オンライン広告業界の頂点に上り詰める過程で、Googleは多方面からの非難にさらされてきた。そしていまや、世界各国の独占禁止法規制当局も、その照準をGoogleに定めている。とはいえ、Googleが最大の危機に直面しているのは、間違いなく本拠地の米国だ。
オンライン広告業界の頂点に上り詰める過程で、Googleは多方面からの非難にさらされてきた。そしていまや、世界各国の独占禁止法規制当局も、その照準をGoogleに定めている。
とはいえ、Googleが最大の危機に直面しているのは、間違いなく本拠地の米国だ。2020年の後半以降、米司法省のみならず、テキサス州のケン・パクストン氏を筆頭に、十指に余る州司法長官がアルファベット傘下のこの巨大広告企業を反トラスト法違反で訴えている。
米国で反トラスト法違反に対する締め付けが強まれば、強制的にせよ自発的にせよ、Googleが展開する現行のオンライン広告事業は、いずれ解体に向かうのではないかと見る向きもある。
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しかし、そのようなシナリオは反撃なしには実現しないとGoogleは示唆している。
Googleの経済政策を統括するアダム・コーエン氏は、1月21日投稿のブログ記事で、「本日、テキサス州司法長官のケン・パクストン氏が提起した反トラスト法違反の訴訟について、連邦裁判所に訴えの棄却を申し立てる」と表明した。
コーエン氏はさらに、起訴内容は「不正確で扇動的だ」と断じ、Googleの弁護団から見れば、「立件に必要な法的基準を満たしていない」と主張した。同氏の主張の中心には、アドテク市場にはまっとうな競争があり、その競争によってアドテク税と呼ばれるベンダーの手数料は下落を続け、しかもGoogleと同じ規模の巨大テクノロジー企業からの投資で市場は潤(うるお)っているとの信念がある。要するに、コーエン氏は、パクストン州司法長官の主張は「古い情報」に基づいているといいたいようだ。
「抱き合わせ」の疑い
Googleにかけられた嫌疑のひとつは、AdXの広告需要へのアクセスと引き換えに、パブリッシャーたちにDFP(DoubleClick for Publishers)の利用を強制しているというものだ。AdXはGoogleが運営するアドエクスチェンジで、一方のDFPはパブリッシャー向けのアドサーバだが、コーエン氏はこの一般に「抱き合わせ」と呼ばれる慣行の存在を明確に否定している。
テキサス州のパクストン司法長官は、英国の独禁法違反規制当局の統計を引用して、Googleがパブリッシャー向けアドサーバ市場の90%から100%を掌握していると指摘し、これほどの市場シェアを獲得できた背景にはアドサーバとAdXの抱き合わせがあると主張した。一方、コーエン氏は、さきのブログ記事で「この主張は誤りだ」と断じ、「パクストン司法長官は、同氏の主張の正しさを証明するいかなる証拠も提示していない」と反論している。
「ヘッダー入札を制限したことはない」
次に、コーエン氏は、Googleが独自のオープン入札制度を通じてヘッダー入札の台頭を阻止しようとしたという疑いも否定した。独立系のアドテク企業が推進するヘッダー入札は、広告オークションにおけるDFPの「ファーストルック(優先取引)」を無効化する試みだとされている。コーエン氏は、「最近の調査を見れば、現在、大多数のパブリッシャーがヘッダー入札を利用していることは明らかだ」とし、「この嫌疑は事実に反する」と書いている。
「我々の広告オークションは透明だ」
さらにコーエン氏は、Googleが自社の広告オークションを不正に操作して、パブリッシャーを欺いているという疑惑にも言及した。同社運営の広告オークションは不透明で、メディアバイヤーが入札した金額と、パブリッシャーに支払った金額の差額をGoogleが「不正に着服」しているという疑惑である。
この嫌疑に対して、コーエン氏はこう反論している。「我々はパブリッシャーの収益と広告主のROIを改善するために、さまざまな最適化をおこなっている。パクストン州司法長官の主張はこの最適化を曲解するものだ。我々は長年、セカンドプライスオークションを採用してきた(ただし、2019年にファーストプライスオークションに移行)」。
Facebookとの「共謀」容疑は誇張だ
最近、裁判所に提出された書類に「プロジェクトバーナンキ」と呼ばれる秘密プログラムの詳細が記されており、Googleの最高幹部とFacebook経営陣の共謀容疑が浮上した。この文書によると、Facebookは、広告オークションでの優遇措置と引き換えに、ヘッダー入札を採用するという当初の計画を見送った。
複数の州司法長官が提出した訴状にはこう記されている。「Facebookは、この取引でGoogleが運営する広告オークションに年間最低5億ドル(約576億円)を支出すると約束した。一方のGoogleは、Facebookにこれらのオークションで一定の勝率を保証することに合意。Facebookの内部文書によると、同社はこの取引を直接入札よりも『安上がり』と判断した」。
コーエン氏は2018年のブログ記事を引用して、「これは秘密の取引とは程遠い」と反論。この取引はFacebookのヘッダー入札参入を阻むものではないと主張している。「我々はFAN(Facebook Audience Network)に広告枠を割り当てていないし、入札速度の面でFacebookを優遇していない。広告オークションでの勝率も保証していない」。
本稿執筆の時点では、テキサス州司法長官率いる訴訟当事者のうち、コーエン氏が1月21日に投稿したブログ記事に対して公開的に回答したものはいない。実際の裁判は2023年もしくはそれ以降になると見られているが、それもGoogleの訴訟却下の申し立てが不発に終わった場合の話だ。「この訴訟は、事実に照らしても、法律的に見ても誤りであり、却下されるものと確信している」とコーエン氏は結論づける。「しかし、仮にこの訴訟がこのまま進行するならば、我々は徹底抗戦するまでだ」。
パブリッシャーは他人任せでは立ちゆかない
1月21日の却下要請に先だって、コンサルティング会社のジャウンスメディア(Jounce Media)で最高経営責任者(CEO)を務めるクリス・ケイン氏は、最近更新された裁判資料で明らかになった新事実のいくつかについて語っている。特に注目されるのが、一部に批判のある変動的なオークション手数料率(テイクレート)に関する論評だ。
ケイン氏はジャウンスメディアのブログ記事でこう述べている。「これは不正な手段かもしれないし、反競争的でさえあるかもしれない。その判断は法律家に任せるとして、2016年にパブリッシャーたちがヘッダー入札を導入しはじめた時点で、変動的な手数料率の採用は必然だった」。さらに同氏は、クライアントであるパブリッシャーのために広告需要を調達するアドエクスチェンジは、オークションごとに手数料率を変動させるほうが「より効果的に」機能するとも指摘している。もちろん、広告主にしてもパブリッシャーにしても、一定のリスクは免れない。
さらにケイン氏は、1月18日に開催されたバーチャルイベントで、「Googleを悪者だと早計に決めつけるのは愚かなことだ」と述べている。「Googleの内部の仕組みについては、まだ分からないことがたくさんある」。
一方で、ケイン氏は、Googleがアドサーバ、DSP、アドエクスチェンジを所有していることで直面する「葛藤」にも言及した。「Googleは当然、これらのシステムを通じて得られる収入を最大化しようとするが、それはパブリッシャーの収入全体を最大化することとは必ずしも同じでない。つまり、パブリッシャーは自分たちの稼ぎについて、他人任せにはできないということだ」。
「罰金など丸め誤差程度のもの」
米国の反トラスト法は3つの法律で構成される。その3つとは、クレイトン反トラスト法、連邦取引委員会法、シャーマン法である。
この3つの法律に基づいて企業を反トラスト法違反で告訴するなら、その企業の行為が市場競争を阻害し、その結果、消費者に悪影響が及ぶことを証明しなければならない。訴訟の結果如何では、Googleは米国の反トラスト規制当局から罰金を科されるかもしれないし、何らかの形で解体を迫られるかもしれない。
プログラマティックコンサルティングを専門とするある業界関係者は、Googleはこれまでにも各種の罰金を科されてきたと話す。特に欧州では、近年、規制当局が大手IT企業を訴訟責めにしており、Googleも2017年にEUから27億ドル(約3114億円)の罰金を科されている。
しかし、広報規定を理由に匿名で取材に応じた別の業界関係者によると、訴訟で科される罰金など、四半期ごとに数十億ドルを稼ぐ巨大テクノロジー企業にとっては、四捨五入で生じる「丸め誤差」程度にすぎない金額だという。
近い将来、分割はあるか?
この関係者によると、中短期的に「何らかの分割がおこなわれる可能性は25%」程度で、業界や米国政府機関の落胆もその程度のものだという。
アレートリサーチ(Arete Research)が1月12日に開催したバーチャルカンファレンスで、同社の創業者でシニアアナリストのリチャード・クレイマー氏も同じ予測を述べている。
「Googleのネットワーク事業の分離独立は確かにあると思うが、実のところ、これはGoogleの規制回避の試みであり、ここ数年、繰り返し聞かされてきた話だ。これにより、欧州でいうところの自己優遇(自社が所有・運営するメディアの優遇)のリスクは排除されるだろう」。
「我々はずっと以前から、米国の政府がこれら巨大テクノロジー企業に短剣を突き立てるような真似はしないとしても、何らかの譲歩を引き出す必要はあるだろうと考えてきた。仮にGoogleが『第三者サイトの広告在庫の代行販売から手を引き、ビジネスモデルを大きく変更する意向だ』というなら、状況は一変するだろう」。
Googleが反競争的だという批判に直面しているのは米国だけではない。たとえば、オーストラリアでも、Googleの広告オークション事業は、米国同様、厳しい監視下に置かれている。その一方で、Googleの擁護派は「Googleのアドテク製品は競争を促進するものであって、阻害するものではない」と反論している。
一方、英国では、ChromeブラウザでサードパーティCookieのサポートが終了する2023年をにらみ、これに代わるターゲティング技術について、競争・市場庁(CMA)がGoogleから多大な譲歩を引き出した。この譲歩の一環として、Googleは「独立した監視受託者の任命」に合意し、サードパーティCookie廃止後のプライバシーサンドボックス構想を、CMAの要件に沿って進めると約束している。
規制当局が厳しい目を向けるのは、Googleのアドテク事業の仕組みだけではない。たとえば最近、オーストリアのデータ保護当局は、Googleアナリティクスが大西洋を横断して個人データの移転をおこない、EUと米国間のプライバシーシールド協定に違反したと申し立てた。一方、今月初めには、ドイツのパブリッシャーたちが結束して、Googleのプライバシーサンドボックス構想は欧州連合(EU)競争法に抵触すると主張した。
いずれにしても、各国政府との争いがどう転ぶかで、Googleの短中期的な未来が決まるといっても過言ではないだろう。
[原文:‘Inaccurate and inflammatory’: Google moves to have Texas AG-led antitrust case dismissed]
RONAN SHIELDS(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)