中国人観光客がアリペイ、微信銭包(WeChat Wallet)のモバイル決済を利用し、日本の小売業者で対応が進んでいる。中国のモバイル決済は世界で最も先を行っていると言われ、それが日本の商慣習にも食い込んでいる。微信はモバイル決済を含むさまざまな機能を取り込んだ「メッセージングアプリ」と理解され、このビジネスモデルは欧米日のテクノロジー企業を魅了する。
このモバイル決済はマーケティングを大きく変える可能性がある。決済情報の蓄積/消費行動が変化する可能性/認知から購買にいたるプロセスが、モバイルに集約される可能性があるのだ。
中国人観光客がアリペイ、微信銭包(WeChat Wallet)のモバイル決済を利用し、日本の小売業者で対応が進んでいる。世界でもっとも先を行くと言われる中国のモバイル決済が、日本の商慣習にも食い込んできたのだ。微信はモバイル決済を含むさまざまな機能を取り込んだ「メッセージングアプリ」と理解され、このビジネスモデルは欧米日のテクノロジー企業を魅了している。
モバイル決済はマーケティングを大きく変える可能性がある。
- 決済情報の蓄積
- 消費行動を変化させる可能性
- 認知から購買にいたるプロセスの情報が、モバイルに集約される可能性
コミュニケーション手段、情報消費などに加え、決済までモバイルに集中すると、消費行動は大きく変わり、マーケティング方法も大きく変わるはずだ。モバイル決済情報は、これまでポイントカードなどで捕捉していたリアル店舗での購買情報に取って代わりうる。「モバイルで情報収集した末に実店舗でモバイル決済により購買した消費者」に関しては、かなり精度の高いカスタマージャーニーを描くことができるだろう。
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微信のように、日本でもメッセージングアプリがモバイル決済を取り込もうとする例がある。LINEだ。LINE Payを担当する同社事業戦略室の久保渓氏は、DIGIDAY[日本版]の取材に対し「他社とどう競争するかではなく、現金主義に対して、どう食い込むかが重要だ」と、モバイル決済の浸透に関して語った。LINE Payは登録したクレジットカードやチャージした金額で決済したり、LINEの友達へ送金、割り勘を行ったりできるサービスだ。LINEは2015年2月、久保氏が創業した決済スタートアップWebPayを買収し、この事業にアクセルをかけている。
モバイル決済事業の日本での課題は、根強い現金主義だ。クレカ決済は毎年漸増するも15.6%程度、5割程度の米国、6割強の韓国に水を開けられている。
「アメリカン・エキスプレス世界7カ国中堅企業調査」によると、中堅企業の経費の決済手段をみても、ビジネスの現場ですら現金主義が突出していることがわかる。日本の現金使用率は53%と7カ国中最大。メキシコを除いた富裕国5カ国では、13〜15%のレンジだ。
金融機関と協業
日本の金融機関では基幹システムが、インターネット登場以前の1970年代に整備されており、それをネット企業がアップデートする余地がある、と久保氏は説明する。アリペイのように手数料無料でECが楽しめる通貨を生み出すのではなく、既存の金融機関と協業し、決済の滑らかさを提供するという。
クレカ決済は、加盟店が金融機関2社と仲立ちするカード会社に対する手数料を負担する仕組み。設備投資と手数料負担がネックになり、クレカ決済の導入を見送る中小の小売業者がいる。ここにテクノロジー企業がビジネスの機会を見出すことになる。
たとえば、米スクエアは加盟店手数料を減らし、カードリーダーの設備投資額を数千円まで落として、導入のハードルを下げている。手数料のほか決済データに基づいた融資など、収益化の多様化を目指している。Apple Payは手数料面には手を付けず、クレカのエクスペリエンスを良化するプロダクトだ。
中国のような発展のさなかにある国では、ゼロから何かを築くのが容易だ、と久保氏は言う。日本はフェリカの利用が進んでおり、通信キャリアなどによるモバイル決済が先行している面もあり、決済テクノロジーは先進的だ。言い方を変えれば、すでに決済まわりにエコシステムが築かれているということだ。
「LINEがOSをやらないのと同じように、LINE Payもエコシステムづくりはしない。むしろ既存の金融機関と協業して、LINE Payはインターフェイスを提供することに注力する」と久保氏は強調した。収益化ポイントはクレカ会社などとの決済手数料のレベニューシェアだという。
物理的なカードで電子マネーに「現実感」
現金主義に一石を投じる狙いが、LINE Payカードの投入だ。LINEPayカードはSuica、PASMOのようなプリペイド式でチャージが必要だ。開始10日で20万枚を突破したとLINEは発表している。デジタル通貨の実店舗でも現金に替えず、シームレスに利用できるのが、モバイル決済の面白味だが、カードはモバイルで完結していたものにわざわざ、もう一段階追加することにほかならない。
だが、久保氏は「現金決済からデジタル決済へと移行するため。物理的なものを手渡すことで、現実感をもってもらう」と説明する。「ひとつ、ひとつステップを踏んでもらい、自然に利用してもらうようにする」。さらに、LINEPayの利用層は若く、特にクレカをもてない若者の利用を促すためだ、という。
また、LINE Payカードの導入により、利用可能な店舗を大きく増やすことができた。LINE Payカードは提携するJCBの加盟店約3000万店舗で利用できる。QRコード、バーコードによる決済も可能だが、現状日本には浸透していないため、LINE Payカードが果たす役割は大きいとみられる。
大きな一歩になりそうなものもある。新韓銀行との提携だ。2016年4月22から韓国に7000台以上設置されている新韓銀行ATMから現金(ウォン)として出金できるようになる。為替スプレッド(実際の為替レートと仲介業者が設定する為替レートの差)が既存の仕組みを利用するより少ない。つまり、韓国旅行にいく消費者がより安く両替を楽しめることになる。「介在する者がすくないので、手数料の幅を縮めることができる」。
タイは地元非接触ICと協力:各国に最適化
LINEは4月初めにLINE Pay事業で、タイのBSS Holdingsと資本提携に合意した、と発表している。同社は、タイの公共交通システムや、オフライン店舗の電子決済用非接触ICカード「Rabbit」を提供する。LINEユーザーが多いタイは、商慣習や金融機関などのエコシステムなどが日本とは異なる。久保氏は、日本がモデルケースになるかはわからず、むしろ各国に最適化する方向を目指していると話した。
LINE Payは将来的には生体認証も検討しているという。スクエアは日本展開を加速し、ApplePayにも上陸観測が漂う。さらにヤフー、楽天もECに紐付いた商品開発を進めている。久保氏は「競合に関しても特に意識していない。私たちはユーザーに対して価値を提供できるサービスを構築できるかを重視している。メッセージングアプリとくっついている、日常に密着していることを活かしていく」と語った。
Written by 吉田拓史
Image via LINE Pay