ストリーミング戦争は、「広告付き」サービスの市場へ : AVOD に集まる新しい期待

ウォルト・ディズニー・カンパニー(The Walt Disney Company)やワーナーメディア(WarnerMedia)などの大手メディアが、新しいサブスクリプションストリーミングサービスで、D2C(Direct to Consumer:ネット直販)に進出しようとしている。ディズニーとワーナーメディアは、何十億ドルもの資金をつぎ込んで自社のサービスを展開するはずだ(Appleも同じだ)。これから起こるであろうサブスクリプションストリーミング動画をめぐる戦いが、多くの注目を集めているのも無理はない。

だが、ストリーミング動画の世界では、さらに熾烈なもうひとつの戦いが起こりつつある。まだ、テレビ広告に流れている700億ドル(約7.8兆円)の広告費をめぐる争いだ。

マグナ・グローバル(Magna Global)によると、OTT(オーバー・ザ・トップ)はテレビ視聴の29%を占めているが、現時点でテレビ広告予算の3%しか獲得していないという。ますます多くの消費者がコネクテッドテレビに押し寄せるなか、ハイテク大手、デバイスメーカー、テレビネットワークなどさまざまなプレイヤーが、OTTエコシステムに流れ込むことが確実視される広告費の分け前を求めて、サービスを展開している。

ただし、OTT市場が非常に大きな可能性を秘めているとはいえ、成功を保証されている動画配信企業はほとんどない。

増加を続けるOTT広告

コネクテッドテレビで視聴される動画の数は増えているいま、広告主がこの流れを追いかけるのは当然のことだ。

マグナ・グローバルの推定によると、OTTベースの広告の収益は2018年に27億ドル(約3000億円)に達し、前年同期比で54%の成長となった。この伸びはマグナ・グローバルの当初の予測を上回るものだ。同社は当時、2018年のOTTの広告収益を22億ドル(約2450億円)と予測していた。同社の新しい予測によれば、2019年には39%増の38億ドル(約4240億円)、2020年には31%増の50億ドル(約5580億円)になるという。

現在、OTT広告市場のリーダーはHulu(フールー)とロク(Roku)だ。すでに両社は、かなりの規模の広告ビジネスを展開している。Huluは2018年に15億ドル(約1670億円)の広告収益を上げ、前年同期比で45%の成長を達成した。一方、ロクは「プラットフォームからの収益」で約4億1600万ドル(約464億円)の利益を生み出したが、このほとんどは広告から得られたものだという。

「広告インプレッションの増加は、コネクテッドテレビで動画を視聴する人々によってもたらされている」というのは、マグナ・グローバルでグローバルマーケットインテリジェンス担当EVPを務めるビンセント・リターン氏だ。「我々が見たところ、この増加はおもにふたつの要因からにもたらされている。ロクのようなOTTスペシャリストによる広告販売と、コネクテッドテレビのようなOTT環境でしか見られない広告フォーマットの拡大だ」。

米国のあるケーブルネットワークの幹部によれば、2019年にはOTTの広告収入がデジタル加入者による収入を上回る見込みだという。

この幹部は、ディズニーとワーナーメディアが計画しているストリーミングサービスに触れたうえで、「このような超大手(のサブスクリプションストリーミングサービス)がNetflix(ネットフリックス)に挑戦するようになれば、状況はたちまち変化するだろう」と語った。「ただし、我々はSVOD(定額制動画配信)にまだ大きな疑問をもっている。いまは、SVODの成長の可能性を見きわめながら5年間の予算予測を行っているところだが、再来年の成長についてはかなり控えめに考えている。AVOD(広告付き動画配信)のほうが、成長の道筋がはるかにはっきりと見えるように感じられるのだ」。

市場ではサービスが乱立

現在、OTTに流れる広告費の大部分をHuluとロクが独占しているが、新しい参入者が続々登場している。

たとえばYouTubeは、テレビでのYouTube動画の視聴時間が1日2億時間を超えていることを武器に、マーケターへの売り込みを図っている。アップフロントの時期(テレビネットワークと広告主が1年契約の取引を交渉する時期)に広告を売り込むには、テレビが欠かせない要素なのだ。同社は今年はじめて、YouTube TVをほかのインベントリー(在庫)から独立したオプションにした。Amazonも、動画インベントリーを販売する専門スタッフを募集したり、スポーツのライブ放映権の入札に参加したりしている。また、エンターテイメントやニュースを無料で見られる広告付きストリーミングアプリを開発中だ。

テレビネットワーク各社も、広告付きOTTへの投資を行っている。CBSは、ニュース、スポーツ、エンターテイメントニュースの3つの無料動画ストリーミングサービスを展開し、広告付きサブスクリプションサービスを手がけるCBSオールアクセス(CBS All Access)とともに、ストリーミングアプリのネットワークを構築している。米DIGIDAYが以前報じたように、これらのサービスをすべて合わせると、CBSの年間広告収益は「数億ドル」になる。一方、バイアコム(Viacom)は2019年初頭、100を超えるリニアチャンネルを擁する無料ストリーミングサービスでのプルートTV(Pluto TV)を、3億4000万ドル(約379億円)で買収した。バイアコムは、自社のブロードバンド専用加入者向けのオプションサービスとして、プルートTVをケーブルテレビ会社や衛星放送事業者に売り込んでいる。CEOのボブ・バキッシュ氏は、プルートTVの買収後に行われたCNBCとのインタビューで、こうした取り組みを同社の「主要な」配信戦略のひとつだと語っていた。

ほかにも、ズモ(Xumo)やトゥビテレビ(Tubi TV)といった広告付き動画ストリーミングサービスや、ビジオ(Vizio)やサムスン(Samsung)などのテレビメーカーが手がけるブランデッドサービスがある。そればかりか、Hulu、YouTube、ディレクTV(DirecTV)、スリングTV(Sling TV)などが手がけるバーチャルなライブTVサービスまであるのだ。

「4年前(のテレビ業界)には慎重に取り組むという選択肢があったが、いまの彼らに選択肢はない」と、ロクでプラットフォームビジネス担当SVP兼GMを務めるスコット・ローゼンバーグ氏はいう。「彼らは消費者を追いかけなければならない。そしてその消費者は、OTTに姿を見せるようになっているのだ」。

プラットフォームがさらに大きな支配力をもつ可能性

デジタル広告の世界では、パブリッシャーがGoogleとFacebookのおこぼれを争っている状況だ。動画配信企業や競合の動画サービス企業のなかには、コネクテッドTVの世界も同じことが起こるのではないかと恐れているところもある。ロクとAmazonが、OTTの広告費でますます多くのシェアを獲得しているからだ。

ロクとAmazonが、広告収益をさらに増やすために新製品の開発を進めてきたことは間違いない。ロクによれば、同社が2017年に立ち上げた「ロクチャンネル(Roku Channel)」は、1万を超える映画やテレビ番組を配信し、ロクのプラットフォームでトップ5に入るアプリになっているという。一方のAmazonは、「フリーダイブ(Freedive)」という独自の広告付きストリーミングサービスを公開し、ライセンス提供を受けた映画やテレビ番組を配信している。また、「Fire TV(ファイヤーTV)」向けの新しい動画アプリを開発しているという。

テレビネットワークやパブリッシャーがロクとAmazonでアプリを配信する場合、このプラットフォーム2社がそれらのアプリで利用可能な広告インベントリーの30%を販売する契約になっている(一方、米国でOTT広告最大手のHuluは、ユニークなポジションを築いている。2500万人の有料サービス加入者と月間5500万人の広告付き配信視聴者を抱えているため、プラットフォームがHuluのアプリ内の広告を販売するのを阻止できる力があるのだ)。

ロクとAmazonが今後、巨大な広告ビジネスをさらに拡大するため、他社と競合する独自の広告付きサービスを最優先したとしても不思議はない。両社は米国で最大のコネクテッドテレビデバイス企業なのだ。Amazonは月間アクティブユーザーが3000万人以上、ロクは2700万人以上おり、大勢の人々に自社のサービスを提供できる。

「我々はまだ、こうしたOTTへの移行の初期段階にいる。我々が利益を上げるのは、チャネルパートナーが利益を上げたときだ。また、我々はロクチャンネルから利益を得ている」と、ロクのローゼンバーグ氏は述べている。

「このようなエコシステムでます行うべき仕事は、マーケターをOTTに引き入れることであり、我々はそこに重点を置いている。広告支出が視聴に追いつく必要があるのだ。そして、そのときがこのエコシステムにいる我々全員にとって、本当のチャンスとなる」と、ローゼンバーグ氏は付け加えた。

一方、Amazonやロクなど複数のプラットフォームをまたいでスケールを拡大できるテレビネットワークや動画パブリッシャーなら、OTTの広告支出の取り分を増やすことはまだ可能だと、広告エージェンシーのスウェルシャーク(Swellshark)のCEO、ニック・パッパス氏は指摘する。

「だからこそ、Huluは絶好のポジションにいるのだ。Huluを見ている人が、Apple、ロク、Amazonのどれを利用していようが関係ない。Huluは大きなスケールを確保しており、クロスデバイスで販売ができるからだ。Amazonとロクはまだ、そこまでのことはできていない」と、パッパス氏は語った。

さらに、Amazonとロクの動画インベントリーは、オープンアドエクスチェンジで入手できないと、パッパス氏はいう。「どこか特定のプラットフォームに縛られるのではなく、視聴者がどこでコンテンツを見ていようと、彼らにリーチできる統一的な手段のほうが、私にとっては魅力的だ。複数のプラットフォームにまたがって動画のスケールを拡大できる企業であれば、大きなメリットが得られる」と、パッパス氏は語った。

Sahil Patel(原文 / 訳:ガリレオ)