米司法省によるGoogleの検索ビジネスに対する反トラスト訴訟の公判が、9月12日から正式に開始された。これまでにもGoogleはサードパーティCookie廃止の動きや広告事業などでFTCなどから反トラスト訴訟の対象とさ […]
米司法省によるGoogleの検索ビジネスに対する反トラスト訴訟の公判が、9月12日から正式に開始された。これまでにもGoogleはサードパーティCookie廃止の動きや広告事業などでFTCなどから反トラスト訴訟の対象とされており、近いところでは今年前半にもアドテク市場での独占を理由に提訴され、こちらも9月第3週から審理が始まっている。
しかし、Googleの「検索」を対象とした反トラスト訴訟の前例は米国でもほとんどない。Googleに厳しい姿勢を見せるEUの司法当局でも、検索ビジネスに関連する訴訟は5年前の価格比較サービスにまるわる数十億ドル相当の罰金を科した動き程度だ。
※今回の対Google検索ビジネス訴訟に関する基礎的な情報はこちらのガイドから。
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訴訟の構図
今回の訴訟における原告は、米司法省とアーカンソー、フロリダ、ジョージア、インディアナ、ケンタッキー、ルイジアナ、ミシシッピ、ミズーリ、モンタナ、サウスカロライナ、テキサスら11州の司法長官。被告であるGoogleがシャーマン法を複数件にわたって違反していると主張している。
シャーマン法は133年前に制定された法律で、大企業への反トラスト訴訟の法的根拠として用いられてきた。同法第2条は、米国内または他国との貿易または商取引を独占すること、独占を企てること、または独占の意図をもって他者と共謀することを禁じている。今回の場合、原告らは、まずGoogleが検索市場を独占していることを証明し、さらにGoogleがその支配的立場を利用して競争を阻止し、その過程で消費者や広告主に損害を与えたか否かを証明する必要がある。後者においてはGoogleがAppleやサムスンなどと結んだ独占契約の内容も争点となるため、各社幹部が審理で証言を求められることになる。
冒頭陳述で司法省側の弁護士は「Googleが一部の大手顧客を一方的に拒絶でき、同時に彼らとの取引を維持することもでき、取引量をさらに増やすことさえできるという事実こそが独占力の直接的な証」だと指摘。「広告主にかかるコストをつり上げることで、Googleは検索市場における莫大な独占利益を揺るぎないものにした」と述べ、Googleによる独占化とその維持を糾弾した。
原告側は「市場」が意味するところを「検索市場」としているが、GoogleはTikTokやAmazonを含む広告エコシステム全体を市場と見做すべきと主張しており、後者の意見が採用された場合、この事案の立証は難しくなる可能性が高い。また、シャーマン法に則ると損害を受けている「顧客」の定義も必要になる。検索サービスにおいて消費者は無料でGoogleを利用できるため、この訴訟における事実上の顧客は広告主だと司法省は主張しており、審理では広告価格の高騰が議論されている。
現在わかっていること
裁判はベンチトライアル(陪審員を入れず、裁判官のみで審理を行う)形式で行われ、裁判長であるアミット・P・メータ氏が証拠の評価、法律の適用、および評決の責任を単独で担うため、審理の様子がライブ配信されない。またGoogleが証拠や審理を非公開とすることを要求しているため、提出された証拠の多くが司法省サイトの本訴訟のページに掲載されず、さらに一部の審理が完全非公開で行われているため、訴訟の進捗を追いかけることはかなり難しい。それでも、開示されている情報から、広告主には受け入れ難い事実もいくつか明らかになっている。
そのひとつが広告オークションでの価格調整だ。9月下旬にGoogleの広告担当バイスプレジデント、ジェリー・ディッシュラー氏がオークションの最低価格の引き上げをおこなう際、広告主には伝えないことがあると証言。社内資料を精査したところ、実際に同氏が当初の売上予測を達成するために最大で10%m程度の価格調整を検討するよう検索サービスプロダクトチームに促していたことが明らかになったという。
またGoogle自身が、自社の検索サービスが反トラスト法に抵触するリスクを感じていた可能性を示唆する証拠も提出された。2011年に制作された秘匿文書には、シャーマン法で「独占的行為」と見做される「市場シェア」「規模」「バンドル」「提携」といった用語をパートナーに対して使用しないよう指示していた。
主な数字
90%:世界の検索エンジン市場におけるGoogleのシェア。マイクロソフトのBingが3%程度で、司法省がGoogleの独占を主張する強力な根拠となっている。
1630億ドル(約24兆円):Googleの検索部門における昨年の売上。同年のアルファベットの売上(2830億ドル[約41.7兆円])の半分以上を占めており、検索ビジネスはGoogleの中核事業と言える。
10週間:今回の審理がスムーズに進んだ場合に要すると思われる期間だが、大抵の場合これよりもはるかに長くなるとされている。1969年に提訴されたIBMに対する反トラスト法違反訴訟では13年間もの期間を要し、結局テクノロジーの進化によって訴えの根幹部分が意味をなさなくなり、訴訟が取り下げられた。