マジック・リープ 、専門家には不評も ブランドには好評

シリコンバレーにおける大言壮語や絶え間ない冗談のネタとしても知られる複合現実(MR)スタートアップ、Magic Leap(マジック・リープ)。同社は8月8日、長年の秘密主義を解き、ついに初製品を発売した。ブランドアクティベーションへの活用合戦のスタートだ。

レイバー・デー(アメリカにおける祝日「労働者の日」、9月3日)の週末、アトランタで開かれた米ケーブルTV局BET主催によるアートインスタレーション「シアター・オブ・ボビー・ブラウン(Theater of Bobby Brown)は、来場者にMagic Leapを体験させた。並んで入場を待つ間、来場者がヘッドセットをつけると、目の前にバーチャルなボビー・ブラウンが現れる。続いて金色のレコードが登場。「指を乗せて」それを回せば、ボビー・ブラウンの曲が流れる、という仕組みだ。

「並ぶという行為、そして展示物の体験を待つあいだに何ができるのか、根本から見つめ直してみた。ブランドが自身の意見を見つけ、それを利用する手法の定義は、いま、テクノロジーによって一変しつつある。そこで今回、弊社はMagic Leapを使うことを決め、複合現実体験を通じて、入場前からオーディエンスの心を掴む工夫を加えた」と、ブランディングおよびコンテンツエージェンシー、WPナラティヴ(Narrative)のCEOトリシア・クラーク=ストーン氏は述べる。

Magic Leap社はこれに関与していない。今回のインスタレーションを仕切ったWPナラティヴは同製品を予約し、9月に2295ドル(約25万円)で手に入れた。ほかのブランドはどこもまだ利用していないし、少なくとも30フィートのボビー・ブラウンの頭が鎮座する脇で使っているところは絶対にないと、同社担当チームは断言する。

デベロッパーを重視

Magic Leap社にしてみれば、どんなブランドアクティベーションも同製品の無料プロモーションになる。ただし、まだ初期段階にある製品の場合、これはうれしい話ではないのかもしれない。たとえば、Snapchatユーザーや、さまざまなゲームに付属されている最近のVRヘッドセット向けに開発されたスナップ(Snap)のスペクタクル(Spectacles)とは違い、Magic Leapにはこれといった特徴が少なく、そのため同社はこれまで、小さく限定的なマーケティングを続けており、とくにデベロッパーを重視してきた。

「私が入社した2年ほど前から現在まで、弊社はクリエイターコミュニティが関わりたいと思うミッションに注力してきた。商品を発売した現在は、デペロッパーやビルダー、その他さまざまなクリエイターを惹きつけ、彼らに積極的に使ってもらうという一点に集中している」と、Magic Leap社のチーフマーケティングオフィサー、ブレンダ・フリーマン氏は言う。「弊社のミッションは、テクノロジーは人類をすばらしい未来へ連れて行ってくれるという、より包括的で楽観的なビジョンと密接に結びついている。弊社がフォーカスしているのは次の四半期ではなく、次の四半世紀。デジタル世界が物理的現実とシームレスに相互作用する時代に目を向けている」。

とはいえ、Magic Leap社は発売前にこの初製品を何人かの記者に配っている。大半の記事は好意的なものではなかった。たとえばヴァージ(Verge)のエイディ・ロバートソン氏は「Magic Leapが長年ほのめかしているような革新的な(あるいは、まさに魔法のような)先進技術ではない」と書いている・ワシントン・ポスト(The Washington Post)のジェフリー・フォウラー氏は、非公式レビューのなかで、「いま現在、Magic Leapは気の利いた隠し芸にも劣る」と切り捨てている

ライター以外には好評

ただ、技術系ライター業界を除けば、デベロッパーコミュニティの人々は一様に同製品を褒め称えている。XRラボ、ユー・アー・ヒア・ラボ(You Are Here Labs)のフューチャリスト(futurist)にして『マーケティング・ニュー・リアリティーズ:アン・イントロダクション・トゥ・VR&AR・マーケティング・ブランディング・アンド・コミュニケーションズ(Marketing New Realities: An Introduction to VR & AR Marketing Branding and Communications)』の共著者ケイシー・ハッケル氏は、現在市場に出ている拡張現実、複合現実機器のなかでベストだと断言している。氏によれば、マイクロソフトのホロレンズ(HoloLens)よりも付け心地が良く、視野も広いという。

ただ、Magic Leapは、2295ドルを支払う余裕のある消費者すべてに向けた製品ではない。にもかかわらず、ブランドはこれを使った実験に積極的だ。米家具通販会社ウェイフェア(Wayfair)はMagic Leapを使い、ユーザーにバーチャルな家具を見せる試みをしている。全米プロバスケットボール協会(NBA)は、レブロン・ジェームズがユーザーの目の前でダンクをしてみせるMagic Leap用アプリを開発した。

「ウェイフェアやNBAをはじめ、弊社に協力してくれている多くのブランドに共通点があるとすれば、それは各カテゴリーの破壊に対する、切望とフォーカスだと思う」と、フリーマン氏は述べる。

NBAには、Magic Leap活用に関し、現行のアプリをはるかに凌ぐ壮大なプランがある。

「最終的には、ユーザーが試合をストリーミングで見られるようにしたい。家でくつろぎながら、巨人になって、アリーナを上からのぞき込んでいる気分を味わってもらいたい」と、NBAのグローバルメディアディストリビューション部門シニアバイスプレジデント、ジェフ・マーシリオ氏は今年前半、テック関連ニュースサイトのリコード(Recode)に語っている

使い方を専門家が指南

とはいえ、依然、空飛ぶクジラが見られるだけで満足しているユーザーもいる。


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さしあたり、Magic Leap社は同製品のマーケティングを初期ユーザーに対して行なっている。これはカスタマーサービスに注力する戦略で、Appleの元リテール部門トップ、ロン・ジョンソン氏が創業したスタートアップ、エンジョイ(Enjoy)との提携による。エンジョイが専門家を購入者の自宅に伺わせ、セッティングを手伝わせる、というものだ。

「このヘッドセットの配送法はマーケティングとしてきわめて優れている。これほどのものは、ほかにほとんど例がないと思う。ヘッドセットを買って、箱を開けて、ひとりであれこれと悩む必要がなくなる。これには本当に感心したし、業界内でも非常に肯定的な評判が口づてで広まっている」と、ハッケル氏は言う。

求めるパートナー像

この先AT&Tの店頭に並べば、より多くの消費者がMagic Leapを体験する機会を手にできることになる。Magic LeapはAT&Tに独占販売権を与える契約を結んだ。

「人々にいますぐに体験してもらうよう促すことで、ブランド愛を構築したい。ただし弊社は、より高次の目的と、より長期にわたる機会を目指す関係も構築している。私たちはともにこの旅路を歩んでくれる、明確なビジョンと大志のある優れたクリエイターを必要としているし、そういう意味で、AT&Tは完璧なパートナーの一例だ」と、フリーマン氏は語る。

クリエイターコミュニティとの連携を続けるため、Magic Leapは10月にロサンゼルスでカンファレンスを主催する。

Kerry Flynn(原文 / 訳:SI Japan)