最近、Amazonによるアドテク企業サイズミック(Sizmek)のアドサーバー買収により、データがさらに増えた。そのことから、ブランドとエージェンシーの幹部は、AmazonがAmazonを通じて購入されたキャンペーンのパフォーマンスに対する効果測定やアトリビューションの能力を高めることを期待している。
Amazonのデマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)は、平凡だと広告主に広く考えられている。だが、その膨大な顧客データゆえに、依然として広く採用されてきた。
最近、Amazonによるアドテク企業サイズミック(Sizmek)のアドサーバー買収により、データがさらに増えた。そのことから、ブランドとエージェンシーの幹部は、AmazonがAmazonを通じて購入されたキャンペーンのパフォーマンスに対する効果測定やアトリビューションの能力を高めることを期待している。
Amazonはこの数年間、Googleの支配的なデジタル広告事業のライバルとしての地位を確立しようと努めてきた。そうした取り組みの主要素がDSPだ。AmazonのDSPは、同社の顧客データを利用して広告のターゲティングを行える市場で唯一のDSPだ。そうしたデータと、Amazonが所有・運営するサイトで人々に宣伝できる点が、「アドテクの背後にある仕組みに関係なく、一部の特定ブランドに対する強みになっている」と語るのは、マーケティングエージェンシー、デジタス(Digitas)のバイスプレジデント兼プログラマティック担当ディレクターを務めるラヒル・ベラニ氏だ。
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Amazonの広報担当者にコメントを求めたが、掲載時までに回答はなかった。
サイズミックのアドサーバーの買収は、Amazonの広告収益の伸びが鈍化しているいま、広告主のあいだでますます強みになるかもしれない。名称からわかるように、アドサーバーは、パブリッシャーのサイトにどの広告を配信するか広告主が決めるのに利用されている。つまり、アドサーバーは、プログラマティックに購入された広告や、パブリッシャーから直接購入された広告など、広告主がオンラインに広告を掲載している場所を把握している。「通常、直接購入はアドサーバーにインポートされるので、レポートの観点から総合的なワンストップショップがある」と、あるエージェンシー幹部はいう。
広告主の直接購入を把握できれば、「料金など、購入のあらゆる詳細」を確認できるので、通常であれば把握できないデジタル広告市場をAmazonは概観できると、ふたり目のエージェンシー幹部は語る。この幹部が働くエージェンシーは、サイズミックのアドサーバーを利用している。だが、Amazonが実際にそうした情報にどれだけアクセスできるのかは不明だ。サイズミックの元幹部によると、広告主やエージェンシーが許可しても、Amazonはアドサーバー内の料金しか見ることができないという。
サイズミックのアドサーバーは「当面のあいだ」、Amazonの広告事業とは別に稼働すると、Amazonはブログに書いているが、業界の幹部たちは広く、Amazonがいずれは自社のDSPにサイズミックのアドサーバーを連携させると期待している。Amazonがそれをすることのメリットを考えると、同社がそのふたつのアドテク製品を結びつけなかったことは意外だ。
DSPとアドサーバーを組み合わせれば、「キャンペーンの実行状況や個々の測定の重複排除、リーチやフリークエンシーの管理、従来型の購入とプログラマティックバイイングのコンバージョン管理をすることができる」と、アドテク企業ビーズワックス(Beeswax)のCEO、アリ・パパロ氏は述べている。
真実を語る情報源としてのアドサーバー
これまで、製品販売と同じように、広告を事業成果へ結びつけることは、広告主にとって最大の悩みのひとつだった。Amazonは、自社サイトに掲載された広告が、人々にAmazonで製品を購入させるのにどれほど効果的かを測定するよう設計されているアトリビューションピクセルで、それに留意してきた。
広告主は一般に、Amazonのアトリビューションツールを警戒している。プラットフォームが事実上、自分の宿題を自分で採点するようなものだからだ。これは、FacebookやGoogleなどのライバルたちにも当てはまる。エージェンシーの幹部によると、そうした懸念のためアドサーバーは、プラットフォームの内部報告システムと比べて客観的な「真実を語る情報源」であると考えられている。そのため、サイズミックのアドサーバーは、こうした懸念に対処できるという。
アドサーバーが広告主のキャンペーンを大局的に見ることを考えると、Amazonはアドサーバーのデータを利用して、広告のアトリビューション能力を拡大することが可能だ。
「今回のサイズミック買収は、自社プラットフォーム上に掲載されたり、アドサーバーを通じて掲載されたりしているすべてのものを、独自ドメインに戻すのに非常に役立つ。それは信じられない強みだと思う。その点が顧客をもたらすのに不足していた点だと考えている」と、デジタル マーケティングエージェンシー、360iのシニアバイスプレジデント兼プログラマティック担当責任者を務めるコリン・クレベノ氏は語る。
AmazonのDSPの欠点
エージェンシーの幹部によるAmazonのDSPの説明は、「かなり基本的」や「とてつもなく強力というものではない」、さらに「まあまあ」に「不十分」などさまざまだ。AmazonのDSPに対する最大の不満は、利用するのが難しすぎ、広告主やエージェンシーがDSPに期待する深いレベルのレポーティングを提供していないことだ。
ベラニ氏によると、DSPのユーザーインターフェースは、あまり直観的でなく、経験の浅いプログラマティック広告バイヤーやアナリストには複雑すぎて使いこなせないという。あるブランドの幹部に言わせれば、複雑すぎるインターフェースが、Amazonのアドテクを利用するうえでの主要な障害らしい。
インターフェースは単なる障害どころではない。ふたり目のエージェンシー幹部によれば、Amazonはこの1カ月以内にDSPのアップデートを行ったが、それ以前は、展開しはじめたあとにキャンペーンの期間を広告主が延長したければ、まったく新しいキャンペーンを制作しなければならなかったという。
また、DSPは、広告主のキャンペーンの透明性を高めるために、また、顧客のプログラマティックバイイング戦略を微調整するのに必要な高度な分析をエージェンシーのデータサイエンス担当チームが行うために、アドバイヤーがますます求めているログレベルのデータを広告主に提供していない、と3人目のエージェンシー幹部は指摘する。
Amazonは、広告主と集計データを共有している。だが、データの提供は「かなり遅れるので、午前11時までに前日のレポートを正確には引き出せない」と語るのは、プログラマティックコンサルティング会社バリック(Varick)のテクノロジー戦略担当シニアバイスプレジデントであるブラッドリー・ナン氏だ。ちなみに、Googleのものやアップネクサス(AppNexus)のようなほかのDSPは一般に、そうしたレポートを東部時間午前7時頃に送る。つまり、バリックの成長担当マネージャーは、ほかのキャンペーンを処理しはじめてから4時間経たないと、Amazonのキャンペーンの成果を見ることができない。
そうした欠点はあるが、AmazonのDSPでは、広告主がAmazonのファーストパーティのユーザーデータにアクセスできる。そのため、「そうしたオーディエンスにリーチする唯一の手段なので、顧客への販売は極めて容易だ」と3人目のエージェンシー幹部はいう。
Googleのアドサーバーとの競争
Googleの「DoubleClick Campaign Manager」(以下、DCM)は、広告主やエージェンシーのあいだで、大差を付けてもっとも広く利用されているアドサーバーだと考えられている。「どんなサーバーもDCMには太刀打ちできないと思う」とナン氏は語る。サイズミックのアドサーバーは、2番目に最適な選択肢と考えられているが、あるエージェンシー幹部によると、「DCMほど強力ではない」という。
だが、サイズミックのアドサーバーは、Googleのアドサーバーほどシームレスに利用できず、多くの統合もないが、動的クリエイティブ最適化(Dynamic Creative Optimization:以下、DCO)という、Googleのアドサーバーを上回る強みがひとつある。DCOは、データを利用して、動作において個々人に適切な広告をサーバーに選び出させる技術を示す、装飾的な用語だ。広告主がGoogleのDSPやアドサーバーを利用している場合は、おそらくサードパーティのDCO技術に頼らなければならない、とベラニ氏はいう。
広告主は、時間帯や、出先か在宅かといった特定の状況に対してメッセージを調整すると、広告を見落とすか、クリックして広告商品を購入するかの違いが生じる場合があると認識しているため、DCOにますます関心を抱いている。「プログラマティックのクリエイティブサイドはこれまで、いささか置き去りにされた動物のようだった」と語るのは、マレンロウ・メディアハブ・グローバル(MullenLowe Mediahub Global)米国法人のプレジデントであるショーン・コーコラン氏だ。
サイズミックのDCO機能は、購入履歴など、Amazonが保有している顧客情報に基づいて製品を人々に勧めるAmazonの能力とよくマッチする。「買い物客のデータの価値を示すのは容易だろう」と、クレベノ氏はいう。
サーバーの乗り換えを広告主に説得
広告主にサイズミックのアドサーバーを導入するよう説得を試みるにあたって、Amazonには強い言い分があるようだ。だが、Facebookが「アトラス(Atlas)」アドサーバーを導入するよう広告主を説得しようとして最終的に失敗した事実からわかるように、前途は厳しい。「アドサーバーの乗り換えはインフラの変更のようなものだ」と、ひとり目のエージェンシー幹部は語る。
Amazonも、ウォールドガーデン全般で広告主が課している負担を負うよう強いられるかもしれない。DSPのレポーティングにおける透明性の欠如といった、ブランドとエージェンシーの幹部がAmazonに対して抱いている不満の多くは、FacebookやGoogleに向けられているのと同じものだ。その結果、広告主は、AmazonによるDSPとサイズミックのアドサーバーの売り込みを利用して、ひとつ以上のウォールドガーデンを抑えようとすることも考えられる。「Amazonとサイズミックは明らかに、もっと前進してGoogleと肩を並べたいと思っているが、アドサーバーを別のウォールドガーデンに押し込もうとしているに過ぎない。広告主がそれをどう受け止めるかわからない」と、3人目目のエージェンシー幹部は語る。
エージェンシー幹部によれば、Googleのアドサーバーから乗り換えるよう広告主を説得するのは特に、Amazonにとって難題だという。Googleのアドサーバーは、アドテクスタック全体の中心にある。Googleのアドサーバーを利用している広告主の大多数は、Googleのほかのアドテク製品を利用していると、d3人目のエージェンシー幹部は指摘する。「それが、いわゆる『統合されている』全体的なメリットだ。アドサーバーを取り除けば、GoogleのDSPや分析ツールを利用することに何のメリットがあるのか?」とこの幹部はいう。
Amazonの意図は、自社のアドテクスタックとGoogleのものとのあいだで広告主に選択させることだと大いに考えられる。だが、それがゼロサムゲームである必要はない。GoogleやFacebook、Amazonのようなウォールドガーデンの台頭は、トラッキングcookieの減少をもたらし、広告主とエージェンシーからすれば、複数のアドテクスタックへの対応の必要性は、複数のDSPの利用の必要性と同じくらい滑稽になりつつあるところまで、デジタル広告分野を断片化してきた。「真の全体的視点を持つのがますます困難になりつつある」と、3人目のエージェンシー幹部は語る。
Amazonが真に行う必要があるのは、「混合」に含まれるべき理由を強く主張することだけだ。そして、「混合」に含まれたら、広告主の予算をもっと勝ち取るために、ライバルと比べてどれだけの価値を提供できるかを証明する必要がある。
「すべてを支配するアドテクスタックが1つある場で、そんなふうに純粋な重複排除があるとは思わない。業界で起こっている他の変化は、そうなることを妨げようとしていると思う」と、クレベノ氏は語った。
Tim Peterson(原文 / 訳:ガリレオ)