サンタモニカとベニスビーチを中心とする「シリコンビーチ」の名で知られるテック地帯と、LAのダウンタウンとが、LAの芸術、文化、および企業の復興の中核となり、たくさんの起業家と投資家がこの地に集まっている。なぜ、いまアドテク拠点として、ロサンゼルスが注目されているのかを追った。
ギル・エルバス氏からすると、ロサンゼルス(LA)はアドテク企業を創設するのにもっとも適した都市だ。同氏がこの地に創業した最初のスタートアップ、アプライド・セマンティクス(Applied Semantics)は、2003年にGoogleが買収し、後にはGoogleのLAオフィスとなった。エルバス氏はその後、別のテック企業、ファクチュアル(Factual)をLAで創業。現在、LAに移ってくるアドテク企業が増えているのを目にしている。
「1998年当時、会社を創設するためにベイエリアからLAに移る者はいなかった。だが、人は資金よりもアイデアを追い求めるものだから、私はLAに引かれた」と、いまはファクチュアルの最高経営責任者(CEO)を務めるエルバス氏は言う。「素晴らしいスタートアップシーンを育てる適切な要素が、LAには常にあった。この5年間まで流入がなかったのは、LAがシリコンバレーにあまりに近く、北(LA)の会社が南(シリコンバレー)にある会社を買収しやすかったからだ」。
スナップ(Snap)のエバン・シュピーゲル氏や、ルビコン・プロジェクト(The Rubicon Project)のフランク・アダンテ氏など、エルバス氏のように本社所在地にLAを選ぶテック起業家は増えている。理由としては、良好な気候とビーチのライフスタイルのほかに、ニューヨークやシリコンバレーと比べると生活費や企業の運営費がかからない点がある。加えて、カリフォルニア工科大学、南カリフォルニア大学、UCLAのようなところから、地元の有能なエンジニアを雇うことが可能だ。
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LAで獲得できるテック人材
「LAで得られる素晴らしいテック人材は3種類に別れる。ひとつはほかのテック企業から。もうひとつはダラー・シェーブ・クラブ(Dollar Shave Club)のような対消費者の企業から。3つめは航空宇宙産業と娯楽産業からの人材だ。こういった人材はニューヨークでは見つからないだろう」と、ルビコン・プロジェクトの創業者で会長のフランク・アダンテ氏は言う。「それを分かっている人が、ほとんどいなかったのは、LAが地理的に広範囲に及ぶからだ」。
さらに、投資銀行デシルバ・フィリップス(DeSilva + Phillips)のマネージングディレクターを務めるジョン・マシューズ氏によると、LAの市当局はスタートアップに設立のインセンティブを提供しており、また、テクノロジーとクリエイティブの出会いを重視する姿勢が、この傾向を加速しているのだという。「LAとは何かといえば、映画制作であり、コンテンツスタジオであり、創造的なライフスタイルだ」と、マシューズ氏は言う。
サンタモニカとベニスビーチを中心とする「シリコンビーチ」の名で知られるテック地帯と、LAのダウンタウンとが、LAの芸術、文化、および企業の復興の中核となり、たくさんの起業家と投資家がこの地に集まっているのだ。
娯楽産業を擁する土地
たとえば、Snapchatの広告ネットワークであるナリティブ(Naritiv)のCEO、ダン・アルトマン氏が約3年前にベニスビーチでスタートアップを創業したのは、「エンジニア、製品人材、アドエージェンシー、エンターテインメント企業のうまい組み合わせ」が、近隣にあるというのが理由だった。
「我々はディズニーアクセラレーター(Disney Accelerator)に参加していたので、LAにいる必要があった。スナップも思わぬ幸運の好例だ。ベニスビーチはスナップのおかげでさらに活発化している」と、アルトマン氏は語った。
サンタモニカの複数のスタートアップを調べるため、昨年、現地で2日連続で会合を開いたエンジェル投資家のエリック・フランキ氏も、ニューヨークを拠点とするアドテク企業がパフォーマンスとターゲティングを中心に力を入れているのに対し、LAのアドテク企業はコンテンツとブランディングをより重視していると見ている。
「私がLAに特に関心があるのは、娯楽産業を擁する土地であり、700億ドル(約7兆円)規模のテレビ市場の資金はいずれデジタル産業に流れ込むと考えているからだ」と、フランキ氏は言う。「サンタモニカには、バナーにとどまらない新鮮な視点を持ったソーシャルプラットフォームがたくさんある」。
起業家たちが苦しんだ時代
しかし、かつてLAでアドテク起業家たちが苦しんだ時代もあった。ニカオ・ヤング氏は、アドテク企業のアドコロニー(AdColony)を2009年にLAで創設したときに、ふたつの大きな問題に直面したという。ひとつは、テック企業に出資する地元の資本が限定的なことで、もうひとつは、LAは派手さと華やかさのみを重視した都市であり、テクノロジーと広告の観点からは、大した存在ではないという固定観念によって、LAのテックコミュニティがまともに相手にしてもらえなかったことだ。アダンテ氏も似たような体験をしており、当時、LAには資金を提供してくれるベンチャーキャピタルがいなかったことを茶化したパロディ動画を、2007年に作成している。
「ベイエリアや東海岸の、定評ある格上の競合相手に挑む必要があった」とヤング氏。「しかし、いまでは、LAのテックエコシステムによってこうした問題は、大半が克服されている」。
ただ、LAがシリコンバレーやニューヨークのような本物のアドテク拠点になるためには、ルビコン・プロジェクト、オープンX(OpenX)、ファクチュアル以外に、地元で育った大きな会社がもっと必要だ。
「LAが不利なのは、会社を巨大な規模にまで成長させた経験のある経営幹部が少ない点だ。希望の兆しとして、LAに引っ越すことを厭わない幹部たちが、この地にとどまり、より重要な役割を担うようになってきている」と、エルバス氏は語った。
Yuyu Chen (原文 / 訳:ガリレオ)