Googleの親会社であるアルファベットは2月1日、2021年第4四半期売上が、前年比32%増の753億ドル(約8兆7050億円)であったと公表した。これらの数字だけを見れば、Googleは順風満帆に見える。しかし、経験豊富なアナリストの見通しによると、この先の12カ月は同社にとって荒れ模様になりそうだ。
Googleの親会社であるアルファベットは2月1日、2021年第4四半期売上が、前年比32%増の753億ドル(約8兆7050億円)であったと公表した。また2021年1年間の総売上も同時に公表され、2576億ドル(約29兆7800億円)と、2020年の1826億ドル(約21兆1100億円)から大幅な増加となった。これらの数字だけを見れば、Googleは順風満帆に見える。
しかし、経験豊富なアナリストの見通しによると、この先の12カ月は同社にとって荒れ模様になりそうだ。オンラインメディアの巨人である同社は、2023年に予定されているサードパーティCookieの廃止に備え、いくつもの難題に取り組まなくてはならない。
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迫りくる嵐を乗り切れるかどうかは、より高度なプライバシー保護を望む一般大衆の要求と、同社のプライバシーポリシーの厳格化は競争相手の弱体化を意図したものではないかというメディア業界の懸念のあいだで、いかにバランスをとっていくかにかかっている。
当然ながら、こうした課題の背景には、対立する規制当局の介入によって、同社の存在そのものが危機に陥る可能性も見え隠れしている。2兆ドル(約231兆円)近いアルファベットの市場価値をけん引するGoogleのメディア帝国は、規制当局との衝突の結果、ばらばらに解体されるかもしれない。
ポストCookie時代のアドレサブルメディア
プライバシーサンドボックスの実験(Googleが行うサードパーティCookieを利用しないアドレサブル広告技術の有効性の実験はしばしば批判を受けている)に関する情報公開はしばらく途絶えていたが、最近になって同社はTopicsという新たな試みを発表した。この手法は、以前に計画されていたFLoC(コホートの連合学習)に代わるものだ。FLoCは、Chromeウェブブラウザを利用するユーザーを、個人単位でトラッキングするのではなく、AIが判断する類似性に基づいてグループ化するものだった。
FLoCは大いに批判を招いた。エコシステム内部の悪意をもった人物が、「フィンガープリンティング」と呼ばれるリバースエンジニアリング手法を用いて、ユーザーの意思に反するトラッキングをおこなう可能性や、(FLoCが)人種・民族、支持政党、性的志向といったセンシティブなオーディエンスカテゴリーに分類する可能性が懸念されたためだ。
批判の高まりを受け、FLoCはEU(欧州連合)では試験運用すら認められなかった(限定的なテストは他地域で実施された)。2018年のGDPR(EU一般データ保護規則)導入により、多くの人々が、EUは世界でもっともデータ保護に厳しい地域であると考えている。
FLoCと異なり、Topicsが提案する広告ターゲティング手法は、参加するパブリッシャーのサイトの1週間分のブラウザ履歴から、個人の関心を5つの話題として抽出するというものだ。トライアルはまもなく開始される予定で、当初は350のカテゴリーからスタートし、徐々に数を増やすという。
公開された保証
Topicsに関する最近の記者会見で、Google Chromeのプロダクトマネージャー担当シニアディレクターを務めるベン・ガルブレイス氏は、プライバシーサンドボックスはGoogle主導ではあるものの、すべての関係者に開かれた「オープンな試み」であると、苦しい說明を展開した。「我々が自社の広告ビジネスを優先してプライバシーサンドボックスの開発をおこなうことはない」と、同氏は述べている。
ガルブレイス氏はさらに、Googleが英国の競争・市場庁(日本の公正取引委員会に相当)に対して、またより広く関係者一般に対して、プライバシーサンドボックスの透明性を高める公約を発表していることにも言及した。そこには(まだ実現してはいないものの)、コンプライアンスを担保する「独立監視機関」の設置、「市場のフィードバックを反映する透明性の高いプロセス」の確立、「Googleのファーストパーティーデータをユーザーのトラッキングに利用しないこと」などが定められている。
Topics導入の発表に対する業界の反応は賛否両論だ。好意的評価としては、FLoCに比べてサードパーティのアドテク企業の参入が比較的容易である点を歓迎する声や、ユーザーに対する透明性の向上を称賛する意見がみられた。
一方、意志決定が依然としてGoogle のChromeブラウザ上で行われることに対しては、懸念する反応が大勢を占めた。
賛否両論
パブリッシャー側の複数の関係者が米DIGIDAYに語ったところによると、オンライン広告の巨人であるGoogleがこのところ彼らに対して積極的に和解を呼びかけているのに反して、パブリッシャーのあいだではGoogle主導のソリューションとの接点を極力減らそうとする動きがあるという。
パブリッシャーと直接提携し、アドテクを通じた収益最大化のサービスを提供する企業、メディアトレードクラフト(Media Tradecraft)でCEOを務めるエリック・レクイダン氏は、米DIGIDAYの取材に対し、多くのパブリッシャーは「大きな変化に対するシンプルな答え」を「憂慮しつつ」待っている状態だが、Googleの発表をただ待つだけでは、選択肢は狭まる一方だと語った。
「どんな規模のパブリッシャーでも、ゲームプランを作成し、社内外の協力体制を構築し、複数のソリューションを利用した堅牢なプランを実現できる」と、レクイダン氏はいう。「ここ数年で大きな変化を経験してきたパブリッシャーなら、今度の大波も乗り切れるはずだ」
Topicsは多くの広告主にとって大雑把すぎるかもしれない
――ウェイン・ブロッドウェル氏(TPAデジタルCEO)
米DIGIDAYは昨年、Google社内で2023年に向けたプライバシーポリシー改革を実質的に取り仕切っているGoogle Chromeチームが、大規模パブリッシャーとの会合を実施し、プライバシーサンドボックスに対する彼らの懸念を把握しようとしていることを報じた。
ルル・フォンマニー氏は、パブリッシャーにアドテクを駆使した戦略の構築と実施を指南するコンサルタントだ。Chromeチームとパブリッシャーの会合に同席した同氏は、多くのパブリッシャーがGoogleの提案に対する代替案を検討していると語る。大不評だったFLoCの見送りを受けて、パブリッシャーはこうした感覚を共有しており、フォンマニー氏によれば、Googleに対して「優位に立っている」と考えているパブリッシャーも少なくないという。
「私が思うに、パブリッシャーはGoogleに見捨てられたと考えていて、プライバシーサンドボックスとFLoCをめぐる騒動のあと、さらにこうした思いは強まった。(現実的な)選択肢があるなら、オプトアウトを検討するパブリッシャーも出てくるだろう」と、フォンマニー氏は語った。
「まずまず良いが、改善の余地あり」というバイヤーの声
一方、メディアバイヤーのあいだでは、Topicsの発表に対する当惑の声が聞かれる。彼らのフィードバックには、「まずまず良い(fine)」という言葉がたびたび登場した。多くの広告主は、Googleが広告ターゲティングに関して正確性よりもユーザーのプライバシーを優先することの影響、とりわけインベントリー(在庫)価格に与える影響を懸念している。
コンサルタント会社TPAデジタル(TPA Digital)のCEO、ウェイン・ブロッドウェル氏は、Topicsはブランドに対し、望んでいるカテゴリーさえ存在すれば、「そこそこの規模のターゲティング」を提供できるだろうと述べる。ただし、現在のTopicsの提案内容は、リターゲティングを主眼とするパフォーマンス志向の広告主にとっては不満の残るものだという。
「たとえば、ファッションブランドが『靴』に関心のあるユーザーをターゲットにしたい場合なら、(Topicsは)便利だろう」と、ブロッドウェル氏はいう。「Topicsは多くの広告主にとって大雑把すぎるかもしれないが、それでも無いよりはずっといい。溜飲を下げる広告主もいるだろうが、すべてはターゲティングオプション次第だ」
一方、メディアリンク(MediaLink)のマネージングディレクター、マーク・ワグマン氏は米DIGIDAYに対し、業界関係者の多くはGoogleがプライバシーサンドボックスで当初掲げた目標を達成するつもりがあるのかどうか、疑わしく思っていると語る。同社がサードパーティCookieの廃止を1年先送りしたことも、疑念に拍車をかけた。
ワグマン氏はまた、Googleがデータ制限に関し断定的な方針を避けていることと、ライバルであるAppleの一方的なアプローチとを比較して、Googleがメディアエコシステム内部の複数の関係者の理解を得るのに直面している困難にも言及した。「実際に関係者全員に適用するのがあまりに煩雑になるので、(プライバシーサンドボックスは)実現しないだろうと考える人は多い」と、同氏は補足した。
今後の試験運用
Topicsの運用計画の発表後、Googleはさらに別のプライバシーサンドボックスの実験計画を明らかにした。アトリビューション・レポーティングツールの2度目のオリジントライアルを、2022年前半に実施するというものだ。
1月27日のブログ記事のなかで、Chromeとウェブのデベロッパーアドボケートであるモード・ナプラス氏は、提案に「コミュニティからのフィードバックに対処して多くの変更を加えている」ところだと述べ、特に重要なものとして、広告パフォーマンスの記録方法の変更をあげた。
新たな提案においては、Chromeブラウザ上でユーザーが広告をクリックすることにより、記録をクライアント側からサーバー側に移すことができる。Googleは、これにより広告主がユーザー個人をサイトを越えて識別することなく、広告パフォーマンスを正確に測定できると説明している。
さらに、同社は以前に発表していたFLEDGEイニシアチブに関してアップデートをおこない、フィードバックを検討したのち、2022年第1四半期の終盤にトライアルを実施する予定であるとした。FLEDGEの骨子は、広告オークションをサードパーティのアドサーバーではなくChromeブラウザ上で管理するというものだ。
RTBハウス(RTB House)でプログラマティックエコシステム成長およびイノベーション担当バイスプレジデントを務めるウカシュ・ウォダルチュク氏は、このアップデートを歓迎するとeメールで述べた。同氏はとりわけ、「マルチSSP(サプライサイドプラットフォーム)オークションは喜ばしい動きであり、ヘッダー入札をサポートし、Prebidコミュニティのイニシアチブへの参加を促すものだ」と称賛した。
ただし、ウォダルチュク氏によれば、依然いくつかの重要な疑問が残されている。サードパーティのアドテク企業は、トラフィックのどの程度がFLEDGEトライアルの対象となるのか、詳細な情報を求めている。また、評価対象となる関係者が多すぎる場合にChromeブラウザがどのように判断するのかについても明らかにされていない。
この問題に関しては、規模を問わずすべての関係者にとって公平な競争の場を提供することが大きな課題となるだろうと、ウォダルチュク氏はいう。「なにしろ、アトリビューションを実行するのが、ブラウザ、広告サーバー、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)、SSPのすべてを傘下に収める主体なのだ」
高まる独禁法訴訟の圧力
Googleのプライバシーサンドボックスの取り組みについて、すべての業界関係者が口をそろえる要望は、Googleの新世界秩序における「公平な競争の場」の実現だ。米国の規制当局も他国の機関にならい、Googleに照準を合わせつつあるなかで、同社はこの重要な問いに説得力のある答えを用意しなくてはならない。
今年1月、Googleはテキサス州のケン・パクストン司法長官が主導する、同社のアドテクスタックを争点とする反トラスト法訴訟を取り下げるよう訴えを起こした。この訴訟については、Google帝国崩壊のきっかけになる可能性を指摘する声もある。
米国でもEUでも、Googleの反競争的商慣行に関する訴訟は今後も目白押しだ。なかでも、パブリッシャーがプライバシーサンドボックスは独占禁止法に違反するという主張を突きつけている事実は重い。明確な展望を打ち出すことは、Googleにとって死活問題だといえよう。
[原文:Key challenges Google must face in what is arguably the most pivotal year in its history]
RONAN SHIELDS(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:長田真)