Twitterはアプリ内広告をパフォーマンスベースの広告主だけでなく、ブランド広告主にも売り込めるのか? いま、その力が試されようとしている。Twitterのアプリ内広告用アドエクスチェンジであるMoPub(モパブ)もまた、Appleのプライバシーポリシー変更による影響をまともに受けることになる。
Twitterはアプリ内広告をパフォーマンスベースの広告主だけでなく、ブランド広告主にも売り込めるのか? いま、その力が試されようとしている。
Twitterのアプリ内広告用アドエクスチェンジであるMoPub(モパブ)もまた、Appleのプライバシーポリシー変更による影響をまともに受けることになる。FacebookのAudience Network(オーディエンスネットワーク)やGoogleのAdMob(アドモブ)と同じく、TwitterのMoPubもモバイル広告をほかのアプリにも打てるようにするプラットフォームなのだが、Appleのせいで間もなく、それがかなり困難になることが予想されるんのだ。
現在はAppleの広告用識別子、いわゆるIDFAを収集し、それを利用してユーザーを特定しているが、今年9月以降、ユーザーがオプトインしない限り、これができなくなる。MoPubやMoPubで広告を売るパブリッシャーにとっては、凶報にほかならない。いや、良い要素がないわけでもない――AppleはMoPubらアドテク企業に対し、キャンペーンの効果測定およびアトリビューションの代替手段を提供するとしている。とはいえ、Twitterにしてみれば気休め程度のものでしかなく、そこで同社はアプリ内広告の強化に乗り出した。
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IDFAがない以上、MoPubはApple独自の広告効果測定およびアトリビューション手段、SKAdNetworkを使うしかなくなる。SKAdNetworkはプライバシーフレンドリーなAPIで、広告がインストールにつながったか否か、そして同アプリのインストール後の限定的な「ポストバック(postback)」イベントの有無は通知するが、ユーザーレベルの具体的データはいっさい公開しない。また、そうしたコンバージョンデータはすべて、Appleのプロプライエタリな環境外へは出さない。
「我々の立場でいえば、SKAdNetworkをサポートする必要があるのはわかっている。Appleが提供するトラッキングと効果測定のソリューションなのだから」と、MoPubデマンド部のトップ、ジョン・イーガン氏はいう。「これは重大な変化だ」。
実際、その重大性に鑑み、イーガン氏と氏が率いるチームは、先月にAppleが変更を発表してからわずか3週間に、ほかのパブリッシャーや広告主、効果測定会社らと計54回も協議を重ねた。「新たな効果測定プラットフォームに対するサポート体制の構築には、多大な労力が求められる」とイーガン氏。「だがいずれにせよ、明らかにそれは必要なことであり、我々はそれを実行することになる」。
短期的な回避策はとらない
MoPubの2020年度のプランを見れば、同社がAppleのプライバシーポリシー変更によって生じうる混乱に対して先手を打ちたいと考えているのは、驚くにはあたらない。同プランの大部分は現時点まで、MoPubのマーケットプレイスで購入したキャンペーンはPCでのそれと同様に効果測定およびアトリビューションできると、広告主に示すことに割かれている。それはMoPubがこれまでできていなかったことであり、同社はこの1年半、パブリッシャーおよび効果測定会社と力を合わせ、広告主にこのレベルのデータを提供するために必要なデータの表面化に努めてきた。そして、そのプランの屋台骨がほかでもない、アプリの垣根を越えた広告パフォーマンスのトラッキングを可能にするIDFAだった。
ただ、「Appleの新ルールの条件だけでなく、それを明示すると決めるに至った精神にも敬意を払う必要がある」と、イーガン氏はいう。
そのため、MoPubはApple機器に打つ広告の識別子、ターゲティング、およびアトリビューティングに関して、短期的な回避策をとるつもりはないという。
「網の目をくぐってアプリをトラッキングするような、怪しげな回避策はとりたくない」とイーガン氏。「我々はさまざまな関係者と協力し合い、何が良くて何が良くないのか、つまり許されるのか、とくにフィンガープリンティングに関して理解に努めている」。
文脈ターゲティングに期待
デバイスフィンガープリンティング――IPアドレスから使用中のウェブブラウザのバージョンまで、一定の情報をアドテク企業が融合し、ユーザーの機器を特定する技術――は、業界の専門家がIDFAを利用したターゲティングの代替手段として挙げている。しかし、Appleは2018年以来デバイスフィンガープリンティングを制限しており、これが有効な回避策になる見込みは薄い。
とはいえ、MoPubが使える代替手段がないわけではない――いわゆる、コンテクスチュアルターゲティングだ。
「コンテクスチュアルをベースにしたターゲティングを中核に置く体制の構築は、MoPubにとってひとつのチャンスになる。つまり、消費されているコンテンツの種類にもとづいて広告主がアプリにターゲット広告を打つ手法だ」と、米独立系リサーチ会社フォレスター(Forrester)のシニアアナリスト、コリン・コルバーン氏はいう。「MoPubが採択できる非IDターゲティング手法はすべて、Appleの広告識別子が使えなくなるなか、大いなる成長の可能性を秘めている」。
アプリ内広告の定説を覆す
このように、Appleの新プライバシーポリシーを巡ってさまざまな混乱が起きているが、イーガン氏はそれでも、マーケットはそのうちに落ち着きを取り戻すだろうし、これは2018年のEU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)適用後の状況と、基本的には変わらないと確信している。
「Appleの識別子を巡って騒動が起きているが、その多くはGDPR適用の際に目にしたものとよく似ている。あのときは、トラフィックを同意が得られているか否かで二分する必要に迫られた」とイーガン氏。「だが、我々のバイヤーの多くは[GDPR施行後に]それと違うタイプのトラフィックを利用する術を見出した。今回のAppleの件についても、そのうちに同じようなことが起きると考えている」。
Apple機器におけるアプリ収益化に関する混乱の最中、MoPubはあえて、さらなる広告費をアプリに引き寄せるプランを推し進めようとしている。一般に、アプリ内広告に魅力を感じるのはユーザーにインストールして欲しいアプリを持つ広告主であり、ゲームデベロッパーはその代表格だ。無論、そうした広告費がMoPubにとって非常に重要であることに変わりはないが――親会社Twitterは先頃、ゲーム関連広告主を専門に扱うモバイルアドテクベンダー、クロスインストール(CrossInstall)を買収した――同社には、さらに規模の大きなブランドキャンペーンを手にできる可能性もある。より多くの広告主が予算を振り替え、より多くの人々がアプリを使用しているいまは、とくにそう言える。
「アプリ内広告はブランド広告には不向きであり、アプリのインストールといった、パフォーマンスベースの広告主にのみ有用だ、という定説がある」とイーガン氏。「我々は今年度、その論調を変えることを主眼のひとつとしている。その見方はいまや、根本的に間違っているからだ」。
インベントリのさらなる充実化
ほかのプログラマティックマーケットプレイスと同じく、MoPubもインベントリ(広告在庫)のさらなる充実化にフォーカスしている。そこで、同社は分析会社アップ・アニー(App Annie)と共同で、広告主がレビュースコアといったパラメータにもとづいてターゲット広告を打てる体制の構築に取り組んでいる。またこの取り組みにより、同社のモバイルアプリ版ヘッダービディングに参加するアドテクベンダーの数も増えている。MoPubの統合型オークションでは、複数のアドテクベンダーがアプリ内インベントリに対して横並びで入札できる。ただし、これも完璧なオファーというわけではない。アドテクベンダーのなかには、こうしたアプリ内広告販売法を良しとしないところもあるからだ。
「こうした形でのインプレッション販売から恩恵を受ける理由がない広告ネットワークが存在するのは事実であり、それが完全な形での統合オークションの誕生を阻むボトルネックとなるだろう」と、イーガン氏はいう。
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)