2020年、コロナウイルスの世界的流行はファッション業界の大部分に変化をもたらしたが、その中で大きな成長を遂げたのが、人気のリセールマーケットプレイスのStockXだ。新たな顧客層の開拓や国外市場での拡大など、同社の成長はさまざま要因があるが、そんななかでどのようなマーケティング戦略を取っているのか。
2020年、コロナウイルスの世界的流行はファッション業界の大部分に変化をもたらした。
その変化は業界にとって大半が「打撃」だったが、人気のリセールマーケットプレイスであるストックX(StockX)は、2020年の変化を通じてさらに強く、さらに大きくなったことが業績からわかる。同社は米国を拠点とし、米国のストリートカルチャーに馴染んだ顧客をターゲットにしているにもかかわらず、その成長の大部分が国外、特にヨーロッパと日本から来ていた。同社のマーケティングチームによると、この成長を推進したのは、彼らがコントロールできないさまざまなマクロ要因に加えて、各国に配置された現地チームを使った、構造化されたマーケティング戦略だという。
米国外の急成長を支えるもの
ストックXのCMOであるディーナ・バーリ氏によると、そもそも米国外市場における成長は2020年の目標だったが、2021年は米国以外の市場がさらに重要になるだろうという。2020年に同社の総売上高は100%近く増加したが、米国外での成長はその倍以上だった。同社における海外売上高とは、米国外を拠点とする売り手による売上と定義されており、現在の流通取引総額の30%以上を占めている。
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バーリ氏によると、ストックXのマーケティング戦略はパンデミック以前からほとんどデジタルに比重を置いていたが、今では完全にデジタルだという。マーケティング部門の構成は、米国における一般的なマーケティング手法とテクノロジーに関する深い知識を持つコアチームがあり、さらに各地域に点在する小規模チームによって補完されている。
「私たちのアプローチは経験の幅が広く、大規模なマーケティングチームとして『馬力』を持つ米国チームを母艦のように活用しながら、現地チームによってニュアンスや文化的背景とのバランスを取るものだ」とバーリ氏は語る。「現地チームが地域ごとの詳細な特徴や差異についてしっかりと理解していることが鍵となっている。各国で顧客に支持されている主要なインフルエンサーは誰なのか、といった情報は、米国オフィスにいるだけでは得にくい」。
ストックXの米国外におけるマーケティング戦略は、基本的にSEOと広告からの流入で始まる。これは新規顧客の大半が検索を通じてブランドを見つけるからだ。その後、マーケティングチームは地域ごとのカルチャーにフォーカスしたマーケティングに取り組む。昨秋に香港のラッパー、ジャクソン・ワンとおこなったカプセルコレクションのキャンペーンがその一例となる。そして、戦略の最終ステップを締めくくるのはリターゲティングだ。ここでは単発のユーザーをリピーターに変えることを目的としている。
カテゴリーを越えた購買行動
現在ストックXはイギリス、中国、カナダ、オランダの4カ国に拠点を持っている。バーリ氏によると、海外における成長と女性ユーザーの増加、ガジェットを購入する人々による利用の増加が相まって、2020年のオーディエンス数は増加したという。最新の統計では売り手の60%が2020年に初めて販売したユーザーであり、年間の流通取引総額は18億ドル(約1890億円)であった。2020年12月の2億7500万ドル(約290億円)の資金調達で同社の評価額は28億ドル(約2940億円)に達した。
直近の同社のマーケティング戦略に大きな影響を与えたのが、2020年に起きた新しいトレンド−−コレクターズアイテムやガジェット(多くの人にとってストックXは、相応の額を払いさえすればプレイステーション5を手に入れられる、信頼できる唯一の場所だった)などの新しいカテゴリーが誕生したことだ。
バーリ氏は、人々がカテゴリー別に分断されているのではなく、常にカテゴリーを越えて買い物をしているという証拠が確認できており、現在のマーケティングにはそれを反映しているという。「私たちはカテゴリー別だけでなく、プラットフォーム全体を俯瞰し顧客を捉え始めている」と同氏は述べる。「スニーカー、ガジェット、ゲーム。これらはカテゴリーこそ異なるが、すべて同じ目標の一部でもある。顧客はこれらすべてにエンゲージメントを見せている。そのため、今でもスニーカーやゲームなどのプロダクト中心のクリエイティブを制作する一方で、これらすべてのカテゴリーを含むカルチャーコンテンツをより多く撮影してきた」。
テレビは広告ミックスのごく一部
しかし、同社のマーケティングのコンテンツが幅広いカテゴリーも包括する方向に移っても、実際のマーケティングミックスはあまり変わらない、とバーリ氏は指摘する。ほぼ完全にデジタルで、主にリスティング広告とインスタグラム広告にフォーカスしている。同氏によると、米国ではストリーミング広告の初期段階の実験をいくつかおこなっているという。インプレッションを追跡することができ、ほかのプラットフォームでもテレビ視聴者がリターゲットできることに特に満足していると述べた。ストリーミングサービスをはじめとするテレビは広告ミックス全体のほんの一部にすぎないが、今後も「実験」を続けるようだ。
2021年、同社は海外市場における成長に注力していくという。バーリ氏が同社で仕事を始めて16カ月、ストックXでの勤務期間の大半を、顧客獲得のための効率的なマーケティング構造を構築するために費やしたと語る。「新しい市場と新しい顧客層の成長に伴い、結果を出せる戦略を見つけたのではと手応えを感じている」。
[原文:Inside the marketing strategy that fueled StockX’s international growth]
DANNY PARISI(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)