャスト分析プラットフォームだ。
これにより、実質上、Spotifyはワンストップショッピングに位置づけられることになった。チャータブルはクリエイターにとって、誰が自分のポッドキャストを聞いているのか、そして、新しい聴取者がどこから来ているのかをプロモーションメッセージを通じて知るうえで不可欠な存在だ。またポッドサイツも、ポッドキャストが広告主にとってどのように機能しているかを測定するにあたり、有効なツールである。
もともとのSpotifyの技術力と、ギムレットメディア(GimletMedia)などの買収を通じた幅広いポッドキャスティング分野における技術とを組み合わせることにより、2023年までに約20億ドル(約2200億円)に膨れ上がると予測されている同分野において、Spotifyが一歩抜け出したように見える。この発表の際に同社は、2025年までにポッドキャスティングは27億ドル(約3000億円)にまで成長すると述べている。
Advertisement
ふたつの買収が意味すること
しかし広告主およびメディアエージェンシーが、ポッドキャスターを個々に評価するためにこれらのサービスを利用していることを考えれば、それらが最大のポッドキャスターであるSpotifyに買収されるというのはどういう意味を持つのか? これらのサービスは今後どの程度、独立性のある測定ができるのか?
「広告業界の観点からすれば、これは前例のないことだ。ある広告企業が、第三者に自社のパフォーマンス評価を依頼するにあたり、グループ内の測定サービス会社を選定するということなどあり得えない」と、メディアハブ(Mediahub)の全米オーディオ投資部門副責任者、ジェイコブ・シュワルツ氏は語る。
「Spotifyが、自社のパフォーマンス評価を自身が測定するのか? 我々はこんな問い掛けをすることになる」とシュワルツ氏は付け加える。「オーディオアトリビューションの調査量はすでに限られている。そして、この分野でもっとも大きな2社がSpotify傘下に加わった」。
ただしシュワルツ氏は、この議題についてはまだ、Spotifyと話し合っていないという。また、そもそもこれが問題になると頭から決めてかかってはいないとも、きっぱり言い足す。
公平性は維持できるのか?
Spotifyは、この件について広報担当者を通じて次のように回答している。「メディアエコシステムが繁栄するには、ファーストパーティとサードパーティ両方の測定サービスが不可欠だと考えている。オーディオ広告に関しては、Spotifyはすでに、さまざまなサードパーティの測定プロバイダーと強力なパートナーシップを結んでいる。我々は、ポッドキャストのファーストパーティおよびサードパーティの測定アプローチにも引き続き投資し、広告主がメディアへの投資を評価する際にさまざまな選択肢を持てるようにするつもりだ。さらに、買収後、ポッドサイツのクライアントとの信頼関係を維持するために、ポッドサイツチームは当面のあいだは現状通りに稼働し、Spotify内のほかのサービス機能とは独立して運営する。より良い測定はエコシステム全体に利益をもたらすと我々は信じている」。
ただし客観的に言って、いくらSpotifyがポッドサイツを独立して働かせるつもりであっても、広告効果またはオーディエンス構成のいずれかに関する情報をポッドサイツおよびチャータブルに依存しているほかのパブリッシャーやポッドキャスターが、競合相手であるSpotifyにサービス料金を支払う意思があるかどうかは不明だ。
シュワルツ氏このように述べている。「もしも私がポッドキャスターのスティッチャー(Stitcher)やワンダリー(Wondery)だったら、競合他社に自社のキャンペーンを測定させて問題ないと思うだろうか?」。
「我々はまだ初期段階にいる」
Spotifyがふたつの買収を発表した際(買収価格は未発表)、同社のチーフコンテンツおよび広告ビジネス責任者であるドーン・オストロフ氏から事情説明があったが、この客観性に関する問題には触れられていなかった。
「我々はまだ、デジタルオーディオにおいては初期段階にいる。この分野における広告の可能性は非常に大きいと考えている」と、コンデナスト(Condé Nast)やネットワークテレビに勤務経験を持つオストロフ氏は話す。「ポッドキャストテクノロジーに精通するポッドサイツとチャータブルの買収は、デジタルオーディオを次のレベルへと引き上げる重要なステップであり、広告主、パブリッシャーそれぞれに強いインパクトを与えることは間違いない」。
MICHAEL BÜRGI(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU