新型コロナウイルス感染拡大前から、2020年は米国のテレビとストリーミング業界にとって転換期となるはずだった。ストリーミング戦争の激化、広告予算のストリーミング移行、Quibiのローンチ。これらの事態は、2020年前半にどのような現象を引き起こし、後半にはどのような影響を及ぼすと予想されるのだろうか。
新型コロナウイルス感染拡大前から、2020年は米国のテレビとストリーミング業界にとって転換期となるはずだった。NBCユニバーサル(NBCUniversal)とワーナーメディア(WarnerMedia)の参戦によってストリーミング戦争は激化の一途を辿り、従来のケーブルテレビの解約数が増加し、広告主たちはさらにストリーミングへと予算を投入する。クイビー(Quibi)がローンチされテレビレベルのクオリティの短尺動画に対するマーケットが存在するかどうかを証明し、テレビの将来にさらにフォーカスが当てられるーー。
そして、確かにそうなった。新型コロナウイルスによってストリーミング視聴者数が増加し、有料放送登録者数は縮小するなど、いくつかのトレンドは加速した。しかし、新しい展開も見せた。米テレビ業界では恒例となっているアップフロント(テレビ広告枠の先行販売)市場の再構築や、物理的な映像制作現場の閉鎖がそれだ。
以下、2020年前半を席巻した現象と、後半に予想される主な動きをまとめた。
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ストリーミングへのシフト
自宅待機の命令が開始される前と比べ、人々がテレビ視聴をしながら過ごす時間が増えた。これはリニアTV、ストリーミングともにだ。しかし、リニアTVの視聴率は6月時点で3月前のレベルに戻ったが、ストリーミングの視聴率は高いままだ。
ニールセンによると6月の第1週、人々がなんらかの番組や映画をストリーミングで視聴して過ごした時間は1261億分となっている。これは2019年の6月第1週と比べて49%増となっている。このことは視聴者たちが3月以降新しいストリーミング習慣を確立し、自宅待機が終わったあとも続くことを示唆している。
そして、2020年の第1四半期に従来の有料放送サービスでは解約率が加速していることも見逃せない。調査会社ライトシェド・パートナーズ(LightShed Partners)のリッチ・グリーンフィールド氏によると、アルティス(Altice)、AT&T、コムキャスト(Comcast)、ベライゾン(Verizon)の有料放送加入者ベースは11%の縮小を見せた。つまり、スポーツ中継が復活し視聴者がリニアTVに戻ったとしても、ストリーミングと比べるとケーブルテレビや衛星放送に登録する可能性は低いだろう。ストリーミングへの移行がさらに強まるのだ。
アップフロントの見直し
米テレビ業界で毎年恒例のアップフロントは、広告主がゴールデンタイムのテレビ番組を数カ月前から選ぶことができる。ただし、放送時には大勢の視聴者を潜在的な顧客として抱えられる、と安心する時代はすでに終わっている。アップフロント自体は現在の不景気が終わっても存在するだろうが、まったく同じ状況が待っているわけではなさそうだ。
どんな支出も蓄えに回せるなら回そうと広告主たちが努力するなかで、彼らはアップフロントの契約からも抜け出せないかテレビネットワークに頼んでいた。そしていま、次のアップフロント交渉が開始されるなかで契約をより柔軟なものにすることを求めている。たとえば、放送開始前の四半期近くであっても契約をキャンセルし、支払いもおこわなくてもよいとするオプションを契約に組み込んでもらう、といった具合だ。
広告主だけでなく、テレビネットワーク自身も問題を抱えている。四半期ごとにどれほどの広告収益を期待できるか分からない場合、広告主たちに要求される「オーディエンスを魅了する番組」の制作費を下げるプレッシャーが生まれるかもしれない。そうなると、従来のテレビ番組からさらに人々が去り、台頭するストリーミングサービスへと移行することになるかもしれない。
ストリーミング戦争の拡大
ストリーミング戦争はディズニー(Disney)やワーナーメディアといった企業たちが、人々のサブスクリプション予算を巡ってNetflixに戦いを挑むという形を中心におこなわれてきたし、この争いはいまでも続いている。調査会社のパークス・アソシエイツ(Parks Associates)によると、2020年の第1四半期においてストリーミングサービスに登録している消費者のうち41%は少なくともひとつのサービスを解約した。しかし、ストリーミング市場における広告収入の領域では、また別の争いが起きている。
HuluやYouTubeが広告つきストリーミング市場を長年席巻してきたが、Amazonとロク(Roku)もコネクテッドTVで着実に広告ビジネスを積み上げてきている。Amazonの「IMDb TV」やロクの「ロク・チャンネル(The Roku Channel)」といった広告つきストリーミングチャンネルがその例だ。テレビネットワーク各社はストリーミングをもはやサイドビジネスとして扱っていない。ディズニー、Fox(フォックス)、NBCユニバーサル、そしてバイアコムCBS(ViacomCBS)はそれぞれ、自社の広告つきストリーミングサービスを抱えているが、これは彼らの有料放送ビジネスと紐づいていないのだ。
広告なしのストリーミングサービス、コネクテッドTVプラットフォーム、そしてテレビネットワークのあいだでの競争が公平になると同時に、広告支出もリニアTVからストリーミングへと移り、そのままそこに留まるだろう。
短尺動画の小さいマーケット
クイビーの創業者であるジェフリー・カッチェンバーグ氏は、彼らのモバイル動画アプリのデビューが上手くいかなかった原因がコロナウイルスにあるとした。しかし、クイビーの苦戦は、人々が自宅勤務をしているからではなく、そもそもマーケット自体にある可能性が高い。
これまでクイビー以外にも短尺動画を有料コンテンツとして提供しようとした企業はあった。ベライゾンによる、いまはなき「ヴェッセル(Vessel)」やYouTubeによる「YouTube Red」などが挑戦し、失敗した。ベライゾンの「Go90(ゴーナインティ)」に至っては無料アプリであったにもかかわらず、ユーザーを集めることができなかった。
だからといって、ハイクオリティの短尺動画に視聴者がいないわけではない。Snapchatは2020年第1四半期、毎月少なくとも1000万人の視聴者を集める60以上の短尺動画番組がある。現時点におけるSnapchatの成功とクイビーの失敗を考慮すると、問題は短尺動画を視聴するだけのためにアプリをインストールするほど視聴者の興味はなく、ましてやそれにお金を払うほどではないということだ。
映像制作の一時停止
物理的な映像制作の現場が閉鎖されたことは、テレビの未来に対する新型コロナウイルスの影響のなかでも、もっとも長い影響を与えているかもしれない。テレビネットワークとストリーミングサービスの番組制作プランは中断され、プロデューサーたちは番組をリモートで撮影せざるを得なくなり、フリーランサーたちは職を失った。
これから制作が再開されたとしても、出演者と制作スタッフを守るための対策を取る必要があり、さらにもう一度制作停止が起きた場合の緊急用プランも用意しておかなければならない。一連の閉鎖、そしてスローな再開はテレビネットワークとストリーミングサービスの番組供給を深刻に圧迫するかもしれない。コンテンツがもっとも重要なこの業界では番組制作こそが業界全体を支える存在であり、一時停止の影響は広範囲に渡るだろう。その結果は2020年後半から現れるはずだ。
[原文:How the future of TV and streaming has been reshaped so far by 2020]
TIM PETERSON(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)