テレビ型のライブストリーミングが日本にも浸透している。米中より時間差があったが、高機能のモバイル、ネットワークインフラと環境はいい。藤井聡太四段と亀田興毅がクリティカルマスを叩いたいま、ユーザーがライブストリーミングに慣れつつある。
テレビ型のライブストリーミングが日本にも浸透している。米中より時間差があったが、高機能のモバイル、ネットワークインフラと環境はいい。藤井聡太四段と亀田興毅がクリティカルマスを叩いたいま、ユーザーがライブストリーミングに慣れつつある。
きっかけはインターネットテレビ局「AbemaTV」。同社配信番組『亀田興毅に勝ったら1000万』(5月7日放送)の延べ視聴数は1420万に達した。藤井聡太フィーバーも大きかった。連勝がストップした『第30期竜王戦決勝トーナメント 藤井聡太四段 対 佐々木勇気五段』(7月2日放送)が1242.5万に到達。歴代最多29連勝を達成した『増田康宏四段戦』(6月26日)も793.9万だった。
ライブストリーミングには大きく分けてふたつの類型がある。Abema TVのようなプロコンテンツと、インフルエンサーやコミュニティ管理者によるコンテンツだ。今回の亀田興毅と藤井聡太の大ヒットは、プロコンテンツのクリティカルマスを捉えたと考えられる。テレビコンテンツも視聴者数換算やスクリーンに集中しているかなどをブレイクダウンすると同様のスケールと考えられる。
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驚くべきことは、クラウドコンピューティングとCDN(コンテンツデリバリネットワーク)を活用することで、短期間で動画ストリーミングサービスをここまで成長させられることだ。亀田や藤井のライブストリーミングは数百万デバイスの同時視聴に耐えていた。眼を見張るほどのスケーラビリティだ。
ついでにこれも否定すると、AbemaTVはクラウドを使ってるので月間サーバーコストは数千万円で、全体コストに対する比率は3%程度。ユーザーが増えても影響は軽微です。インフラコストを心配してる人は昔のデータセンター借りてハードも買い増すイメージを持っているのでしょう https://t.co/xSvRq3yZAB
— 藤田晋 (@susumu_fujita) May 13, 2017
つまり、動画ストリーミングのコストは極めて安価になっている。「月間サーバーコスト数千万円、全体コストに対する比率は3%」は言い過ぎな気もするが。
Abema TVは動画広告の有力な枠を押さえようとしている。ライブ中継の広告配信においても、サーバーサイドで広告を挿入する手法により、レイテンシーなどのリスクを減らすことができる。筆者がAbema TVを視聴したところ、広告はサーバーサイドでの挿入と見受けられた(この解説記事を参照してほしい)。
Jリーグと10年間、約2100億円にものぼる巨額放映権契約を結んだ「パフォーム・グループ(Perform Group)」が運営するダゾーン(DAZN)は、サブスクリプションモデルを敷いている。月額1750円でさまざまなスポーツを視聴可能だ。マルチデバイスのESPN。
欧米圏のキラースポーツコンテンツをライブ配信するダゾーン。Jリーグのライブ配信で日本のスティッキーな視聴者を囲い込む価値に10年・2100億円をつけた
スポーツのほかの成功例はAmazonが買収したTwitchが代表的なゲーム実況。ゲームは視聴者の集中力が高く、eスポーツとも関連し収益化方法が多様だ。このようにロイヤルティが高く、顧客ベースが望めるジャンルのライブストリーミング化は今後も試みられるはずだ。
モバイル動画に慣れたユーザー
YouTube、Netflixに加え、Facebook、Twitterなどのソーシャルメディアが動画化したせいで人々はモバイルでの動画視聴に慣れている。米国では、大画面で観るのが向きそうなNetflixのコンテンツですら、デスクトップとモバイルの視聴者数はほぼ同数に達している(出典:ニールセン)。
シスコの統計によると、2015年にはモバイルデータ通信量の55%が動画に利用されている。2020年にはモバイルデータ通信量の75%が動画に利用される見通し。この記事で指摘したが、「モバイル動画は世界中のトラフィックを覆い尽くす」と予見されている。
日本のライブストリーミングには以下のような課題があり、これをクリアすれば次の段階を迎えるはずだ。
- 通信会社3社寡占による高い通信費。過半のユーザーは端末費と通信費のパッケージで毎月1万円近くを負担しており、動画利用による通信費の上乗せを好まない可能性がある(ただしMVNOで、通信費は下落する傾向がある)
- 乏しいWi-Fi環境。一部事業者のデータによると、自宅内でのWi-Fi利用は拡大している。しかし商業施設はフリーWi-Fiの提供に消極的
- VRなど「動画の次」が浮上した場合、新たな設備投資や人材獲得・育成が必要になる
- 日本の広告市場はデジタル広告のプライシングをオフライン広告に対してとても低くしてきた経緯があり、単価が高い動画とは言え、ライブ配信の広告モデルには一定の疑問符が付く
一方、ライブストリーミングには大きな可能性がある。それは5Gだ。5Gは電波よりも高質の動画、あるいはその先のVRを提供できる。
Written by 吉田拓史 / Takushi Yoshida
Photo via AbemaTV