Google のラリー・ペイジと中村天風、共通する成功の教え

本記事は、zonari合同会社代表執行役社長/ビービット マーケティング責任者/電通総研パートナー・プロデューサーの有園雄一氏による寄稿コラムとなります。

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ラリー・ペイジ(Google共同創業者・元CEO、アルファベット社元CEO)に、Googleのミッションを作った意図について質問したことがある。はじめて、Google本社に出張したときのことだ。

Google入社2カ月目だったと思う。当時のGoogle Japan執行役員の佐藤康夫さん(現、アタラ合同会社会長)に連れられて私は、カリフォルニア本社に訪れた。

Google本社キャンパスに着くなり、エリック・シュミット(当時のCEO)や共同創業者のセルゲイ・ブリン、ラリー・ペイジなど経営陣が働くオフィスエリアに佐藤さんは案内してくれた。エリックとラリーは席にいて、「Nice to meet you!」と簡単な自己紹介をした。残念ながら、セルゲイは離席中で挨拶できなかったが、エリックとラリーにいきなり会えただけでも、充分に至福な時間だった。

それから佐藤さんの赴くままに、Googleキャンパス内をウロウロとツアーしトイレ休憩に行った時だった。たまたま、自動販売機エリアでラリー・ペイジがドリンクを購入していて、お互いに「Hi!」と声をかけた。すると、ラリーの方から「Google本社はどうだい?」(How do you like it here?)と新入社員の私に気を遣ったのか、笑顔で話しかけてきた。もちろん私は、「It’s great!」みたいな返事をした。

そして、「せっかくなので、ちょっといいですか?」と質問した。「Googleのミッションがとても気に入っているのですが、どういう意図で作ったんでしょうか?」。あの有名な「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」というミッションのことだ。

すると、ラリーは「とてもよい質問だね(good question!)」と前置きして答えてくれた。

「It’s for Success! And it means a lot of things.」(成功するためさ! それに、たくさんの意味を込めたんだよ。)

私は笑いながら、「That’s right!」(そりゃ、そうだね)と答えたが、内心では、「雑な返事だな。ま、仕方ないか」と感じていた。だがしかし、ラリー・ペイジはあのとき、深い意味を込めて「It’s for Success !」と言っていたのだ。その真意を、そのときの私は、まったくわかっていなかった。

それから数年後、GoogleのAPAC(アジア太平洋地域)戦略チームで、Googleのミッションと戦略、そして、成功の関係性を議論していた。そのとき、私は、あのラリー・ペイジの言葉を噛みしめるように思い出すことになった。

ラリーの言葉「It’s for Success!」は、文字通り、成功するために作ったということだ。それは、まず第一に、Googleが企業として成功するためだ。しかし、その真意は、ほかのところにあったのだ。

中村天風が説く「成功」

「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」。

このミッションは、人類的な「成功」という意味をそのまま反映している。ご存知の方も多いと思うが、メジャーリーガー大谷翔平氏の愛読書として『運命を拓く』(講談社文庫)が紹介され、そのお陰で、著者・中村天風への関心が高まっているらしい(参考記事「あの大谷翔平も心酔する、中村天風とは何者か」)。

中村天風は、成功について述べている。

『サクセス(Success)』という言葉は、直訳すると『成功』ね。しかし、この言葉のもとは『サクシーディング(Succeeding)』という言葉なんだ、英語でね。サクシーディングというのは『受け継いで、続けて生み出しますよ』という言葉なんだ。継承して胚胎するという意味なんだ。

つまり、絶えざる創造への活動がもたらす自然結果を『成功』と言うんだよ。絶えざる創造への活動。同じやっていることでも創造的進化が念頭におかれていれば、その人は限りなく尽きざる幸福感を味わい得るんだ。

(『中村天風一日一話』財団法人天風会著)

経営の神様・松下幸之助や海軍大将・東郷平八郎、平民宰相・原敬などが師事し、京セラ創業者の稲盛和夫氏、日本電産の永守重信会長、H.I.S.の澤田秀雄会長兼社長ら、多くの財界人が座右の書として中村天風の本を挙げている。スポーツ界では、王貞治氏、広岡達朗氏も晩年の天風から直接教えを受け、松岡修造氏も天風から元気をもらっているらしい。

全人類の成功のために

GoogleのAPAC戦略チームでミッションについて議論したとき、この中村天風の教えと同じ話が出た。

Googleのミッションは誰のためにあるのか。「世界中の情報」とは誰の情報なのか。それは、文字通りの、世界中のすべての人々が生み出した情報である。そして、情報やデータとして存在している時点で、それは過去の人々が作り出したものである。

その過去のすべての人々が作り出した情報を、「世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」とは、どういうことなのか。それは、世界中の未来の人々のためである。未来のすべての人々が使えるようにする。アクセスして使う人々は、現在以降に生きる人々だからだ。

全人類のすべての情報を、未来の全人類のために残し、整理し、受け継いでいく。それが、「成功」の意味するところであり、Googleが恐れも知らずに掲げたミッションなのだ。

私は、この議論をしたとき、あのラリー・ペイジとの何気ない会話を思い出した。私は彼の真意がまったく理解できず、軽く扱われたと感じていたのだが、ラリー・ペイジは真剣にその真意を伝えてくれていた。

人類の歴史を振り返ると、権力による情報操作や隠蔽、あるいは、公文書の破棄や焚書など、負の歴史で溢れている。現在でも中国共産党の焚書や安倍政権ですら、公文書改竄などのニュースがある。だが、それでは、人類の成功、創造的進化にはつながらないはずだ。

すべての人々に、すべての情報を残し、整理し、受け継いでいく。それは、Googleという一企業の成功のためだけではなく、世界中のすべての人々のため、全人類の成功のために、隠蔽や破棄することなく、引き継いでいくという宣誓だ。その創業者の強い使命感が、まさに、そのままGoogleのミッションになっている。それを素直に受け入れて社員が猛烈に働く。Googleが成功する訳だ。

道徳・倫理を大事にするべき

もうひとつ、当時のAPAC戦略チームの議論のなかで、付け加えたいことがある。それは、常に更新していくこと。フレッシュネスを重要視した点だ。

たとえば、昨日と今日で同じキーワードでの検索結果は変わっているし、同じ時間でも自宅で検索するか職場で検索するかによって検索結果は異なる。

時間と空間(位置情報)、行動履歴などさまざまな条件によって、検索結果は変化するし、かつ、常にGoogleの検索エンジン、あるいは、AIは、新しい情報やデータを取り込みながら、常時変化、進化している。

いまという瞬間、その刹那も、次の刹那には過去になっている。だから、過去の人々が作り出した「世界中の情報」を整理するには、常に更新する必要がある。そうでなければ、Googleのミッションは絵に描いた餅になる。

このことを、「ethic」(道徳・倫理)という言葉で、議論したのを覚えている。常に変化している世界の情報を、常に収集して情報を更新するのは、Googleの「ethic」(道徳・倫理)である、ということだった。

「毎日更新するのは疲れるから、たまに更新すればいいや」と考えるのは、Googleの道徳・倫理観に反するのだ。手を抜くことはできない。Googleのミッションを果たして成功に導くには、道徳・倫理を大事にするべきだ、と。

道徳や倫理は、成功の必要条件であると論じる人は多い。一発屋的なヒットは別として、継続的に成功するためには、人間性が要求されることに異論がある人は少ないだろう。

安岡正篤が説く「道徳」

昭和期に日本の政財界に影響を与えたといわれる、思想家・安岡正篤は、道徳について以下のように述べている。

宇宙の本体は、絶えざる創造変化活動であり、進行である。その宇宙生命より人間が得たるものを『徳』という。この『徳』の発生する本源が『道』である。『道』とは、これなくして宇宙も人生も存在し得ない、その本質的なものであり、これが人間に発して『徳』となる。これを結んで『道徳』という。よって『道徳』の中には宗教も狭義の道徳も政治もみな含まれている。しかもその本質は『常に自己を新しくする』ことである。殷の湯王の盤銘にいう『苟に日に新たに、日日に新たに、又日に新たなり』という言葉は、宇宙万物運行の原則であり、したがって人間世界を律する大原則でもある。

(『人物を創る―人間学講話「大学」「小学」 [新装版]人間学講話』安岡正篤著)

安岡正篤によれば、道徳の本質は「常に自己を新しくする」ことだ。情報やデータのフレッシュネスが重要だとするGoogleの戦略チームの議論は、この道徳の本質に深く根ざしていた。

おそらく、ラリー・ペイジは、中村天風のことも安岡正篤のことも知らないであろう。だが、成功するためには、「サクシーディング( Succeeding)」が重要であり、それは「受け継いで、続けて生み出しますよ」という中村天風の言葉と同じことを、ラリー・ペイジも考えてミッションを作ったはずだ。

そして、それを実践するにあたっては、道徳の本質を具現化しなければならない。道徳なくして成功はない。「常に自己を新しくする」。常に更新するサービスを提供すること。それが道徳の本質であり、成功の秘訣なのだと思う。

Googleのミッションは、絶えざる創造変化活動という宇宙の本質に抗うことなく、人類が進化発展していくには、どうしたらいいのか。その答えを、Google創業者の言葉で、書き記したものだと思う。

Written by 有園雄一
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