Amazon が本腰入れる、「 D2C ブランド」獲得戦略の中身

ブランド各社にとってAmazonのビジネス手法は、ブラックボックスとも呼ばれてきた。だが、Amazonの新興ブランドグループは、提携するブランドに対し情報公開を進めている。

マイク・グリロ氏は、グラビティ・プロダクツ(Gravity Products)の創設者兼CEOだ。同社は重みをもたせた、心を落ち着かせる作用のある毛布の「グラビティブランケット」で知られている。グリロ氏は2017年に、Amazonの新興ブランドグループチームからAmazonで販売しないか声をかけられたという。同チームはグリロ氏に対し、カスタマーがAmazonでグラビティブランケットの商品を検索していること、そして同社商品が見つからず競合他社の商品を購入していることを告げた。グリロ氏によると同社は、2018年にAmazonの新興ブランドグループに選ばれ、Amazonプライムデー(Prime Day)やサイバーマンデー(Cyber Monday)に同社から積極的にプッシュしてもらえたという。この年に、同社の全売上の実に15%にあたる数億円がAmazonによってもたらされた。

「Amazonの担当者からこうした大規模セールについて毎月のように聞かされた。当社のようなAmazonに提供して日が浅いブランドにとっては、自分たちだけでは不可能な売上が達成できる非常に重要なイベントだ」と、グリロ氏は語る。「自社を担当してくれる社員がいない場合、Amazonのプログラムについて教えてもらえることもないし、商品を宣伝してもらえることもない。まるでブラックホールのようなシステムだ」と指摘する。

新興ブランドのプログラムはさまざまな名前で行われているが、いずれも期間は1年で、D2C(Direct to Consumer)スタートアップの商品をAmazonで販売開始させるための取り組みだ。このプログラムに参加したブランドは、ほかの販売業者が利用できないレベルのカスタマーサービスやアカウント管理が可能になるという。さらに専門のアカウント担当者がつく。こうした担当者は、サードパーティの業者の担当者よりも裁量権が大きく、Amazon社内での地位も高い。ブランドは担当者から毎日のように商品の最適なリストやコンテンツの最適化、キーワードや広告方法について助言をもらうことができる。さらに新商品を販売したときはAmazonにおけるパフォーマンスについてフィードバックまで受けられる。

何よりも重要なのが、新興ブランドに選ばれればプライムデーやサイバーマンデーといった売上が伸びるホリデーシーズンに商品がカスタマーの目に触れるための方法をAmazon直々に無料で教えてもらえるのだ。さらにタイムセールや当日セール、クーポンといった小規模なセールスイベントでも、アカウント担当者が社内マーケティングの意思決定者にブランドについて伝え、露出や売上を増やす試みが行われる。

過去2年間に渡ってAmazonはD2Cブランドを引き込むために時間とエネルギー、リソースを費やしてきた。その取り組みの一貫として、AmazonはこれまでD2Cブランドに対してブランドに関連するトラフィックと検索データを提示し、カスタマーがいかにブランドに興味を持っているかを示してきた。だがブランド側は、特定のカスタマーデータの欠如や自社ブランドの戦略をコントロールできなくなるという懸念を抱いていた。多くのブランドがAmazonの提案(資本投資や買収も含め)を断ったのも、独立性を維持するためだ。

だがAmazonの新興ブランドグループに参加したブランドから聞こえてくる声は異なる。専門のアカウント担当者はAmazon社内で融通をきかせてくれる。また在庫の問題があればすぐに教えてくれるため、数週間に渡る在庫切れリスクを回避できたという声もある。そして何よりAmazonのマーケットプレイスについて徹底的に教えてくれるため、Amazonで素晴らしいスタートを切ることができ、創設者はAmazonで達成しうることの大きさを目の当たりにして衝撃を受けるという。

「なんでも」を捉え直す

Amazonは投資や買収、ブランドとの独占契約を重視するようになっている。新興ブランドグループも、Amazonとより密な関係を築きやすくなっていると語る。プライムデーに新商品のAmazon限定販売を開始したあるブランドは、今年後半にさらなる新商品の発売について話し合っているという。また新興ブランドグループとしてAmazonとのコラボ商品を発売した別のブランドも、Amazonから6カ月間の共同所有とその後の所有権買い取りについて話を持ちかけられたとのことだ。

いずれのブランドも、ブランドと商品はAmazon限定とはなっているが、それはほかの小売企業に限った話であり、ブランドの自社ECサイトでは販売できる契約となっているという。

ブランドのAmazon戦略に関するコンサルを行うエージェンシー、オーカパシフィック(OrcaPacific)のCEOジョン・ジオーソ氏は、AmazonがD2Cブランドへの投資を重視するようになった理由について「なんでも買える店」を自負する同社が、そのあり方を再考したためだと指摘する。

「Amazonのコアバリューは価格、便利さ、そして品揃えだ。そしてこのなかでもっとも重要なのが品揃えだろう」と、同氏は語る。「かつては最大の品揃えといえばウォルマートやターゲット(Target)、コストコ(Costco)で売っている全ブランドの商品があればよかった。だが、いまではインスタグラムで見かけるブランド、友人からの口コミで聞いたブランド、新しいスタートアップなどの商品も求められる。Amazonが『世界最大の品揃え』を標榜する限り、こうした商品も取り揃えていかねばならないのだ」。

またにAmazonは限定商品や外部企業と提携したブランド立ち上げにも力を入れている。いずれもプライベートブランドのような自社での商品開発の負担を減らしつつ、競合他社との差別化が行える戦略だ。ある販売業者は新興ブランドグループについて、ブランドとの限定販売契約など、より踏み込んだ提携関係を結ぶための「繁殖地」だと表現している。

「得られる価値が大きいとは思えない」

だがAmazonが考える優先順位がどうであれ、Amazonで売ることは決して簡単なタスクではない。新興ブランドグループの契約は1年限りだ。対象もAmazonで新ブランドを立ち上げる場合やAmazonでこれまで販売してこなかったブランドに限られる。1年の契約が終われば、その後は同規模の取り組みを自社でこなしていく必要がある。ジオーソ氏は、こうした魅力的なブランドによってAmazonは収益規模と注目度をさらに向上させようとしていると指摘する。あるエージェンシー関係者はAmazonの収益増は1000万ドル(約10.8億円)以上になるとしている。

これについて、まるでおとり商法のようだと表現する販売業者も存在する。新興ブランドグループの大半は、新興ブランド担当者が外れたあとは戦略アカウントマネージャーを頼ることになるが、戦略アカウントマネージャーの社内における影響力は新興ブランド担当者には及ばない。Amazonの戦略事業開発チームに参加した化粧品ブランドを担当しているあるエージェンシーのCEOは、同プログラムは宣伝における露出、高級化粧品などのカテゴリーへの掲載、カスタマーサービスにおける優先措置などを確約していると語る。だが、商品リストに関する問題については、アカウント担当者も解決できなかったという。

また、新興ブランドグループに参加した別のブランドのCEOは、プログラム終了後に専門の戦略アカウントマネージャーと月5000ドル(約54万円)で契約したものの、新興ブランドグループのときに得られた支援から比べれば、無に等しかったと明かしている。

同CEOは「担当者はいないよりはいたほうが良い。だが得られる価値が大きいとは思えない」と語る。また、無料で契約できるインスタグラム(instagram)やFacebookのアカウント担当者と比べてもサービスレベルが大きく劣っているという。

だが、Amazonの新興ブランドグループ参加企業のなかには、1年を終えても支援を受けているブランドもある。オーツ・オーバーナイト(Oats Overnight)の共同創設者のフランク・グー氏によると、同社は2年目に複数カテゴリーでAmazon’s Choiceブランドに選ばれ、無料でアカウント担当者の支援を受けられているという。Amazon’s Choiceは、売上とレビューにもとづきアルゴリズムで決定する。

「Amazonはブランドの成功を望んでいる。ブランドが成功すれば、Amazonにとっても成功だからだ」と、グー氏は指摘する。「当社のパフォーマンスはAmazonにとっても好ましいものだったということだろう」。

上乗せ戦略

Amazonの社内人材による丁寧な対応は全体的に見て供給不足だ。新興ブランドグループにとって、アカウント担当者によるきめ細かな対応は競合他社に対して長期にわたるアドバンテージになる。AmazonはブランドがD2Cモデルとあわせてビジネス展開するのにAmazonこそが最適な場所だと示そうとしている。新興ブランドグループに所属するブランドは自社でさまざまな取り組みが必須だと理解しつつ、それでも成功に一番近い道だと考えている。

「何もしなくてもAmazonが魔法のように自分たちの事業を伸ばしてくれると考えているのであれば、それは誤りだ」と指摘するのがウェルパス(WellPath)の創設者、コリン・ダレッタ氏だ。ウェルパスはサプリブランドで、Amazonの最近のプライムデーでリンゴ酢サイダー味のグミを発売している。同氏によると、同商品は発売前に3週間の宣伝を行った甲斐もあってプライムデー初日の午前1時に完売したという。「商品がAmazonに掲載されさえすれば買ってもらえるというのは誤った考えだ。Amazonに向けた理論整然とした戦略があって、はじめて上乗せすることができる」。

賛否両論な取り組みだが、Amazonはこの戦略を続けていくだろう。あるブランドの創設者は、Amazonの担当者が新興ブランドグループについて売り込む際に、これからブランドとの取り組みをについて見直しを進めており「断固たる決意で正しいあり方にしていく」と語ったと明かしている。

D2Cブランドはターゲットやウォルマートと比べて在庫上の優位性がある。そしてこの優位性はAmazonに対してすら例外ではない。

「D2Cは商品を露出させたいと望んでいる。Amazonはこれまで、あらかじめ欲しいと分かっている商品をそのまま買うための場所だった。だがいまAmazonは商品を探して買うプラットフォームへとシフトさせるため多大な労力を払っている」と、ジオーソ氏は語る。「新興のD2Cブランドはそうした取り組みに非常によくフィットするのだ。Amazonはただ買うだけの場ではなく、ショッピングの場を目指している」。

Hilary Milnes(原文 / 訳:SI Japan)