GoogleがサードパーティCookieの使用期限を延長した。寝起きの良い人が目覚ましの鳴る前に起き出すように、Googleによる今回の延期期間を、大半のパブリッシャーはCookieレスへの移行の準備に充てようとしている。しかし、この期間に何の策も講じずに過ごす広告主がいるのではないかと懸念する声もある。
GoogleがサードパーティCookieの使用期限を延長した。
寝起きの良い人が目覚ましの鳴る前に起き出すように、Googleによる今回の延期期間を、大半のパブリッシャーはCookieレスへの移行の準備に充てようとしている。しかし、まるで次のスヌーズアラームが鳴るまで再び床に就いてしまうかのように、この期間に何の策も講じずに過ごす広告主がいるのではないかと懸念する声もある。
Googleによる延期がもたらすのは救済? それとも苦難?
業界の主な反応は以下の通りだ。
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- ChromeブラウザにおけるサードパーティCookieの利用期限が2023年末まで延長されることについて、大手パブリッシャーは歓迎している。
- 「この期間を使って、これまで取り組んできたファーストパーティのデータやコンテキスト戦略をより確実なものにしたい」というのが、パブリッシャーの基本的な見解となっている。
- だが、なかには、2年という延長期間の長さから、「慣れ親しんできたサードパーティCookieに代わる手段への切り替えをためらう広告主も出てくるのでは」と危惧するパブリッシャーもいるようだ。
U.S.ニュース&ワールドレポート(U.S. News & World Report)でマーケティングおよび広告戦略担当VPを務めるアレックス・カラフ氏は、「ファーストパーティデータとアイデンティティソリューションの成長および機能強化を中心として、現在の戦略を引き続き推し進めたい」としている。同社は広告プラットフォームのアップデートを行い、たとえばホテルの価格確認など、サイト訪問者の意図が伺える行動に基づきオーディエンスを分類する仕組みを導入した。
同様の取り組みは、BuzzFeedやインデペンデント(The Independent)、インサイダー(Insider)、リビングリー(Livingly)、メレディス(Meredith)といったパブリッシャーも進めている。そしてGoogleによる延期があっても、各社の計画は変わらない。それどころか、この延長期間をすでに開始したファーストパーティ戦略をさらに確固たるものにする機会と捉えられている。
製品ロードマップの拡大
メディア企業にとって、この猶予がもたらすのはファーストパーティ戦略の策定にとどまらない。サードパーティCookieによる広告収入への依存体質から改善を図り、ほかの収益源へスムーズに移行するための準備期間と想定されている。ただしサードパーティCookieからの脱却にあたって広告価格の変更も考えられるなか、パブリッシャーはまず「代替手段」について広告主の賛同を得る必要がある。
メレディスのCOO兼データ戦略責任者を務めるニコール・レスコ氏は、「パブリッシャーが今後の変化に対応しつつ収益を維持するには、広告主と歩調を合わせることが欠かせない」と指摘する。同社はすでに「リアルタイムの行動、コンテキスト、オーディエンス、調査に裏打ちされた分析とトレンドを組み合わせて」、Cookieを使わないターゲティングをテストしているという。
またBuzzFeedの広告戦略担当シニアバイスプレジデント、ケン・ブロム氏は「2021年の状況は、かえって予測しやすくなったと思う」と述べる。同社は、ショッピング関連の商品レビューなどの新コンテンツを活用し、広告主にインベントリーを直販、もしくはプライベートマーケットプレイスを通じての販売にシフトする方向で動いている。Googleによる延長について、ブロム氏は「技術についてより掘り下げて考えたり、あるいは3年間のロードマップを設定して要素を追加することなどもできる」と前向きだ。
そのほか、インデペンデントのシニアバイスプレジデントを務めるブレア・タッパー氏は「時間的な余裕ができたことで、自社サイトにおけるユーザーの行動から得たデータをもとに関心のあるコンテンツに基づいてユニークなオーディエンス(たとえば環境保護に関心のあるユーザー)を分類するなど、より確実なファーストパーティデータの分析手法を確立できるだろう」と述べている。「Googleが当初提示していた2022年1月はあまり余裕のない期限だったが、2年あれば問題なく進められると思う」。
「真に受けた側が損をしている」
Appleが広告ポリシーを変更したことで、多くの行動データのトラッキングに制限がかかった。その一方で、Googleが掲げたサードパーティCookieの強制停止が延期されたことにより、当面のあいだは、多様な手法が混在する現状が継続する。リビングリーのエリカ・カーターCEOは、「ChromeにサードパーティCookieと同等の機能が実装されることを期待していた」と話す。リビングリーは今後、コンテンツ連動型ターゲティングの新プログラムを通じてクロスネットワークでさまざまなオーディエンス層に販売を行っていく予定だという。
また、あるパブリッシャー幹部は匿名を条件に「Googleの決定でサードパーティCookieがいきなり存続することになったが、我々はすでにクッキーレスソリューションの開発に投資してきた。しかし2年もの延期となれば、広告主は代替技術をテストする予算を確保し難くなってしまう」とこぼす。「Googleは何カ月も前から、十分に準備しておくよう重ねて忠告してきた。それにも関わらず、真に受けて準備をしてきた側が損をしている。いきなり梯子を外された印象は拭えない」。
カラフ氏やレスコ氏をはじめ、パブリッシャー幹部は口を揃えて「クッキーレスのターゲティング手法に対する広告主からの投資は減っていない」と強気の姿勢を崩していないが、一方でブロム氏は「それでもGoogleによる延期は広告主にとっても不安定な要素になりうる」と懸念を示す。「広告主にとっても、備えてきた状況がいきなり変わるのは厄介なことに変わりはない」。
不可避を先送りにしている状況
インサイダーでは、パブリッシャーや広告主にとってコンテンツ連動型広告のテストが緊急課題という点は変わらないという。Googleは延期したが、Appleはすでに追跡防止の取り組みを開始しているからだ。
インサイダーでプログラムおよびデータ戦略担当SVPを務めるジェイナ・メロン氏は「何も変わらない。Safariのおかげで、当社のオーディエンスデータの45%はすでにアドレッサブルではない。これまで通り、対応に変更はない」と話す。同氏の言う「対応に変更はない」とは、すなわちファーストパーティデータの収集を継続し、オーディエンスの分類を確立することだ。一例を挙げれば、金融コンテンツやデバイスのレビューなどで5G関連のテーマを読んでいるユーザーの正確な分類・ターゲティングの実現などがある。
また広告主にとっても、クッキーレスへの投資は不可避といえる。メロン氏は次のように述べて締めくくる。「ファーストパーティCookieも、コンテンツ連動型のターゲティングも、今後必要になることに何ら変わりはない」。
TIM PETERSON(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)