ほかのテック業界と違って、苦境のアドテク企業は、たとえ成長の見込みがない場合でも、すぐに倒産することはめったにない。彼らは「消える広告費」の一部を受け取りながら、さまざまなビジネスモデルに乗り換えて、資産の一部を売却できるまで食いつないでいるのだ。
アドテク業界には現在5000もの企業がひしめくが、その多くは死刑宣告された囚人のような状況だ。
ほかのテック業界と違って、苦境のアドテク企業が――たとえ成長の見込みがなくとも――すぐに倒産することはめったにない。彼らは「消える広告費」の一部を受け取りながら、さまざまなビジネスモデルに乗り換えて、資産の一部を売却できるまで食いつないでいる。
今回の「ネットの謎」シリーズでは、そうした苦境に立ったアドテク企業がなかなか倒産しない理由を探ってみよう。
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表向きは順調な企業
新興テック企業の90%が失敗するという一般通念は、アドテク企業にも当てはまる。ただし、アドテク業界では、内情は火の車だが表向きは順調な企業が多いので、失敗例を見つけるのがより困難になる。
エージェンシーのゼニス・メディア(Zenith Media)の予測によると、世界全体の広告支出は2017年に5500億ドル(約61兆円)を超える見込みだ。それだけの大金が動いているので、多くのアドテク企業には1億ドル(約110億円)超の売上ランレートに達するチャンスがある。
アドリサーチ会社インダストリー・インデックス(Industry Index)のプレジデントを務めるジョナサン・シェイビッツ氏は、デジタル広告支出の増加がアドテク企業の生き残りに役立つ理由に言及して、「上げ潮のときには、すべての企業が浮上する」と語る。
こうした企業が資金不足に陥っても、メディアバイイングを控えて資金の流出を遅らせることができるため、倒産を先送りすることが可能なのだ。
ビジネスモデルの転換
アドテク企業は、ビジネスモデルがうまくいかなくなるたびに、さっさと乗り換える。場合によっては、これが実際に奏功することもある。デジタル広告測定・監査企業モート(Moat)は、広告クリエイターとブランドを結びつけるクラウドソースのマーケットプレイスを廃止したのち、効果測定の覇者になった。一方でインデックスエクスチェンジ(Index Exchange)は、アドネットワークから転身して、人気のヘッダー入札ベンダーになった。
ほかのアドテク企業も、ビジネスモデルの乗り換えでかろうじて踏みとどまっている。トレマー・ビデオ(Tremor Video)の 株価は、4年前の半分を下回り、今年に入ってCEOが辞任。だが、デマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)を売却してサプライサイドプラットフォーム(以下、SSP)にフォーカスすると発表して以来、株価が8月1日の1株当たり2.05ドルから9月11日の3.87ドルへと上昇した。同社がこうした乗り換えを実施したのは、アドテク各社が透明性を求める声の高まりに対応するためDSPとSSPのどちらか一方を選択する時流に沿うものだ。
さまざまな業界の企業が不健全な経営から脱却するために進化しているが、「アドテクのように、規制が少なく販売サイクルがきわめて短い業界では、転身がもっとも手っ取り早い」と、データプラットフォーム、エムパーティクル(mParticle)のCEOを務めるマイケル・カッツ氏は指摘する。
はびこる惰性との闘い
マーケターは、彼らが利用しているベンダーが競合他社と基本的に同じサービスなうえに、割高な料金を請求してくる場合でさえ、すぐにはほかのベンダーに切り替えないこともある。なぜなら、新しいプラットフォームを統合して、同僚に利用方法を教えるのに多大な労力を要するからだ、と投資銀行プログレス・パートナーズ(Progress Partners)でバイスプレジデントを務めるデイビス・ロズボロー氏は指摘する。同社はVC部門を通じて、メディアマス(MediaMath)やディスティレリー(Dstillery)、インテグラルアドサイエンス(Integral Ad Science)などのアドテク企業に投資してきた。
マーケターらが高い利ざやを取るマネージドサービスベンダーから、利ざやの低いセルフサービスベンダーに切り替えてDSPの淘汰が進んでも、マーケターが資金を投じる先を手数料の低いベンダーに移すのが遅れることで、利ざやの高いベンダーもしばらく生き残ることになる。
一方で、技術スタックの調整で遅れをとるパブリッシャーにも罪がある。アドテク企業アドバータス(Advrtas)でパートナーシップ部門を率いるロイド・ベリー氏は、廃止されたオークションベースのオンライン広告取引プラットフォーム「ライト・メディア・エクスチェンジ(Right Media Exchange)」のようなベンダーに、一部のパブリッシャーがいまだに広告データを呼び出していると指摘する。
「広告データ呼び出しのコードを書き換える作業は、誰も好まない作業だからだろう」と、ベリー氏は言い添えた。
Ross Benes(原文 / 訳:ガリレオ)