業界初のDSPと広く認識されているアドテクベンダーのメディアマス(MediaMath)は、新しいオーナーを迎えることになった。その新オーナーはテック企業のインフィリオン(Infillion)だ。
インフィリオンがなぜメディアマスを獲得する判断をしたのかは謎だ。一度はアドテクの10億ドル企業とまで呼ばれたメディアマスだが、広告収益ビジネスがうまく行かず、破産に至った。
では、インフィリオンがなぜ失敗したビジネスに2200万ドル(約32億円)も投じたのか? 正直に言って、明確な答えはない。しかし、インフィリオンがメディアマスを何らかの新しい形で業界構造が変わりつつある現在の市場のなかに展開しようとしていることは明らかだ。
大きな困難をインフォリオン経営陣も理解している
もしかしたら、メディアマスが持つ何らかの未開発なポテンシャルに興味があるのかもしれない。しかし同ブランドが競争する市場はコモディティ化が進んでおり、この取引が行われた時点で、競合他社たちも自分たちを再定義しようとしている最中だ。
これらの企業は大成功を狙うどころか、生き残るためにあらゆる方向に事業範囲を拡大し市場を奪い合っている。メディアマスをこの状況でうまく導くには、入念な計画、革新的な差別化、そして同社の事業が抱えている経済的な困難に対する率直な認識が必要だ。
しかしながら、この困難がいかに大きなものかは、インフィリオンの経営陣も理解している。裁判所の文書で、インフィリオンの役員は「今後3年間で運営損失が3000万ドル(約44億円)、従業員数が約150人になる」と見込む計画が明らかにしている。この計画はすでに進行中であるようだ。「すでに元メディアマスのスタッフ、特にシニア役職レベルの人材の再雇用に向けた激しい取り組みが始まっている」と、匿名で語った情報源は言った。
元のスタッフを再雇用するのは簡単ではなく、安くもない。多くの人々は、同社が破綻した後に報酬を受け取っておらず、再雇用をオファーされても喜んで飛びつくとは限らないだろう。それでも、インフィリオンがメディアマスを再生させるつもりなら、その長所と短所を熟知している人々の専門知識に依存する必要がある。そうすれば、元のクライアントや商業パートナーを再び引きつけるための厳しい戦いが少しは楽になる。高額の給与をオファーできれば、この試みに説得力を増すことができるだろう。
メディアマスの「復活」は不可能ではない
「この採用活動は安くない」と、別の役員は言った。この人物は実名で取材に応じた場合に役員たちとの関係を失ってしまう危険性があるため、匿名で取材に応じた。「メディアマスが破産した際、人々は株式や賃金やそのほかさまざまなものを失った。インフィリオンはどのような役職の採用であっても、財政的な観点から非常に魅力的な給与を提供する必要がある」。
一方で元メディアマスのCEOであるジョー・ザワツキ氏が戻るかどうかは不明だ。これには多くの要素が関わっている。主に、彼自身が復帰した場合、メディアマス再構築にどれだけ影響を与えるか、そしてそれがインフィリオン全体のビジネスとどのように統合するかが焦点となるだろう。現在、ザワツキ氏は再構築に対する顧問としてのみ参加している。しかし、もし彼がビジネスに再参加するなら、多くの費用がかかるだろう。
インフィリオンの創業者であり会長であるロブ・エムリッヒ氏は、追加で4000万ドル(約58億円)の運転資金を求める予定であり、メディアマスのプラットフォームを「元の状態に復活させる」というビジョンについて語った。
メディアマスの「復活」は可能性が低く思えるかもしれないが、不可能ではない。同ブランドには市場でうまくいく可能性があるいくつかの要素がある。特に、広告主やエージェンシーが(CRMスタックへの統合など)構築できるさまざまなサービスとテクノロジーがある。さらに、透明性プログラマティックサプライチェーンのソース(Source)のような、長年をかけて開発してきた多様なプロダクトを抱えている。
これらを全て合わせると、興味深い売り文句が見えてくる。それは、クライアントとの関係が非常に一方的になりがちな時期に、クライアントと狭く深く取り組むことができるアドテクベンダーという展望だ。
財政上の強みを明らかにすることが必要
しかし考えてみると、その強みは諸刃の刃ともなる。
メディアマスが破綻して以降、物事を前に進めるのに苦労した広告主(またはそのエージェンシー)が、また同ブランドと再び密接な関係を持ちたいと考えるだろうか。すでに挑戦して失敗したところもある。非常に複雑になってしまった関係性に再び賭けるのは、多くの人にとって急進的すぎかもしれない。
しかしながら、メディアマスが財政的に安定していると説得することができれば、賭ける価値はあるかもしれない。明らかに、破産したばかりのビジネスにとってそれは難しい。それでも、インフィリオンが同ブランドを蘇らせるためには(広告主やエージェンシーのエグゼクティブたちを説得することは)必要不可欠だ。
その方法のひとつは、インフィリオンの経営陣が率直に財政上の強みを明らかにすることで、より確実な未来を設定することだろう。
これを行い、広告業界のエグゼクティブにメディアマスの財政状態についてより明確な理解をしてもらうことで、疑問を持っている人のなかからメディアマスを信じ始める人が出てくるかもしれない。特にこのような時期においては、誰もが敗者復活の物語には弱い。
業界初のDSPと広く認識されているアドテクベンダーのメディアマス(MediaMath)は、新しいオーナーを迎えることになった。その新オーナーはテック企業のインフィリオン(Infillion)だ。
インフィリオンがなぜメディアマスを獲得する判断をしたのかは謎だ。一度はアドテクの10億ドル企業とまで呼ばれたメディアマスだが、広告収益ビジネスがうまく行かず、破産に至った。
では、インフィリオンがなぜ失敗したビジネスに2200万ドル(約32億円)も投じたのか? 正直に言って、明確な答えはない。しかし、インフィリオンがメディアマスを何らかの新しい形で業界構造が変わりつつある現在の市場のなかに展開しようとしていることは明らかだ。
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大きな困難をインフォリオン経営陣も理解している
もしかしたら、メディアマスが持つ何らかの未開発なポテンシャルに興味があるのかもしれない。しかし同ブランドが競争する市場はコモディティ化が進んでおり、この取引が行われた時点で、競合他社たちも自分たちを再定義しようとしている最中だ。
これらの企業は大成功を狙うどころか、生き残るためにあらゆる方向に事業範囲を拡大し市場を奪い合っている。メディアマスをこの状況でうまく導くには、入念な計画、革新的な差別化、そして同社の事業が抱えている経済的な困難に対する率直な認識が必要だ。
しかしながら、この困難がいかに大きなものかは、インフィリオンの経営陣も理解している。裁判所の文書で、インフィリオンの役員は「今後3年間で運営損失が3000万ドル(約44億円)、従業員数が約150人になる」と見込む計画が明らかにしている。この計画はすでに進行中であるようだ。「すでに元メディアマスのスタッフ、特にシニア役職レベルの人材の再雇用に向けた激しい取り組みが始まっている」と、匿名で語った情報源は言った。
元のスタッフを再雇用するのは簡単ではなく、安くもない。多くの人々は、同社が破綻した後に報酬を受け取っておらず、再雇用をオファーされても喜んで飛びつくとは限らないだろう。それでも、インフィリオンがメディアマスを再生させるつもりなら、その長所と短所を熟知している人々の専門知識に依存する必要がある。そうすれば、元のクライアントや商業パートナーを再び引きつけるための厳しい戦いが少しは楽になる。高額の給与をオファーできれば、この試みに説得力を増すことができるだろう。
メディアマスの「復活」は不可能ではない
「この採用活動は安くない」と、別の役員は言った。この人物は実名で取材に応じた場合に役員たちとの関係を失ってしまう危険性があるため、匿名で取材に応じた。「メディアマスが破産した際、人々は株式や賃金やそのほかさまざまなものを失った。インフィリオンはどのような役職の採用であっても、財政的な観点から非常に魅力的な給与を提供する必要がある」。
一方で元メディアマスのCEOであるジョー・ザワツキ氏が戻るかどうかは不明だ。これには多くの要素が関わっている。主に、彼自身が復帰した場合、メディアマス再構築にどれだけ影響を与えるか、そしてそれがインフィリオン全体のビジネスとどのように統合するかが焦点となるだろう。現在、ザワツキ氏は再構築に対する顧問としてのみ参加している。しかし、もし彼がビジネスに再参加するなら、多くの費用がかかるだろう。
インフィリオンの創業者であり会長であるロブ・エムリッヒ氏は、追加で4000万ドル(約58億円)の運転資金を求める予定であり、メディアマスのプラットフォームを「元の状態に復活させる」というビジョンについて語った。
メディアマスの「復活」は可能性が低く思えるかもしれないが、不可能ではない。同ブランドには市場でうまくいく可能性があるいくつかの要素がある。特に、広告主やエージェンシーが(CRMスタックへの統合など)構築できるさまざまなサービスとテクノロジーがある。さらに、透明性プログラマティックサプライチェーンのソース(Source)のような、長年をかけて開発してきた多様なプロダクトを抱えている。
これらを全て合わせると、興味深い売り文句が見えてくる。それは、クライアントとの関係が非常に一方的になりがちな時期に、クライアントと狭く深く取り組むことができるアドテクベンダーという展望だ。
財政上の強みを明らかにすることが必要
しかし考えてみると、その強みは諸刃の刃ともなる。
メディアマスが破綻して以降、物事を前に進めるのに苦労した広告主(またはそのエージェンシー)が、また同ブランドと再び密接な関係を持ちたいと考えるだろうか。すでに挑戦して失敗したところもある。非常に複雑になってしまった関係性に再び賭けるのは、多くの人にとって急進的すぎかもしれない。
しかしながら、メディアマスが財政的に安定していると説得することができれば、賭ける価値はあるかもしれない。明らかに、破産したばかりのビジネスにとってそれは難しい。それでも、インフィリオンが同ブランドを蘇らせるためには(広告主やエージェンシーのエグゼクティブたちを説得することは)必要不可欠だ。
その方法のひとつは、インフィリオンの経営陣が率直に財政上の強みを明らかにすることで、より確実な未来を設定することだろう。
これを行い、広告業界のエグゼクティブにメディアマスの財政状態についてより明確な理解をしてもらうことで、疑問を持っている人のなかからメディアマスを信じ始める人が出てくるかもしれない。特にこのような時期においては、誰もが敗者復活の物語には弱い。
新メディアマス成功の条件
市場が大規模なDSPを受け入れるのに消極的であるわけではない。ザ・トレードデスク(The Trade Desk)に対する市場の認識や感情が変わるなか、市場は成功を保証する手堅いDSPを求めている。
言うまでもなく、インフィリオンには課題が山積みだ。これまでに挙げたポイントすべてを完璧に実行できたとしても、新メディアマスに参加するよう説得するには十分でない可能性がある。同ブランドの破綻はアドテク業界の状況に大きな影響を与えた。そのため、メディマスの未来について話す前に、過去を認め、何らかの謝罪的なアクションを見せることがインフィリオンの経営陣にとって必須条件だ。
つまり、インフィリオンは多くの譲歩をしなければならないことを意味している。この市場でそれは高くつくだろう。メディアマスにとっては特に、潜在的なクライアントが考えるリスクを減らすために「シーケンシャルライアビリティ(Sequential liability)」や支払い条件に関して業界標準から逸脱しなければならない場合はとくにそうだ。
「メディアマスがパートナーシップを結びたいと思っているSSPからは、よい支払い条件を得られないだろう。そのため、彼らのメディアバイイングのために資金調達するパートナーを見つける必要がある」と、もうひとりの広告エグゼクティブは言った。この人物は取引に関わっている人たちとの関係に悪影響が出ることを懸念して、匿名を希望した。「ただ、インフィリオンは年間で7千万から1億ドル(約102億〜146億円)ものメディアバイイングを行っている。それは大きな数字であり、財務を成立させられる説得材料となるだろう」。
ここで、インフィリオンは収益を上げるために多くのお金を使わないといけない状況にある。「最初の3カ年で、約4億4500万ドル(約653億円)をトラフィック獲得費用に、さらに1億200万ドル(約149億円)をそのほかの運営費用に使う予定だ」とエムリッチ氏は推計する。「メディアマスは、次の5年間でデータ料金やホスティング契約に10億ドル(約1468億円)以上を費やす予定だ」。
再構築の新たな手段
それまでにアドテク自体が大いに変わっている可能性が高い。それはインフィリオンが期待していることだ。エムリッチ氏は8月21日のオークションの公聴会でそれに言及した。彼はメディアマスの再構築の手段として「垂直統合されたウォールドガーデン」について言及し、リテールメディアネットワークを通じてメディアマスを再建するポテンシャルを指摘した。
多くの点で、これはメディアマスがすでに行っていたことからあまり逸脱していない。しかし、現在のメディアマスが初期の投資家に対する借りから解放された今、それはより達成可能となっている。
「以前、メディアマスのプロダクトはあまりに多くのことを達成しようとしていた」とメディアコンサルタント企業TPAデジタル(TPA Digital)のCEOであるウェイン・ブロッドウェル氏は語った。「彼らはテクノロジーのコアの能力に集中し、市場に出すに適したプロダクトを構築することができるだろう」。
他社との差別化
また、ブロッドウェル氏は「たとえば、多くのバイサイドのプレイヤーは増えつつあるデータクリーンルームとの統合に手助けを必要としている」と指摘する。加えて、新しいクリーンルームが投入されることで必要となる後続のワークフロープロセスに関しても助けが必要で、Googleが来年サードパーティクッキーの使用を停止する予定であるため、このニーズは増加する可能性がある。
このほか、メディアマスの2019年の透明性プログラムであるソース(Source)は、競合するDSPがどの広告インベントリ(在庫)を優先するかについて疑問を持つ人々がいるなかで、差別化のポイントとなる可能性もある。
「オープンパス(OpenPath)のようなものに対して確かに懐疑的な意見もある。ザ・トレードデスクが在庫をどのように優先するか、そしてGoogleやアドエックス(AdX)、Yahooエクスチェンジ(Yahoo Exchange)、マイクロソフト(Microsoft)のザンダーDSP(Xandr DSP)やマイクロソフトエクスチェンジ(Microsoft Exchange)などにも常に懸念事項は存在している。そこを突くことだけでも十分に取引を行うことができる」と、ブロッドウェル氏は説明した。
アドテクの未来はバーティカルに戻る
しかしながら現在のところ、これらのことはすべて憶測である。
インフィリオンは裁判所の文書に記載されていること以外に何も言及していない。米DIGIDAYはメディアマスに関する具体的な計画について問い合わせたが、返答はなかった。しかしそれにもかかわらず、その存在感を示し始めていることは確かだ。
たとえば、先月のカンヌライオンズ(Cannes Lions)では、同社は目立った存在であった。エグゼクティブが複数のパネルに参加し、クロワゼット通りのもっとも人気のある屋外スペースであるモンドリアン・カンヌホテルの庭に同社は展開していたため、その存在を見過ごすのは難しかった。エグゼクティブのひとりは、「(カンヌライオンズ)では彼らは至る所にいるように感じた」と話す。
これは、メディアマスの買収とともにインフィリオンが従来のアドテクの境界を超えて進もうとしていることを顕著に示している。この最初の兆候は、トップたちが2020年にトゥルーX(TrueX)とギンバル(Gimbal)を統合した時に見られたものだ。それから2年後に、インフィリオンというブランドが立ち上げられた。多くの同時代の企業と同様に、インフィリオンはアドテクの未来がバーティカルに戻ることを認識している。
Ronan Shields and Seb Joseph(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)