マイクロソフト(Microsoft)は近年、プロモートIQ(PromoteIQ)やLinkedIn(リンクトイン)などの買収を通じて、B2Bから始まった自社広告ビジネスの多様化と成長を目指している。マイクロソフトのグローバル広告事業ゼネラルマネージャーを務めるスティーブ・サイリック氏にインタビューを行った。
マイクロソフト(Microsoft)は近年、プロモートIQ(PromoteIQ)やLinkedIn(リンクトイン)などの買収を通じて、B2Bから始まった自社広告ビジネスの多様化と成長を目指している。先日行われた第3四半期の業績発表において、マイクロソフトは、LinkedInが過去1年間に30億ドル(約3265億円)の広告売上を計上したことを明らかにした。また同社によると、プロモートIQのプラットフォームも同時期に前年比300%の成長を遂げており、ディックス・スポーティング・グッズ(DICK’S Sporting Goods)、ホーム・デポ(The Home Depot)、クローガー(Kroger)などの企業がデジタルマーケティングベンダーのプログラムに同プラットフォームを利用しているという。
米DIGIDAYでは、マイクロソフトのグローバル広告事業ゼネラルマネージャーを務めるスティーブ・サイリック氏にインタビューを行い、同社が現在どのように広告主へ売り込みを行っているのか、在宅勤務が同社の広告事業にどのような影響を及ぼしているのか、また、業界で進むプライバシー関連の変更に対する同社の考えについて話を聞いた。
なお、以下のインタビューは読みやすさを考慮して、若干の編集を加えている。
Advertisement
──プライバシーを取り巻く状況は変化している。Googleは独自のソリューション候補としてFLoC(Federated Learning of Cohorts、コホートの連合学習)を提案している。マイクロソフトも先ごろPARAKEETを発表した。その考え方について少し聞かせてほしい。
広告主の立場からすると、我々は今ひとつの転換点に立っていて、そこを乗り切っていかねばならないことを理解しており、それがプライバシー重視の世界でどんな意味を持ちうるのかを考えているところだ。(我々は)業界、すなわちワールドワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)に対して提案を行っている。PARAKEETと呼ばれるもので、「Private Anonymized Requests for Ads that Keep Efficacy and Enhanced Transparency(有効性と強化された透明性を維持する広告のためのプライベートで匿名化されたリクエスト)」の頭文字をとった名称だ。我々は(PARAKEETが)、たとえばChromeブラウザの「プライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)」で提唱されているものよりも、プライバシーを向上させ、既存のアドテクインフラと連携すると考えている。その理由は、Chromeのプライバシーサンドボックスでは、オークションがブラウザ内で行われるため、現在のエコシステムの仕組みや、アドテクスタックへの投資の仕方を変えてしまうという課題があるからだ。
──PARAKEETとFLoCの違いは?
我々は、そうした動きを現行のエコシステムに戻す、バランスのとれたソリューションを推進しようとしている。我々の提案では、ブラウザがPII(個人識別情報)を匿名化しつつ情報を伝達することで、それを可能にする。また我々の提案では、消費者が依然として自身のデータをコントロールすることができる。消費者がコントロールできないのではなく、ブラウザがオークションとして機能しないのだ。ブラウザは情報を匿名化し、現行のエコシステムの仕組みと同様に、引き続き情報をエコシステムへ渡す。先に述べたように、消費者は自身の安心感に合わせて、情報のコホートに加えられるかどうかを選択することが可能だ。もちろん、こうした議論はまだ初期段階にすぎない。これがそのままマイクロソフトの手法になる、あるいはEdgeブラウザの使用体験に採用されるとは言わないが、我々はGoogleと、また多くのパブリッシャーや広告主と議論を重ね、従来のエコシステムをある程度維持しつつ、そこにあるべき要素と我々が考えるプライバシーやコントロール、透明性を尊重することの有効性について話し合っている。
最終的には、大規模なブラウザのエコシステム全体で一貫したブラウザ体験を提供するソリューションを実現したいと考えている。ある体験から別の体験に移っても、必ずしも異なる体験にはならないように。我々は、今後数カ月をかけて引き続きその実現方法を探り、予定では2022年中に運用と移行を進め、業界がこの変化を乗り切る手助けをしたいと考えている。
──広告事業に関して、マイクロソフトはどこで差別化を図り、またどのように広告主へ売り込みを行っているのか?
我々は、広告主やエージェンシー、パブリッシャー、パートナーからの情報をもとに、当社にはユニークなオーディエンスが存在すると考えている。Windowsで動作するデバイスの数を考えると、我々には豊富かつ重要性の高いオーディエンスがいる。10億を超えるユーザーおよびデバイスが日常的にWindowsを利用し、そのエコシステム内で動いているのだ。それに付随して、月間6億件超の検索回数を誇る大規模な検索ネットワークが存在する。さらにはEdgeブラウザやLinkedInなど、複数の強力なコンシューマーサービスを提供しており、それらを通じて得られるオーディエンスは、当社のデータから判断するに、Facebookの広告ネットワークやGoogleの広告ネットワークとある程度まで重複しない、ユニークなオーディエンスだと考えられる。引き続き自社のブランド戦略を構築し、バイヤーや消費者とのつながりを持ちたいと考えるなら、無視できない規模と重要性を備えたオーディエンスだ。オーディエンスのコンバージョン率が高いことを裏付けるデータも継続的に集まっている。
──注力してきたB2Bの枠を超えて成長する方針は今も続いているのか? これまでなかったような新しいタイプの広告主にアプローチしているのか?
答えはイエスだ。我々は引き続き、マネージドサービスとアンマネージドサービスの両方の観点から、広告主の体験を開拓している。我々は複数のカテゴリーで成長を遂げている。小売りのカテゴリーで成長がみられ、この1年では自動車カテゴリーが成長している。我々は複数の中核的な分野で成長を遂げており、このことは中小規模の新規顧客であれ、あるいは大規模なエンタープライズ企業の顧客であれ、我々の広告主の基盤が大きく拡大していることを示唆しており、またそこから、広告主はオーディエンスや体験に価値を見出しており、投資利益率(ROI)に対して高いコンバージョン率を得ているのだと考えられる。
我々の体験は成長している。検索クエリのシェアと検索ボリュームも成長しているし、Microsoft Newsにおけるアクティビティの量も成長している。理由のひとつは、デジタルアクセラレーションがさまざまな分野の成長を促しているからだ。コンシューマーサービスや、人々がデジタルアプリに費やす時間を考えればわかるが、特にこの1年間は、人々が家にいる時間が長くなり、PCを使う時間が増えていることが影響している。モバイルの利用時間も確実に増えている。その結果、当社のコンシューマーサービス全般が優れた成長を続け、それによって我々が(広告主に)提供するオーディエンスのストーリーをさらに構築し、成長させることが可能になっている。
──多くの人が在宅で仕事をするようになったこの1年で、オーディエンスを増やすことができたか?
人々が自宅で仕事をするようになったことで、我々が常に得意分野と考えてきたエンタープライズ向けの体験が突如、家の中に持ち込まれた。エンタープライズ向けの体験が家庭に持ち込まれた結果、それまで家庭向けの消費者体験とエンタープライズ体験だったものが、突如として融合し始めている。それは我々にとって引き続き切り札となる。当社がこれまで主にエンタープライズ体験において手がけてきたものが家庭に場所を移し、今では仕事と生活を融合させた体験を提供している。今後数年間のオーディエンスの増加を考えると、それは我々に有利に働くと考えている。(中略)我々は、コンシューマー(ビジネス)の拡大に非常に力を入れている。商業向けと消費者向けは今後も融合が進むと考えており、今後2~3年における当社の成長戦略において、消費者向けにますます力を入れていくつもりだ。
──その成長はどこに向かうと考えているか? また、過去のプロモートIQやLinkedInのように、その成長を継続させるための買収の可能性はあるか?
現時点でコメントできることはない。しかし、これまでの実績から、過去3年間の提携や買収の動きを踏まえると、次の3年間にも動きがあるのではないかと考えられる。コンシューマー分野は当社が注力している分野であり、この分野で何らかの動きがみられる可能性はあるとだけ述べておくが、今日の時点でコメントできることは何もない。
[原文:‘Inflection point’: Microsoft’s GM of Global Advertising Business on privacy, ad business growth]
KRISTINA MONLLOS(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:長田真)
PHOTO BY SHUTTERSTOCK