TikTok のメディア事業、「音楽」業界を参考に拡大する

広告主にとってのTikTokの価値が、広告ではなくタレントを収益化する能力に変わろうとしている。

有料広告プラットフォームとしてのTikTokはまだ初期段階にある。ターゲティング能力は低く、コストは比較的高い。TikTokで成功を収めているのは、広範なマーケティングと連動させたタイムリーで適切なコンテンツを作っている広告主だ。なぜならTikTokに人々が押し寄せるのは、台本が用意された才能あるクリエイターの動画を見るためであり、友人たちと交流するためではないからだ。混雑した市場で主導権を握りたいTikTokは、こうした才能を商業戦略の中心に置こうとしており、その戦略はレコードレーベルやタレントマネジメント会社の戦略に近づいている。

事実、この戦略にもっとも早く適応しているのは音楽関係のマーケターだ。

フィリーPRガール(Philly PR Girl)のオーナー、ケイト・マーリス氏のような音楽パブリシストは、アーティストとレコードレーベルが協力し、ビジネスとイメージの両方を高めていく手法と、アーティストとTikTokが育んでいる互恵関係に共通点を見いだしている。あらゆるユーザーがオリジナルの音声をアップロードできるTikTokの機能は、より成功したい大小のアーティストの貴重なリソースになっている。実際、マーリス氏はある新進気鋭のミュージシャンの代理人としてTikTokと交渉中だ。このミュージシャンは6月にアルバムのリリースを控えており、その前に自身の曲をTikTokの動画で使ってほしいと考えている。TikTokはこのような契約によって、オーディエンスの構築とオリジナルコンテンツ、eコマースの拡大をクリエイターに支援してもらうことができる。

メディアエージェンシー、ゼニス(Zenith)のグローバルディレクターを務めるアンドリュー・ラジャナサン氏は「TikTokはむしろメディアやエンターテインメントに強い」と話す。「美しさよりクリエイターを重視しているように見える。何より、TikTokのためだけに結成されたクリエイター集団が現れている」。

新しいCEOは元Disney+

タレントはメディア企業の原動力だが、メディア企業はコンテンツや配信で稼いでいる。個々のクリエイターを収益化するというTikTokの戦略は多くの広告主にとって、理解に苦しむ新しい概念だ。ケロッグ(Kellogg’s)やクロックス(Crocs)などの広告主は、このタレントに所有権、配信を加えたモデルがTikTokでどれだけ繁栄できるかの鍵を握ると気付いているが、ほかのソーシャルネットワークのようなコミュニケーションプラットフォームでないことを考えた場合、どのように実行すべきかわからないという状況だ。すでにTikTokで成功している数少ない広告主は、TikTokを席巻する奇妙なコンテンツやおかしなコンテンツをよそ目に、防御的な知的財産を構築する方法を見つけている。

LinkedIn(リンクトイン)によれば、TikTokは602の求人を出しており、その10%近く(55)がタレントマネジメント関連の職種だ。この5月には、TikTokがこれほど多くのタレントマネジメント幹部を求めている理由が明らかになった。EVOSeスポーツ(EVOS Esports)のタレントマネジメント部門と契約を結び、TikTokがエージェンシーとプラットフォーム両方の役割を担うことになったのだ。ほぼ同時期、TikTokはミュージック・マネージャーズ・フォーラム(Music Managers Forum)経由で、英国の音楽マネージャー850人以上へのアクセス手段も確保している。目的は、アーティストとレコードレーベルのプラットフォームとしての地位を固め、新しい収益源を構築することだ。しかし、TikTokがタレントの収益化を強化していることをもっとも明示する出来事は、ディズニープラス(Disney+)を率いていたケビン・メイヤー氏をCEOに指名したことだ。メイヤー氏の専門性は広告よりエンターテインメントやメディアに関する野心を実現するのに向いている。

プリングルズ(Pringles)でヨーロッパのデジタルマネージャーを務めるロイジン・デバイン氏は、「TikTokでのテストはまだ初期段階だが、人々が動画制作に費やす時間と労力が際立っている」と話す。プリングルズは最近、TikTokでユーザー生成キャンペーンのテストを実施した。「ほかのソーシャルネットワークでは見たことがない創造的なプラットフォームだ」。

いずれ映画や音楽の世界で

エージェンシー、ファンバイツ(Fanbytes)のタレントマネジメント部門バイトサイズド・タレント(ByteSized Talent)は3月、英国を代表する6人のTikTokスターがひとつ屋根の下で暮らすビッグ・ブラザ―(Big Brother)風の番組を開始することに決めた。ただインフルエンサーを活用するのではなく、番組をメディアブランドとして広告主に売り込むことが狙いだ。ゲーム会社ホワット・ドゥー・ユー・ミーム(What Do You Meme)などのスポンサーが制作チームとともに、番組の一部として溶け込む方法を考えている。ホワット・ドゥー・ユー・ミームの場合、出演者がゲームをしながら夜を過ごすというタイアップを行った結果、動画は460万回再生され、23%のエンゲージメント率を達成した。

ファンバイツのCEO、ティモシー・アームー氏は「出演者がホワット・ドゥー・ユー・ミームで遊び、ゲームの名前を声に出して言っている。視聴者がゲームを購入するきっかけになる」と説明する。「従来のプロダクトプレイスメント契約とは違う。まずコンテンツをつくるのではなく、ブランドと一緒にゲームナイトのアイデアを考えたためだ。そうすることで、体験がよりシームレスになる。映画関係のクライアントがいなければ、番組に映画ナイトが登場することはない」。

TikTokにとっては、このようなアクティベーションの可能性が十分あることが重要だ。コンテンツを手軽に収益化できないことを理由に、クリエイターたちはTikTokの利用をためらっているためだ。多くの場合、彼らがTikTokで存在感を確立しようとするのは、もしうまくいけば、映画や音楽といったTikTokの外の世界で活躍できるかもしれないと期待しているためだ。

「TikTokは新しい世界だ」

インフルエンサープラットフォーム、ヨーク・ネットワーク(Yoke Network)のCEO、ジャイド・マドゥアコ氏は「TikTokの広告主にはチャンスがある。インスタグラムなどのプラットフォームと異なり、コンテンツが飽和状態にないためだ」と話す。「TikTokは新しい世界だ。人々がほかの場所にはないものを見ているという事実があり、広告主はそれを利用できる」。

Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)