動画配信サービスは、観ている者が発狂しそうになることも気にせず、視聴中に何度も同じ広告を繰り返すことがある。それはアドテクノロジーが洗練されたいまも、オンラインで動画を視聴していると、クロスプラットフォーム、クロスデバイス間を問わず、同じ広告が繰り返し表示されるのは変わらないようだ。その背景について取材した。
観ている者が発狂しそうになるほどに、動画ストリーミングコンテンツは、視聴中に何度も同じ広告を繰り返すことがある。
アドテクノロジーが洗練されたいまも、クロスプラットフォーム、クロスデバイスを問わず、同じ広告が繰り返し表示されるのは変わらない。アニメ「サウスパーク(South Park)」の最新エピソードをHulu(フールー)で観ても、コメディ・セントラル(Comedy Central)のWebサイトを観ても、Apple TV、PC、スマートフォンのどれで視聴しても、コマーシャルスポットで自動車保険企業ガイコ(GEICO)の広告が放映されることも珍しくないのだ。
番組が終わるころには、ガイコへのいら立ちが募り、自動車保険を解約して、公共交通機関を利用してやろうかという気になるユーザーもいるかもしれない。ストリーミング動画サービスが、いまだにこのような形で人々に広告を浴びせかけている理由について、そしてそれを防ぐために何が必要なのかを考察する。
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原因の一部は、技術的な問題
動画広告企業トレマー・ビデオ(Tremor Video)で製品および戦略担当のシニアバイスプレジデントを務めるケリー・ペーターセン氏は、パブリッシャー側と広告主側の技術は常に同期しているわけではなく、ときに混乱してユーザーのIDを見失うことがあるという。ユーザーのIDが混乱状態になったり、ユーザーが広告をブロックしていたり、クッキーをオプトアウトしていたりすると、コマーシャルタイムが終わるたびに表示頻度の上限がリセットされる可能性があるのだそうだ。
また、広告をブロックしているユーザーにリーチするため、コンテンツ所有者が広告とコンテンツを結合することがある。その結果、広告をブロックし、かつクッキーをオプトアウトしているユーザーは追跡がされず、意図的にではないが、同じ広告を繰り返し閲覧する羽目に見舞われるとペーターセン氏は指摘する。
DMP(データ管理プラットフォーム)企業クラックス(Krux)のデータ戦略担当バイスプレジデント、クリス・オハラ氏によると、別の問題として、広告主がたくさんのシステムからデータを取り出している場合、データの管理を間違う場合があるという。
また、動画広告プラットフォームのスポットX(SpotX)でグローバル収益担当シニアバイスプレジデントを務めるシーン・バックリー氏は、「(プログラマティック販売とダイレクト販売を)ミックスする場合は実に複雑になる」と語る。「広告の一部はパブリッシャー側に管理を任せるが、いまはほかにバイサイドのDSP(デマンドサイドプラットフォーム)を通じて取引する広告がある。このふたつをいかに調和させるかを考え出すのが大きな課題だ」。
技術的な問題はたしかに存在する。しかし、時代遅れになった技術を利用しているパブリッシャーと広告主が多い一方で、そうした問題を過去のものにする技術も存在しているという点に関しては、識者たちの意見は一致していた。また、この問題は技術というよりもプライオリティの問題だという点でも、ほぼ完全に意見が一致している。
過剰な目標インプも原因の一端
技術的な修正では、超大型の掲載申し込みを引き受けるパブリッシャー側の文化の解決にはならないと語るのは、広告追跡サービス、アドヤッパー(AdYapper)の創業者兼CEOのエリオット・ヒルシュ氏だ。
「動画会社は、自社のオーディエンスで広告を1~2回表示するだけでは履行できないようなインプレッション数の注文を引き受けている」とヒルシュ氏は述べる。「よいインプレッションの数は限られており、目標の数字を達成するには、よいインプレッションのなかに悪いインプレッションを押し込むことが必要になる。この連鎖に関係するほぼ全員が、質よりも量に動機づけられ、何らかの形で共犯者になっている」。
これは、非常に正確にオーディエンスセグメントを狙うパブリッシャーの場合は特に、掲載の注文を履行しなければという思いが問題になる恐れがあると指摘するのは、アドテク企業コンバーサント(Conversant)の製品マネジメント担当バイスプレジデント、ウェイン・ヤング氏だ。ターゲットの基準に合致する人物が見つかると、パブリッシャーはそうした人に対して、「注文されたインプレッションを、できるだけ早く吐き出してしまおうとしているのかもしれない」という。
デジタルエージェンシー、エッセンス(Essence)の共同創業者で最高製品責任者(chief product officer)を務めるアンドリュー・シェビア氏は、同じ広告を殺到させるとROIが落ちるという調査がさらに進まない限り、こうした行為が続く可能性は高いと話す。これに対し、アドターゲティング企業シミュールメディア(Simulmedia)のCEO、デイブ・モーガン氏は、テレビ番組の編成担当者なら調査するまでもなく、従来型のリニアTVでコマーシャルタイムのたびに消費者に同じ広告を同じ順序で当てるようなことは決してやらないと語る。
これを受けて、「(オンライン動画は)要するに、可哀想な放送業界の継子のようなものだ」とモーガン氏。「放送業界はオンライン動画を重要なビジネスとは見ていないため、カスタマー体験に力を入れていない。小さな配信にすぎないと考えているのだ。放送業界のトップがウォール街でオンライン動画配信企業の動向に注目しているにも関わらず」。
どのように解決するべきか?
識者たちは、技術的な問題を克服するため、動画を配信する側が技術を更新してダイレクト広告とプログラマティック広告の両方に対応したプラットフォームを採用することを提唱した。
加えて、きちんとしたサンプル量が得られる大きな広告主は、広告頻度の上限について徹底した調査を要求するべきだと、エッセンスのシェビア氏は語る。同氏によると、エッセンスが実施した調査では、広告の表示が多すぎる消費者に対して、その表示を抑制する独自のアルゴリズムで、アクションあたりのコスト(CPA)を9%削減できたという。
調査の積み重ねと技術開発によって問題の一部を解決できれば、あとは広告主が何を優先させるかに帰着すると、アドヤッパーのCEO、ヒルシュ氏は話す。
「これを解決するには、ブランドとエージェンシーが、頻度と透明性と最適化について見直すことだ」と、ヒルシュ氏。「そのうえでブランドは、広告支出をどのように調整すべきか判断する必要がある。結局のところ、燃料となるのはブランドのお金なのだから」。
Ross Benes (原文 / 訳:ガリレオ)
Image via Thinkstock / Getty Images