新型コロナのパンデミックで、バーチャル学校の勢いは2022年も止まりそうにない。そのような状況のなか、キャンパスに特有な対面のソーシャル環境を再現するために、メタバースのプラットフォームを試す教育者もでてきた。
新型コロナのパンデミックで、バーチャル学校の勢いは2022年も止まりそうにない。そのような状況のなか、キャンパスに特有な対面のソーシャル環境を再現するために、メタバースのプラットフォームを試す教育者もでてきた。
バーチャル教育は新型コロナのパンデミックで標準化し、教育者はZoomやマイクロソフトチームズ(Microsoft Teams)のようなビデオチャットのプラットフォームで対面授業の経験を再現しようと悪戦苦闘してきた。学生はZoom疲れに不満を訴え、誰もいない空間に話しかけているように感じると報告する教師もいる。おそらくなによりも重要なのは、対面授業に特有のちょっとした交流が、オンライン授業への移行で標準的なキャンパスライフから消えたことだ。
メタバースならIRLを再現できる
カリフォルニア州を拠点にした、スタートアップ創業者やエンジニアのためのコミュニティとレジデンスプログラムのローンチ・ハウス(Launch House)は、人が集まらなければはじまらない。同社のシェアハウスは、従来の教育(シリコンバレーのリーダーたちの講演会や交流の場を提供)であれ、もっと打ち解けた雰囲気で行う起業家精神にあふれたブレインストーミングのようなプログラム(メタ[Meta]やマイクロソフトのような企業の創業につながる)であれ、大いにチャンスを与えてくれる場所だと、共同創業者のブレッド・ゴールドスタイン氏は考えている。「時価総額で世界上位6社のうち3社が大学の寮からスタートしたのには当然理由がある。時間に囚われずにいつでも、山ほどあるアイデアに囲まれて、大きな刺激を受けていたからだ」とゴールドスタイン氏は話す。「IRL(In Real Life:現実世界)[の教育]がうまく機能している基本的な理由はそこにある。メタバースが重要なのは、メタバースならそれが再現できるからだ」。
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現在のところ、このようなソーシャルコラボレーションを体験できるのは、ニューヨークもしくはロサンゼルス近郊で暮らすローンチ・ハウスの会員に限られる。プログラムを多くの人に利用してもらえるようにするため、ゴールドスタイン氏のチームは、ブラウザを利用した2D画像のメタバースプラットフォーム、ギャザー(Gather)で仮想空間を構築した。この仮想空間のモデルは現実の大学だが、模倣したのは教室だけではない。現実世界の教育施設のように、学生たちがたむろする廊下や小部屋も数多く用意されている。ゴールドステイン氏は、ローンチ・ハウスの仮想体験のプログラム料金に関して具体的な数字は明らかにしなかったが、同社が現在実施している対面プログラムの料金は4000ドル(約44万円)から5500ドル(約60万円)で、それよりも大幅に低くなる予定だという。
ギャザーでビジネスを展開するメタバースデザイン会社リユニバス(ReuniVous)のディレクター、ジェームズ・ボア氏は、このプラットフォームでは2Dを利用しているので、ロブロックス(Roblox)やマインクラフト(Minecraft)のような没入感の高い3Dプラットフォームよりも、セレンディピティのある交流(偶発的な交流)に適していると考えている。「現実空間では、視界から外れても周辺認識が働く。たとえば背後に立たれると人の気配を感じるし、背後にいる人を会話の輪に入れようと、一歩下がることもあるはずだ」とボア氏。「3D空間の場合、こうした周辺に対する認知を引き起こすシグニファイアがいくつも消えてしまうため、周囲に対する視野がかなり狭くなります」。
これまでのところ、ギャザーでとくに人気の高い使用方法はコワーキングだ。ギャザーのコミュニティ&グロースの責任者ヨアキム・アイソアホ氏によると、現在、このプラットフォームには1万を超える仮想オフィスがあるというが、ゴールドステイン氏が期待するソーシャル・ブレインストーミングのタイプはあくまでもコワーキングの形態だ。アイソアホ氏はギャザーを利用する人たちが高等教育という体験の再現を考えていると聞いても、驚かないという。「ローンチ・ハウスがこれまでこの手の形態をまったく試したことがないと言われたほうが驚きだ。彼らのイベントのおかげで、事業を始めようと考えている人たちがこの空間を訪れるようになった。というのも、開催している内容が、参加者が相互に学べるイベントだからだ。ある意味これはコワーキングでもあり、学びをテーマにしたさまざまな種類のイベントでもある」。
Zoom授業が時代遅れなる前兆
高等教育がメタバースに参入したと本当に言えるようになるまで、道はまだ長い。ローンチ・ハウスも大学としては認証されていないのが現実だ。カリフォルニア大学バークレー校主催のマインクラフト学位授与式のように、メタバースのイベントを試した大学もあるが、このような一時的な体験では、ゴールドステイン氏やローンチ・ハウスのデザイナーたちがギャザーで実現しようとしているセレンディピティは生まれない。とはいえ、メタバースのプラットフォームでバーチャルオフィスやバーチャル教育体験が増大しているということは、もし2022年の1年で仮想空間での学校教育が普及するのなら、Zoomの授業が時代遅れになるという前兆かもしれない。
「仮想は新たな現実だ」と、スタートアップの起業家オマール・アルオヨン氏はいう。彼はローンチ・ハウスの会員で、同社のメタバースプログラムに事前登録を済ませている。「つまり、私たちがいまいるのが現実の世界なのだ」。
[原文:Educators look to use metaverse platforms to bring serendipity to remote schooling]
ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)
Illustration by IVY LIU