マーケターたちはTikTokショップ(TikTok Shop)の可能性に大きな期待を寄せてきた。しかし、彼らに言わせれば、そのピッチ(プレゼン資料)には不十分な点も多々あるという。
多くのマーケターにとっては、そこから得た答えよりも、むしろ生じた疑問のほうが多いのが実情なようだ。彼らに向けたTikTokショップのピッチは単刀直入であり、「よそで販売している商品の広告をTikTokで出すだけではなく、TikTokでも実際に販売しましょう」ということだ。
しかし、それを掘り下げると、そこには微妙にもやがかかってくる。商品のフルラインナップを揃えるべきなのか? 戦略を練って商品を厳選すべきなのか? あるいは、ブランドのアフィリエイト商品のフィードを統合し、購入に対してCPAを支払うのは簡単なのか? マーケターたちはいまも、TikTokショップをどう活用すべきかにはっきりとした答えを出せないでいる。いうまでもなく、一部のマーケターにとっては、API設定も課題となっている。
新たな国でのローンチは容易ではない?
「担当者のひとりとTikTokショップについて話し合った後、簡単な資料が何枚か送られてきたが、それだけだ。詳細はほとんど把握できていない」と、米国を拠点とするエージェンシーのあるマーケターが、同プラットフォームとの関係性を考慮し、匿名を条件に話してくれた。
そこで、TikTokはマーケターの疑問に答えるために、TikTokショップに関するFAQのセルフサービス型ハブ(いうなれば「Shop 101」)を、販売者向けのワンストップポータルであるセラーセンターに立ち上げた。いまのところ、このハブは有効なリソースとして機能しており、その恩恵を受けているひとりが、モーフコスチュームズ(MorphCostumes)の共同創業者でセールスおよびマーケティング部門のディレクターを務めるグレガー・ローソン氏だ。ローソン氏はコマースプラットフォームの運営に長けた人物であるが、そんな同氏でさえ壁に当たることが何度かあった。
「TikTokは、TikTokショップが生み出す機会を市場に出し、人々をエコシステムに呼び込むことに関しては素晴らしい仕事をしているが、我々の経験からすると、API設定や他国へのローンチに関しては容易とはいえない」と、ローソン氏は語る。「TikTokショップに参加する企業と、そこで販売する企業のあいだには、大きな断崖ができると私は予想している」。
マーケティング担当者はTikTok担当者に直接質問できることを高く評価しているものの、TikTokショップの米国でのローンチに先駆けて先日開かれたブランド向けウェビナーでは、共有できるTikTokショップのマテリアルアセットはまだ用意できていないことを、TikTokの担当者は認めている。同担当者によれば、(その当時)TikTokショップはまだ法務チームの承認を受けている段階で、場合によっては協議が持たれる可能性もあるという。
今後数年かけてロールアウトされるTikTokショップのロードマップには、約40の国々が盛り込まれている。これについては認識している同担当者だったが、ほかの国々でいつ利用できるようになるのかに関しては、はっきりとしたことは断言できなかった。
マーケターへのピッチは”実際はまだ作成中”
米国内で活動する、前述のマーケターとは別のマーケター(匿名希望)も、TikTokショップはアフィリエイトを介するのかどうかを担当者に聞いたとき、同じような体験をしたという。「リンクトイン(LinkedIn)からメッセージを何通か送ったが、担当者はこの件について何も知らず、フォローアップもなかった」と、同氏は語る。
また、「最初は、新規のブランドを受け入れる準備は整っていないと言っていた。ようやく反応があり、その担当者からブッキングリンクが送られてきたが、彼がミーティングに参加することはなかった。別の機会を求めて彼に再度連絡したが、反応はなかった。どうやら噂は本当だったようだ」と話す。
一言でいうと、TikTokショップのマーケターへのピッチは作成中なのだ。この1年間を通して、TikTokショップのテストが行われてきた。それは確かだ。しかし、TikTokショップに、伝統的に商取引が盛んなこの時期から恩恵を得させようとTikTokが考えているなら、もっとペースを上げる必要があることも確かだ。もしそれができなければ、ホリデーショッピングシーズンに向けて、マーケターがTikTokへの支出を増やす理由を見つけるのは難しくなるだろう。
TikTokショップの可能性
ガートナー(Gartner)のシニアディレクターアナリストであるアント・ダフィン氏は、TikTokショップには大きな可能性があると話し、「広告の時点から販売の時点に至るまで、カスタマージャーニーの完全なアトリビューションを実現するクローズドループをマーケターは手にできるようになると思う」と言い添える。
ダフィン氏は、ソーシャルプラットフォームがこれまでに、ネイティブトランザクションというパズルのピースをはめることに失敗してきたことや、TikTokでの購入は一般的に衝動買いだということを挙げ、その行く手にはさまざまな課題もあると述べている。
一方、グッド・ピープス(Good Peeps)の創業者でCEOのシュレイ・ジョシ氏は、TikTokショップをエンターテインメントプラットフォームからの独創的な動きと捉えている。これによってユーザーは、アプリを離れることなく、カスタマージャーニーを短縮して衝動買いができるようになるからだ。
「TikTokは、20ドル(約2980円)の上限で初回購入が50%オフになる特典を利用者に与えてきた。ロサンゼルスなら、朝のラテ1杯よりも安くTikTokショップを実際に体験できる」と、ジョシ氏は語る。
マーケターたちはTikTokショップ(TikTok Shop)の可能性に大きな期待を寄せてきた。しかし、彼らに言わせれば、そのピッチ(プレゼン資料)には不十分な点も多々あるという。
多くのマーケターにとっては、そこから得た答えよりも、むしろ生じた疑問のほうが多いのが実情なようだ。彼らに向けたTikTokショップのピッチは単刀直入であり、「よそで販売している商品の広告をTikTokで出すだけではなく、TikTokでも実際に販売しましょう」ということだ。
しかし、それを掘り下げると、そこには微妙にもやがかかってくる。商品のフルラインナップを揃えるべきなのか? 戦略を練って商品を厳選すべきなのか? あるいは、ブランドのアフィリエイト商品のフィードを統合し、購入に対してCPAを支払うのは簡単なのか? マーケターたちはいまも、TikTokショップをどう活用すべきかにはっきりとした答えを出せないでいる。いうまでもなく、一部のマーケターにとっては、API設定も課題となっている。
Advertisement
新たな国でのローンチは容易ではない?
「担当者のひとりとTikTokショップについて話し合った後、簡単な資料が何枚か送られてきたが、それだけだ。詳細はほとんど把握できていない」と、米国を拠点とするエージェンシーのあるマーケターが、同プラットフォームとの関係性を考慮し、匿名を条件に話してくれた。
そこで、TikTokはマーケターの疑問に答えるために、TikTokショップに関するFAQのセルフサービス型ハブ(いうなれば「Shop 101」)を、販売者向けのワンストップポータルであるセラーセンターに立ち上げた。いまのところ、このハブは有効なリソースとして機能しており、その恩恵を受けているひとりが、モーフコスチュームズ(MorphCostumes)の共同創業者でセールスおよびマーケティング部門のディレクターを務めるグレガー・ローソン氏だ。ローソン氏はコマースプラットフォームの運営に長けた人物であるが、そんな同氏でさえ壁に当たることが何度かあった。
「TikTokは、TikTokショップが生み出す機会を市場に出し、人々をエコシステムに呼び込むことに関しては素晴らしい仕事をしているが、我々の経験からすると、API設定や他国へのローンチに関しては容易とはいえない」と、ローソン氏は語る。「TikTokショップに参加する企業と、そこで販売する企業のあいだには、大きな断崖ができると私は予想している」。
マーケティング担当者はTikTok担当者に直接質問できることを高く評価しているものの、TikTokショップの米国でのローンチに先駆けて先日開かれたブランド向けウェビナーでは、共有できるTikTokショップのマテリアルアセットはまだ用意できていないことを、TikTokの担当者は認めている。同担当者によれば、(その当時)TikTokショップはまだ法務チームの承認を受けている段階で、場合によっては協議が持たれる可能性もあるという。
今後数年かけてロールアウトされるTikTokショップのロードマップには、約40の国々が盛り込まれている。これについては認識している同担当者だったが、ほかの国々でいつ利用できるようになるのかに関しては、はっきりとしたことは断言できなかった。
マーケターへのピッチは”実際はまだ作成中”
米国内で活動する、前述のマーケターとは別のマーケター(匿名希望)も、TikTokショップはアフィリエイトを介するのかどうかを担当者に聞いたとき、同じような体験をしたという。「リンクトイン(LinkedIn)からメッセージを何通か送ったが、担当者はこの件について何も知らず、フォローアップもなかった」と、同氏は語る。
また、「最初は、新規のブランドを受け入れる準備は整っていないと言っていた。ようやく反応があり、その担当者からブッキングリンクが送られてきたが、彼がミーティングに参加することはなかった。別の機会を求めて彼に再度連絡したが、反応はなかった。どうやら噂は本当だったようだ」と話す。
一言でいうと、TikTokショップのマーケターへのピッチは作成中なのだ。この1年間を通して、TikTokショップのテストが行われてきた。それは確かだ。しかし、TikTokショップに、伝統的に商取引が盛んなこの時期から恩恵を得させようとTikTokが考えているなら、もっとペースを上げる必要があることも確かだ。もしそれができなければ、ホリデーショッピングシーズンに向けて、マーケターがTikTokへの支出を増やす理由を見つけるのは難しくなるだろう。
TikTokショップの可能性
ガートナー(Gartner)のシニアディレクターアナリストであるアント・ダフィン氏は、TikTokショップには大きな可能性があると話し、「広告の時点から販売の時点に至るまで、カスタマージャーニーの完全なアトリビューションを実現するクローズドループをマーケターは手にできるようになると思う」と言い添える。
ダフィン氏は、ソーシャルプラットフォームがこれまでに、ネイティブトランザクションというパズルのピースをはめることに失敗してきたことや、TikTokでの購入は一般的に衝動買いだということを挙げ、その行く手にはさまざまな課題もあると述べている。
一方、グッド・ピープス(Good Peeps)の創業者でCEOのシュレイ・ジョシ氏は、TikTokショップをエンターテインメントプラットフォームからの独創的な動きと捉えている。これによってユーザーは、アプリを離れることなく、カスタマージャーニーを短縮して衝動買いができるようになるからだ。
「TikTokは、20ドル(約2980円)の上限で初回購入が50%オフになる特典を利用者に与えてきた。ロサンゼルスなら、朝のラテ1杯よりも安くTikTokショップを実際に体験できる」と、ジョシ氏は語る。
クリエーターは橋渡し役
また、さまざまな製品を販売することで個人ブランドを構築したいクリエイター向け、とも言える。クリエイターはいまも、多くのブランドがTikTokに自然に溶け込むための橋渡し役だ。そのことを踏まえて、TikTokは当初、クリエイターもTikTokショップ体験の一部となることを盛んに売り込んでいた。
「ショッピング活動の活性化に関しては、TikTok自体は信頼性に欠けているかもしれないが、TikTokの活力であるブランドアドボケートはそうではない」と、ワンダーマン・トンプソン(Wunderman Thompson)でソーシャルメディア担当責任者を務めるベス・キャロル氏は語る。
さらに、すでに数え切れないほどのブランドがインフルエンサーと協力関係にあることを考えると、TikTokショップがクリエイターにTikTok進出の新たな道を与える可能性は十分にあると言えるだろう。
中国のeコマース事業を再現する
TikTokショップは米国で成功するかどうか。これがTikTokの運命を握っているといっても過言ではない。すでに報じられているように、同社は今年だけで5億ドル(約744億2500万円)の損失を出すことが決定的なのだから、なおさらだ。しかし、TikTokショップはいまなお、ドウイン(Douyin:親会社のバイトダンス[ByteDance]が運営する中国版TikTok)の青写真に従うTikTokの大局的戦略の一部だ。
「年商数千億ドルに相当する、中国のeコマース事業を再現すること。その再現がこれからもずっとTikTokの課題になるだろう。とはいえ、同社にはブレないフォーカスがある。テクノロジーを機能させる方法についての知識も、数十億ドルをつぎ込んででも目標を達成しようという意欲もある」と、リサーチ会社のエンダーズ・アナリシス(Enders Analysis)でシニアリサーチアナリストを務めるジェイミー・マキューアン氏は語る。
マキューアン氏が述べていることは間違っていない。TikTokショップはおそらく、TikTokがeコマースに抱く野心的な目標の達成をめざす過程で、中長期のプラットフォーム戦略の域をはるかに超えたものになるだろう。
「インフルエンサーマーケティング、とりわけTikTok/動画のインフルエンサーコンテンツに投資してきたクライアントの多くは、大きな関心を示している。だが、TikTokショップに関する情報が不十分なため、ゴーサインが出せないでいる」と、前出の1人目のマーケターは語る。
もちろんこれは、マーケターたちがTikTokショップにノーを突きつけているということではない。むしろ逆に、彼らはその前提に興味を掻き立てられているようだ。ブランド各社はボトムアップ式でTikTokショップ戦略を練ることになるだろうと、ダフィン氏は話す。つまり、トップダウン式のファネルアプローチではなく、どの新商品を売りたいのかを決め、それを特定の広告と合わせて、そのやり方で売り込みをかけることになる、ということだ。
懸念は社内のカオスっぷり
それにしても、TikTokショップの透明性の欠如には、マーケターが何年か前から繰り返し示してきた懸念を悪化させる効果しかない。TikTokの広告販売業務が肥大化し、どんなことにも率直な回答を得るのが難しくなってしまっているのだ。
成熟してきたとはいえ、TikTokの運営はいまだにずさんなスタートアップのそれと変わらない。この1年間、米DIGIDAYはさまざまなマーケターに取材してきたが、これが彼らに共通する見解だ。
その原因は、同社が急成長を遂げていることによる。その過程では、従業員数の増加やワーナー・ミュージック・グループ(Warner Music Group)などとの取引、クリエイターファンドの刷新、リーダーシップの再編といった、さまざまなことが起きている。これまでなら、マーケターたちもこうしたことを受け入れることができた。しかし、プラットフォームがさらに大きくなり、リスクがさらに高くなれば、この先さらなる課題が出てくる確率はさらに上がるだろう。
以前に匿名で米DIGIDAYの取材を受けてくれたTikTokの元従業員は、TikTok社内のカオスぶりをこう語っている。「こうなっている原因のひとつは、社内で肩書が使われていないこと、組織図がどこにもないことだと思う。誰が何を担当しているのか、まともに話ができる人はどこにいるのかを把握しようとすると混乱してしまう。そのせいで、何もかもが無駄に政治的になってしまってもいる」。なお、この件についてTikTokにコメントを求めたが、回答はなかった。
[原文:How the TikTok Shop pitch has gone down with marketers]
Krystal Scanlon(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)