日本企業のなかでも早くからSNSの活用をはじめたJAL(日本航空)。ソーシャルリスニングツールから取得したデータの効果的な活用、SNSではリーチできない顧客との接点をつくるリアルイベントの参加。JALが大切にするブランド体験を実現するため、さまざまなマーケティング施策にチャンレンジしている。
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日本でも、企業のマーケティング活動におけるソーシャルネットサービス(SNS)の利用が一般的になった。なかでもソーシャルメディアの活用に早くから動きはじめたのがJAL(日本航空)だ。2011年4月に開設した同社のFacebook公式アカウント(日本語版)は、現在160万人以上のファンが存在し、毎回投稿への「いいね!」が1万件前後にのぼる。
「リピーターでもJALを毎日利用する人はほとんどいない。日々お客さまとのコミュニケーションをとるためにも、FacebookやTwitterなど SNSに1日1回は投稿する」と、JALコーポレートブランド推進部 Webコミュニケーショングループ長の山名敏雄氏は言う。「だからこそ情報発信だけでなく、各SNSにおいてその発信に対するお客さまの反応やエンゲージメントをきちんと把握して、次のアクションにつなげることが重要だ」。
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日本航空 山名敏雄氏
また、SNSだけでなく、「ニコニコ超会議」や「ULTRA JAPAN」などこれまでのJALの既存のイメージを刷新するようなイベントへの参加も目立つ。「SNSではリーチしきれないお客さまに社員と直接触れ合う場を提供し、JALを知ってもらい、好きになってもらうのが目的だ」と山名氏は話す。どのようにSNSを活用するべきか多くの企業が模索するなか、試行錯誤を重ねながらデジタルとリアルの両方で、顧客との接点を増やしていく取り組みを進めている。
SNSにおけるブランド価値
「JALブランドの価値は、とにかく『人』だ」と語る山名氏。「搭乗時や機内でのグランドスタッフやCAとのコミュニケーションがその一例だ。飛行機の場合、日用品のように毎日、ブランド体験をすることは難しい。お客さまとの接点が限られるなかで、SNSでのコミュニケーションは重要と考えている」。現在、JALではFacebook、LINE、Google+、Twitter、YouTube、インスタグラム、LinkedInのソーシャルメディアを展開している。
日本でもSNSが普及しはじめた2010年頃。JALは経営破たんし、ブランドイメージが大きく毀損した。2011年からはじまった「新生JAL」のブランド再構築に合わせて、顧客との双方向のコミュニケーションを実現するため、SNSの活用に目が向けられた。
「当初は、JALという会社ではなくJALで働く社員の姿と仕事に対する想いを、お客さまにもお伝えしたいという想いから社内の有志ではじめた。現在は外部ベンダーも一部活用するが、基本、記事投稿はいまも全て自前。SNS広告運用の検証も社内で厳しく精査している」と、山名氏はそのこだわりを強調する。
さらに、外部ベンダーには一緒に仕事をするにあたり、SNS担当社員とJALの工場見学に参加してもらったり、安全啓発センターを見学してもらうという徹底ぶりだ。JALブランドや安全に対する想いを実際に体感してもらい、JAL SNSチームの一員として参画してもらうためのマインドをもってもらうことが目的だ。「外部ベンダーにも、JALブランドを『自分ごと』として捉えてもらうためには必要不可欠だ」と同氏は語る。
社内の共有体制を整備
また、山名氏は「SNSアカウントでJALに関する投稿は毎日1500~2000件ほどに上るが、そのなかでも大事と思われるコメントは数十にのぼる組織の担当者宛てに共有する」と言う。どの企業もSNSや新たなツールを使いはじめることに抵抗を感じるものだ。「まずは、自分たちで使って試行錯誤してみること。さらに、粘り強くお客さまの反響や定量結果を分析することが求められる」。
2017年4月には、米国ドーモ(Domo)社が提供するクラウド型ビジネス最適化プラットフォームを導入、各メディアからのデータを集約して、ソーシャルマーケティング活用のROI最大化をめざしている。「Domoを導入したことで媒体横断型で、施策毎の影響評価などをリアルタイムに把握・活用できるようになった」と山名氏は説明する。
SNSの積極活用を社内も後押しする。デジタル化には予算も必要だが、「まずは購入にどれだけ影響があったかではなく、エンゲージメントなどお客さまにどれだけ影響を及ぼしたかといった指標を見ている」。データ活用には他部署連携もカギとなるが、各部署協力的な体制があるという。
リアルイベントへの参加
一方、「SNSだけではリーチできないお客さまもいる」という課題も見えはじめた。そこで、そのような対象にアプローチするため、ソーシャルメディアと親和性の高いリアルイベントへの参加を決めた。その最初の取り組みがニコニコ動画のイベント「ニコニコ超会議2015」への協賛だ。「その後、ニコ超には毎年出展している。昨年からはエレクトロニック・ダンス・ミュージックの祭典であるULTRA JAPANや東京ガールズコレクションにも協賛・ブース出展した」。イベント参加時に重視しているのは、ターゲティングとブランド価値だという。
「ニコニコ超会議2017」で初音ミクオリジナル楽曲『バタフライ・グラフィティ』に合わせて踊るJALの客室乗務員とWeb販売部の岡本昂之氏。岡本氏は学生時代、ダンスに夢中になり、キレのあるダンスが話題に。ダンスを通して多くの人にJALに興味をもってもらうことができたという。
「参加するイベントを決定する際には、具体的な人物像をイメージできるまで細かいペルソナ設定を行う。さらに、各種イベント出展時のスタッフはすべて社員で揃える。ご来場いただいたお客さまと社員が直接コミュニケーションをはかることが、ブース出展の意義だ」と、山名氏は述べる。このように代理店任せにしない厳しい姿勢が、JALブランドを正しく顧客に伝えるのに欠かせない。
「ネットやソーシャルの世界からリアルなイベントへ、またイベントからSNSへの流入という相乗効果が見られる。どういう想いでSNSやリアルイベントを活用するのか、各ブランドはそこを明確にする必要がある」。
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Written by 亀山愛
Image courtesy of JAL Facebook