[ DIGIDAY+ 限定記事 ]サブスクリプションの動画配信サービスが、テレビの未来として大きな注目を集めてきた。だが、テレビの未来にとって広告も無視できない存在だ。無料の配信動画サービスは数こそサブスクには及ばないが、競争は同じくらい激しいものとなっている。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]2019年度、ロク(Roku)の収益が同社初の10億ドル(約1100億円)超えとなる見込みだ。ロクといえば、いまでもセットトップボックスとUSBサイズのドングルの販売がもっともよく知られているが、同社の本年度収益は同社プラットフォーム上の広告販売が3分の2を占めると予測されている。
これまでロクは、プラットフォームで広告付きアプリを配信し、テレビネットワーク、デジタルパブリッシャーや動画配信企業から3割の広告枠を得ていた。だが野心的な同社には、もうひとつの重要な広告戦略がある。それがロクチャンネル(The Roku Channel)を通じた映画やTV番組の無料配信だ。同社によると、この無料配信はリーチ面でいえば同社の全チャンネルでトップ5に入る規模だという(具体的な数字について同社は明かしていない)。
ロクのプラットフォーム事業部門のシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるスコット・ローゼンバーグ氏は「完全無料の広告付きコンテンツに力を注いだのはユーザーの声に耳を傾けた結果だ。ロクについて検索する際に、無料コンテンツの有無についての検索がとても多かった」と語る。「実際、当社のプラットフォームでは無料の広告付きチャンネルが大きな伸びを示している」。
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サブスクの動画配信サービスを行うNetflixやディズニー(Disney)、ワーナーメディア(WarnerMedia)といった企業がテレビの未来として大きな注目を集めてきた。だがバイアコム(Viacom)がプルートTV(Pluto TV)を3億4000万ドル(約374億円)で買収したのにはじまり、Amazonやロクが新しい動画サービスへ投資し、投資家もスマートテレビへの関心を高めているなか、テレビの未来にとって広告も無視できない存在だ。無料の配信動画サービスは数こそサブスクには及ばないが、競争は同じくらい激しいものとなっている。
大きな野心を秘める各社による競争の激化
今年1月、バイアコムは無料動画配信サービスのプルートTVを約374億円で買収した。プルートTVは既存テレビ局の100チャンネル以上を有し、ライセンス契約の映画やTV番組、デジタル動画番組を多数抱えている。
これだけでもバイアコムの無料配信動画分野への強い野心がうかがえるが、さらに同社の広告販売部門を統括するCOOのジョン・ハーレー氏はプルートTVが「中期的に見て、バイアコムに10億ドル(約1100億円)の収益をもたらす」としている。
プルートTVや2017年9月にサービスを開始したロクチャンネル以外にも、Amazonもまた、同社の右肩上がりの広告事業における重要な分野として無料動画配信を位置づけている。1月に同社は傘下のIMDbによる動画配信サービス、「フリーダイブ(Freedive)を立ち上げた。同サービスはFire TV(ファイヤーTV)のユーザー向けにライセンス契約の映画およびTV番組を配信するサービスで、広告付きの無料動画も間もなく配信される予定だ。
ウォルマートも傘下のブードゥー(Vudu)で無料動画配信に参入し、ズモ(Xumo)やトゥビテレビ(Tubi TV)も同分野に取り組んでいる。さらにテレビメーカーのサムスン(Samsung)やビジオ(Vizio)も、プルートTVから技術のライセンス供与を受けて自社スマートテレビ用にホワイトラベルの動画配信アプリを提供している。テレビネットワーク各社からも参入が相次いでいる。CBSはニュース、スポーツ、エンタメニュースの無料動画3チャンネルの配信を開始した。
現在、各社の提供する無料動画配信サービスは右肩上がりだ。ロクチャンネルはリーチ面で同社チャンネルのトップ5に入るほか、バイアコムのプルートTVは、1月の買収時点で1200万人だった月間ユーザー数がいまや1600万人となっている。CBSニュース(CBS News)が5年前に開始したニュース配信ネットワークであるCBSNは、現在1日あたり100万人以上に動画を配信している。YouTubeもテレビ機器を通じた動画配信が1日あたり2億5000万時間に達すると公表している。
CBSニュースデジタル(CBS News Digital)でエグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるクリスティ・タナー氏は「当社アプリを用いたスマートテレビは非常に大きな伸びを見せている」と語り、サムスンやビジオをはじめとするスマートテレビ提供各社の視聴数は3桁成長となっており、「ここまで急速に利用が高まっているのは嬉しい驚きだ」と語っている。
このように多くのプラットフォームとデバイスにおける利用が増えれば、そこでの広告に注目が集まるのも当然の流れだ。実際、今年のはじめに米調査会社のマグナ・グローバル(Magna Gloval)は2019年のOTT広告が39%成長し、38億ドル(約4180億円)規模に達すると予測している。ローゼンバーグ氏によると、ロクにおける広告付き番組の伸びは(ユーザー数と消費規模で)サブスクサービスよりも大きいという。
マグナ・グローバルのグローバルマーケットインテリジェンス担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるビンセント・リターン氏は「参加企業すべてが右肩上がりとなっている」と指摘する。
サブスクリプション動画市場はもうすぐ頭打ちに
無料動画配信サービスを提供する企業に参入理由を聞けば、返ってくる答えはひとつだ。「サブスク動画市場は飽和しつつある」。Netflix、Hulu(フールー)、Amazonはすでにその地位を確立しており、ディズニーやワーナーメディア、NBCユニバーサル(NBCUniversal)が新規参入を進めている(NBCユニバーサルの場合、テレビの有料会員には無料でサービスを提供する予定)。
ハーレー氏は「消費者からすれば、ここからさらにどれくらいサブスクと契約して金を払いたいと思うだろうか。ニールセン(Nielsen)によれば全世帯の14%がアンテナを使って視聴しているのだ。2014年時点では10%だった」と指摘する。「各社がサブスクサービスに次々に参入しているが、さまざまな指標を見れば、消費者はこれまでにないほどにサービスの価値を重視していることがわかる」。
デロイト(Deloitte)が3月に発表した調査によると、現在アメリカの消費者は平均で3種類の動画配信サービスと契約しているという。一般的に、契約するサブスクサービスの数が3、4を超えると「サブスク疲れ」がおきて、それ以上契約したがらない人間が大半だとされている。この壁を超えてサブスク契約を取り付けるのはおそろしいほど困難なのだ。プラットフォームや番組を提供する各社が無料動画配信に注目しているのは自然な流れともいえる。
「YouTubeが(YouTube Premiumのオリジナルコンテンツから)方針変更したのもうなずける」と、ハリウッドのある映画スタジオ役員は語る。「サブスクは厳しい。(広告付き動画が)大きな伸びを見せているのもそのためだ」。
Amazonとロク、プラットフォームが投じる大きな影
デジタル広告市場ではGoogleとFacebookとの競争は避けられない。だが広告付き動画配信であれば、広告市場を牛耳る大手の数は少ない可能性がある。
現在最大手はHuluで、年間広告収益は15億ドル(約1650億円)となっている。ロクの昨年のプラットフォーム事業収益は4億1690万ドル(約458億6000万円)だった。Amazonも、いまだ検索広告のほうが収益は大きいとはいえ、動画広告を実際の購入につなげられる可能性があるため、テレビ広告への取り組みを強めている。
動画制作企業や、プルートTV、ズモ等の無料動画配信サービスにとって、Amazonとロクは配信企業であると同時に競争相手でもあるのだ。IMDbのフリーダイブとロクチャンネルは視聴者や広告収益を奪い合う競合相手だ。だが同時に、動画配信サービスにとってロクとAmazonのFire TVはオーディエンス獲得のために必要な存在となっている(AmazonはFire TVの月間ユーザーは3400万人、ロクは同社サービスを利用する月間アクティブユーザーは2910万人と発表している)。
バイアコムのハーレー氏は、Amazonやロクの無料動画配信サービスとの競合に懸念はないと語る。競争は確かに存在するが、番組制作企業にとっても配信プラットフォームにとっても利用者数を増やすために協力しあう互恵関係になっているという。
「結局のところ、大切なのは番組だ」と、ハーレー氏は指摘する。「ユーザーはどこで配信されるかを重視しているわけではない。当社はプルートTVの番組ラインナップに自身を持っている。他社も訴求力のある番組を用意してくるだろう。いずれにしても、この業界はコンテンツが中心なのだ」。
ローゼンバーグ氏によると、ロクチャンネルはロクの広告事業における重要なサービスとなっているが、それと同時に広告戦略全体における一要素でもあると語る。同氏はロクの広告販売において、ロクチャンネルがもっとも重要な存在となっているかは明かしていない。だが、ロクにとって広告体験を自由に管理でき、広告収益の取り分も大きいロクチャンネルが重要なのはあきらかだ。
ロクはロクチャンネルへ今後も継続的に投資していく予定だ。現在ロクは、無料の映画やTV番組以外にもABCニュース(ABC News)やニュージー(Newsy)といった既存テレビ局から20チャンネル以上を提供している。そして間もなく同社はニュース分野以外にも、既存テレビ局のエバーグリーンコンテンツを新たに提供する予定だという。
「まだまだ拡大の余地はあるはずだ」と、ローゼンバーグ氏は語る。「無料や割引コンテンツの需要は、まだまだ満たされていないのだから」。
Sahil Patel(原文 / 訳:SI Japan)