インスタグラムのファッションパートナーシップの責任者のエバ・チェン氏に、米DIGIDAYの姉妹サイトであるグロッシー(Glossy)は、インスタグラムでの役割について、またファッション業界が大きく変化するなか、プラットフォームがどのような役割を果たしているのかについて、インタビューを行った。
エバ・チェン氏のインスタグラムのフィードは、トップファッションデザイナーやモデル、人が羨む彼女のワードローブ、限りなく紹介されるハンドバッグと靴のコレクションでいっぱいだ。そのなかに、ビューティープロダクト、スナック、スイーツ、そして彼女の家族の写真が散りばめられている。
それは、素晴らしい生活のように見える。しかし、その一方で、インスタグラムのファッションパートナーシップの責任者として、インスタグラムのフィードがどうあるべきかという宣伝役を彼女は買っているのだ。
『ティーン・ヴォーグ(Teen Vogue)』や『エル(Elle)』でキャリアを積み、雑誌『ラッキー(Lucky)』の元編集者だった彼女は、出版業界を去り、インスタグラムにジョインして1年と少し経った。だが、仕事内容はそれほど変わらないと主張している。
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「私が雑誌の編集者をしていたとき、私の役割はフォトグラファー、スタイリスト、モデル、ライター、エディターと協力して、雑誌のためにそこから最高の結果を引き出すことだった。現在、仕事の一部は同じことをしているが、彼らのインスタグタムとストーリーを伝えるために仕事をしている」と彼女はいう。
64万7000人のインスタグラムフォロワーを擁する37歳のチェン氏は、ソーシャルメディア界の重要人物だ。米DIGIDAYの姉妹サイトであるグロッシー(Glossy)は、チェン氏のインスタグラムでの役割について、またファッション業界が大きく変化するなか、プラットフォームがどのような役割を果たしているのかについて話し合った。
――ファッションブランドの「See Now Buy Now (ショーで見てすぐ買える)」という方針へのシフトと、その業界の透明性の向上にインスタグラムは一役買っていると思うか?
インスタグラムが存在する以前からファッションサイクルはすでに転換期にあった。概して、小売業界が流れを変えていた。ネッタポルテ(NET-A-PORTER)やショップボップ(ShopBop)、Amazonなどのeコマースサイトがファッションのサイクルや、あるものを目にしたらそれをクリックして2日後には手元に届くという期待に変化をもたらした。
――それらのアプリはファッションショーに対するブランドのアプローチを変えたのか? 今日でも何百万人もの人々が世界中でショーを見ている
インスタグラムがショーのプロダクションバリューを変えたのかどうか、あるいは「いまやインスタグラムのためだけに、ショーが設定されているのではないか」と、よく聞かれる。
私のお気に入りのショーはマーク・ジェイコブスが10年前に行ったものだ。『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』を演奏するマーチングバンドがフィナーレを飾り、メタリックゴールドとシルバーの紙吹雪が天井から降ってきた。それが、いま実施されたら、人はインスタグラムのために設定されたというかもしれないが、10年前にすでに起きている。
――トミー・ヒルフィガー氏のNYファッションウィークでのショーは壮観だった。カーニバル、ファッションショー、「See Now Buy Now 」。まるでマーク・ジェイコブス氏のショーをさらに強化したみたいだ
私はそのショーが大好きだ。10年前にそれをできるブランドがあっただろうか? あったかもしれない。でも、実際にそうしただろうか? 分からない。
しかし現在、人々は一般消費者のことをより考慮し、彼らを巻き込んだ経験をどう作るかを考えていて、インスタグラムがそれに一役買っていると、私は考えている。ファッションは、いつも視覚的なショー・アンド・テル(show-and-tell)業界だ。それはいつも派手にやってきた。その点が変わったとは思わないが、インスタグラムによって、もっと多くの人にそれを見せることができる。
――ファッションをコントロールする人間が誰なのか、ソーシャルメディアはどのように変わってきたのか?
現在、誰もが意見をいう資格をもっていると、私は思う。人々はこれまでも意見をいう権利をもっていたが、それを共有できるプラットフォームが常にあるわけではなかった。
現在、ファッションショーで、デジタルエディターが紙媒体の専任エディターの横に座り、その横にはカリスマブログ「スージー・バブル(Susie Bubble)」を運営するブロガーのスサンナ・ラウが座わり、その横には単に最前列に座っているだけのモデルがいるかもしれない。ここでいいたいことは、彼らはみな、そのショーについて非常に異なる視点をもつだろうし、それは良いことだということ。
――つまり、権威者の意見というものはこれからはなくなる?
ファッションについての意見をもつ権限が誰にあるのかという点で、「唯一の正しい考えしか存在しない」といっている人は、あまり現代的ではないと私は感じる。私は両側を見てきて知っている。ブロガーたちは、自分たちがしていることを驚くほど一生懸命頑張っている。彼らはショーごとに服を変えているだけではない。時代は変わっており、誰もが議論に参加する余地があると私は考えている。
――インスタグラムに関してはブランドは何をうまくやっているのか?
彼らはオーディエンスの関心を引き戻している。メーキャップブランドのグロッシアー(Glossier)を例にあげると、フォロー数は32万人で、何百万人ものフォロワーをもつコスメブランドに比べると大した数ではないが、質問をすれば、必ず返事がもらえる。
インスタグラム用のオリジナルコンテンツを制作することも重要だ。5つの口紅を白色背景でeコマース用に投稿したり、女子の虚栄心をくすぐり、どの色が好みかを問うように、カウンタートップに同商品をおいて写真を撮ることも可能だ。ひとつはフォロワーとのやり取りを促し、もうひとつは購入を促す。
――ファッションブランドがソーシャルメディアで直面している最大の課題は何か?
人材。ブランドはインスタグラムにより多くのリソースを割くための人材が十分でない場合が多い。金銭的なリソースをいっているのではなく、判断力のある人材が必要であるということだ。たとえば、ニューヨークに拠点を置くハンドバッグブランドだったら、石畳の通りやカフェで、そのブランドのバッグをもっている女の子たちの写真が必要だ。それのアイデアは、どこからか調達しなければならない。
――「インフルエンサーバブル」の話がある。それは弾けると思うか?
そうは思わない。彼女たちはフォロワーのあいだでは信じられないほどの影響力を持っていると思う。インフルエンサーとは、ブランドが契約したスポーツ選手、モデル、文筆家のようなもので、まったく異なるオーディエンスだ。インフルエンサーは、彼女たち独自の強い影響力をもつ異なる種類のスポークスパーソンとして認識することが重要だ。
――より広範囲のメディア情勢ではインスタグラムの立ち位置はどこにある?
インスタグラムはみんなの1日のなかの共通のスレッドであり、心の底にある思いだ。トラディショナルメディアに取って代わるとは思わないが、自分がやっていることについて盛り上げ、そのメッセージを増幅するのに役立つだろう。
かつて従来型の紙媒体だった企業で、迅速に対応して、どこにでも存在感を発揮している企業は、ほかよりも多少うまくやっている企業といえる。というのも、メディアということになると、人々が目を向けることを彼らは理解しているからだ。従来のメディアには、いまだに多くの敬意が払われている。
Jemma Brackebush(原文 / 訳:Conyac)