食料品配送プラットフォームのインスタカート(Instacart)が株式公開の準備を進めるなか、一部のアナリストや食料品専門家たちは、同プラットフォームの長期的な存続可能性に欠陥があることを指摘している。
2012年に創設されたインスタカートは、米国内での食料品のオンライン販売において、非常に優れたユーザー体験を生み出すことで、長年にわたり評判を築き上げてきた。このプラットフォームは、米国の食料品業界の85%以上に相当する8万店舗以上の店舗にまたがる1400以上の小売バナーと提携していると、同社はS-1届出書に記している。しかしパンデミックのあとで中核事業である食料品事業成長が低迷し、それ以降、広告事業を構築するために組織全体で力を注いできた。また、商品ラインを拡大し、処方箋医薬品や化粧品など、食料品以外も扱うようになった。
しかし、クローガー(Kroger)とアルバートソンズ(Albertsons)の合併の可能性、独自の店頭受取モデルを模索するほかのスーパーマーケットとの競争激化、ほかのリテールメディアネットワークの成長は、インスタカートのビジネスモデルが、一般市場で障害に突き当たる可能性を示唆している。
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
食料品配送プラットフォームのインスタカート(Instacart)が株式公開の準備を進めるなか、一部のアナリストや食料品専門家たちは、同プラットフォームの長期的な存続可能性に欠陥があることを指摘している。
2012年に創設されたインスタカートは、米国内での食料品のオンライン販売において、非常に優れたユーザー体験を生み出すことで、長年にわたり評判を築き上げてきた。このプラットフォームは、米国の食料品業界の85%以上に相当する8万店舗以上の店舗にまたがる1400以上の小売バナーと提携していると、同社はS-1届出書に記している。しかしパンデミックのあとで中核事業である食料品事業成長が低迷し、それ以降、広告事業を構築するために組織全体で力を注いできた。また、商品ラインを拡大し、処方箋医薬品や化粧品など、食料品以外も扱うようになった。
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しかし、クローガー(Kroger)とアルバートソンズ(Albertsons)の合併の可能性、独自の店頭受取モデルを模索するほかのスーパーマーケットとの競争激化、ほかのリテールメディアネットワークの成長は、インスタカートのビジネスモデルが、一般市場で障害に突き当たる可能性を示唆している。
フルフィルメント内製化の増加
コンサルティング企業グローバルデータ(GlobalData)の小売担当マネージングディレクターを務めるニール・サンダース氏の見方は、インスタカートは本質的に、ほとんどの食料品業者が本来自社で行うべきこと、すなわち食料品のオンライン注文に対するフルフィルメントを行なっている、というものだ。
「問題は、自社でフルフィルメントを行い、細かい制御を可能にしようと考える小売業者が長期的に増えていくだろうということだ。これらの小売業者は、その業務をより効率的に行う方法を見つけだすだろう。そして、それによって新たな成長要因が得られる。これは長期的にインスタカートにとって不利に働く可能性がある」と、同氏は述べている。
コマースコンサルタンシーのコンフルエンスコマース(Confluence Commerce)の創設者であるブライアン・ギルデンバーグ氏は、インスタカートの最大の競合相手が食料品店自身であることに同意している。
「やがては、買い物客にインセンティブを与え、店舗で店員が食料品を選び、買い物客がそれを受け取るモデルに転換していくことになるだろう。これは食料品店にとって、家庭に配送するモデルよりもはるかに安価だからだ」と、同氏は述べている。
インスタカートも、リスク要因として同じ懸念を示している。同社は、総合的に成長は、「新しい顧客、小売業者、ブランド、買い物客を、商品の効果的な価格設定などの方法で惹きつけ、その一方で、既存の顧客、小売業者、ブランド、買い物客との関係を維持・拡大していく」能力にかかっていると述べる。
成長をけん引する広告事業
さらに、現在インスタカートの成長を主導している広告事業は、まだ比較的新しいものだ。インスタカートの広告事業は2023年の最初の6カ月に24%成長し、4億600万ドル(約589億円)に達した。
インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)の小売・eコマース担当プリンシパルアナリスト、アンドリュー・リプスマン氏は、インスタカートは上場直前のFacebookと同様のリスクに直面していると語る。Facebookが株式を公開する直前に、ゼネラルモーターズ(General Motors)の最高マーケティング責任者は、Facebook広告には効果がないため、すべての広告を撤退させると述べた。もちろんFacebookは、その批判を跳ね返し、広告事業で独占的な地位を築き上げた。
「インスタカートにも同様のリスクが存在すると私は見ている。大手小売業者がインスタカートとのパートナーシップを解消すると発表したらどうなるか。とても悲観的なニュースになり、インスタカートにとって否定的なナラティブを生み出すことになるだろう」と、同氏は述べている。
最終的にFacebookの広告収益が回復したのは、同社が小規模から大規模まで多数の広告主を抱えていたため、「大規模な広告主のひとつを失っても復元力があった」からだ。
インスタカートは徐々に、セルフサービスアクセスや関連機能によって、ブランドがインスタカートの広告キャンペーンで、新しい特売や、プロモーション、インセンティブを行いやすくした。同社は2022年11月にショッパブル広告を開始し、ショッパブルディスプレイ、ショッパブル動画、ブランドページなどさまざまな形式に拡大してきた。
アルバートソンズとクローガーの合併の可能性
ほかに懸念がある分野は、広告事業を除いた場合、インスタカートの総取引額の成長率が、2020年以降、収益の伸びを下回っていることだ。総取引額は2021年末の時点で前年同期比20%増の249億ドル(約3兆6100億円)だった。これが2022年末には成長率が15.7%に減少し、288億ドル(約4兆1800億円)になった。
アルバートソンズとクローガーの合併もインスタカートに損害を与える可能性があると、ギルデンバーグ氏は語る。アルバートソンズはインスタカートの現在のビジネスにおいて極めて大きな部分を占めているためだ。「また、クローガーのインスタカートに対する姿勢は、アルバートソンズとは大きく異なっている。クローガーにはインスタカートの行っている事業の一部を行えるインフラを持っており、この問題をサードパーティーに依頼するよりも、社内で問題を解決しようとする傾向がある」。
また、インスタカートはアルバートソンズとクローガーの合併計画のような、大手小売パートナーの合併が、「このような小売パートナーとの契約交渉に影響したり、当社製品の利用率を下げたり、最終的に既存の小売業者との関係が終了する可能性がある」と届出書に記している。
一方で、クローガーもまた、自社のリテールメディア事業の成長をめざしている。リテールメディア部門であるクローガープレシジョンマーケティング(Kroger Precision Marketing)は、デジタルでの買い物客のエンゲージメントが第1四半期に13%増えたと報告した。
「収益に対して利益が非常に少ない」
サンダース氏は、インスタカートの食料品配送ビジネスが適切なやり方ではない可能性と、ビジネスで利益を出すため広告に過度に依存していることに懸念を示している。「収益に対して利益が非常に少ない。そして、その多くは食料品によるものではないのだろう。その多くは、広告やそのほかのものだ。中核となる食料品配送事業は、利益が出ていないのではないか」と同氏は述べた。
つまるところ、インスタカートの問題は、ウォルマート(Walmart)やクローガーのような方法で自社の将来性をコントロールしていないことだとサンダース氏は述べる。「少数の小売業者からの支援に強く依存しており、これはどう考えても永久に保証されるものではない」。
[原文:Instacart’s dependency on advertising and key retail partners signals a bumpy road ahead for its IPO]
Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Instacart