Facebookは8月25日にさまざまなショッピング関連のアップデートを発表した。だが、インスタグラムが初のショッピングツールをローンチした2016年当時から、ファッション美容ブランドが問題視してきた、カスタマーデータへアクセスできないという点は変わらないようだ。
Facebookは8月25日にさまざまなショッピング関連のアップデートを発表した。発表されたのはFacebookショップ(Shop)のロールアウト、既存機能の強化、インスタグラムチェックアウト(Instagram Checkout)のベータ版リリース時期の詳細などだ。
だが、インスタグラムが初のショッピングツールをローンチした2016年当時から、ファッション美容ブランドが問題視してきた、カスタマーデータへアクセスできないという点は変わらないようだ。
これについては、ブランドもインスタグラムチェックアウトへの参加時にカスタマーデータの取得をあきらめている。同サービスはすべてがアプリ内で完結する無駄のない購入ルートが強みなためだ(※現状、日本においては、チェックアウトの利用はできない。決済はすべてインスタグラムの外部で行う必要がある)。
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今年初め、米DIGIDAYの姉妹メディアであるグロッシー(Glossy)に対し、あるブランドマーケターは「カスタマーの注文時に必要十分なデータだけを得ることができるが、それだけだ」と明かしている。また別のブランド役員は、チェックアウトの利用から自社ショッピングサイトへのリンクを貼る方針に変更した。だがインスタグラムから提供されるデータは結局ウェブサイトのクリック数、訪問者、オーディエンス指標、リーチ、インプレッションであり、変化はなかったと語る。
ブランド側としては、注文および出荷確認メールの送信や、その情報を活用したカスタマーとの関係構築といった手段でカスタマーのショッピング体験をコントロールできるわけではない。現時点で、ブランドがカスタマーと購入後にやりとりするには、カスタマー側でチェックアウト内でブランドのメール登録を行う必要がある。
得られるデータが少なかろうと
これはインスタグラムに限った話ではない。人気のプラットフォームやマーケットプレイス、小売企業に共通する話として、ユーザー層があまりにも膨大で、得られるデータが少なかろうと利用しない手はないのだ。たとえばナイキ(Nike)のように直販に向けて大きな動きを見せるブランドもある。だがナイキほどの超大手でもなければ、特に新型コロナウイルスのパンデミック以降、直販に向けて大規模な投資を行うのも難しいというのが現実だ。
Facebookは今回、Facebookショップで企業の成果測定に役立つ新たな分析機能を近日公開すると発表している。Facebookの商品管理ディレクターを務めるジョージ・リー氏に同機能の詳細を尋ねたところ、「主にショップのパフォーマンスを改善し、ブランドの売上向上につながるようなデザインや構造まわりの機能になるだろう」と述べている。つまり個別のカスタマーデータの改善ではないということになる。
だがブランドからすれば、こういった問題点があってもなお、インスタグラムの販売チャネルやツールには利用せずにはおれない魅力があるのだ。ファッション美容ブランドにとって、インスタグラムのもつ大きな力は決して無視できない。特に小規模なブランドにとって、インスタグラムがもたらす売上や知名度といったメリットは、自社のECチャネルと比べて圧倒的だ。
「オンラインのショッピングモール」
Facebookの最新の統計によると、インスタグラムでは90%以上のユーザーが少なくとも1社の企業をフォローしている。そして毎月1億3000万人以上のユーザーが、投稿をタップして商品のタグを確認している。これは購入意欲のあらわれとして無視できない数字だ。さらにインスタグラムのユーザーの8割は同アプリが購入に役立っているとしている。
インスタグラムは、ショッピング関連の新機能を実装することで、「オンラインのショッピングモール」としての立ち位置をさらに確固たるものにしようとしている。7月にローンチしたインスタグラムショップは、新たなブランドの発見や好きなブランドのおすすめ商品、テーマ別の商品表示にいたるまで、パーソナライズされたショッピング体験を実現するサービスだ。そのポテンシャルは非常に大きい。今年後半には、ショップがタブとして実装される。「発見」を押さなくても、直接ショップにアクセスできるようになるのだ。
またFacebookの発表では、インスタグラムライブも3月から4月にかけて利用率が7割増となっており、ビジネスチャンスになりそうだ。インスタグラムチェックアウトと同様、ライブショッピング機能も「数週間のうちに」全ブランドを対象にロールアウトされる。そして7月にトランスジェンダーの美容インフルエンサー、ニキータ・ドラガン氏がチュートリアルとなるライブ配信を行ったところ、商品ページは3万3000インプレッションを獲得し、オーディエンスがカートに入れた商品数は合計5000個に達している。
そしてインスタグラムショッピングの商品責任者レイラ・アマディ氏によれば、ブランドのロイヤリティプログラムやポイントシステムも将来的にチェックアウトに統合予定とのことだ。
ブランドたちも非常に乗り気
実際、ブランドも非常に乗り気だ。創業7年のジュエリーブランド、ウルフ・サーカス(Wolf Circus)の創業者フィオナ・モリソン氏は、同社のオンラインショッピングサイトでは買い物客が何をクリックしてカートに入れたか、何を買わなかったかといった行動データを重視している。
だが同氏はインスタグラムチェックアウトにはローンチ次第、参加するつもりだという。同氏は「そういったデータはいらないし、5%の販売手数料も気にならない」と語る。「もしカスタマーに良いショッピング体験を提供できるのであれば、それに越したことはないのだ」。
ウルフ・サーカスは規模としては小さいが、急激に成長しているブランドだ。9月末の時点で社員15名となる予定の同社は、昨年の売上は200万ドル(約2.1億円)で、前年度の2倍に伸びている。この成長ペースは同社にとっては普通のことだという。モリソン氏はインスタグラムの力を信じている。同社のインスタグラムアカウントは8万2000人のフォロワーを有する。大半は、2016年の大統領選挙で同社の胸のネックレスがバズったことで獲得したフォロワーだ。同週に、同社はこれまでで最高の売上を達成している。
「チャンスとみて飛びつくだろう」
現代的なニットウェアを手掛けるブランド、PH5を創業したCEOのウェイ・リン氏によれば、同社のオンライン収益の3割がインスタグラム上の宣伝によるものだという。さらにスマホでショッピングする人が増えているなか、特に「小規模でも収益性の高いブランドはインスタグラムチェックアウトをチャンスとみて飛びつくだろう」と同氏は予測する。
また、リン氏はインスタグラムでより満足いくデータを得るには、広告を出すことが近道だと語る。「インスタグラム自体はあまりデータを渡してくれないが、インスタグラムの広告マネージャを活用すれば、オーディエンスのエンゲージメント、コンバージョン、パフォーマンス、年齢層、ジェンダーといった情報を獲得できる。だがデータの扱いに精通することで、もっとデータが欲しくなるのは間違いないだろう」。
[原文:Instagram’s shopping updates fall short on the data front]
JILL MANOFF(翻訳:SI Japan、編集:長田真)