定額 OTT サービスは、「 解約 」にどう対処しているか?:離反との向き合い方

サブスクリプションを導入しているパブリッシャーにとって何よりも怖いのが、解約による負のスパイラルだろう。サブスクのOTT(オーバー・ザ・トップ)配信サービスも、この問題に対処しているのは同じだ。だが、その対処方法は、パブリッシャーとは少々異なっている。

OTTの場合、人気のドラマシリーズにも放送サイクルがあり、スポーツにはオフシーズンがある。だから、OTTのコンテンツサービスは、従来のニュースや雑誌パブリッシャーよりも解約リスクが高いのが普通だ。OTTは時期ごとにコンテンツが変動し、月額料金は比較的安く設定され、サービスは多岐にわたる。OTTのあいだでは、解約に対処するため年間契約を採用する従来の有料テレビ局よりも柔軟なサービスを提供するのが当然となっている。

スカイ(Sky)のナウTV(Now TV)、Netflix(ネットフリックス)、Amazonをはじめ、よりニッチなOTT配信サービスは多数あるが、月間契約を採用している場合が大半となっており、制約の強い年間契約を採用する有料テレビ局とは対象的だ。また、月額料金も10ポンド(約1400円)を切るサービスも多い。つまりOTTは、あるドラマの放送が終わったら解約するカスタマーがいる、という状況を見込んでサービスを提供しているのだ。

メディア解析企業アンペア・アナリシス(Ampere Analysis)でリサーチ・ディレクターを務めるリチャード・ブロートン氏は「気軽に利用でき、解約も簡単だ。理論的には解約リスクは高まる」と、指摘する。だからこそ、流動的なカスタマーベースを管理するための流動的な手法が必要になる。「だが、特にニッチなファン層の場合、一度解約しても適切なメッセージでターゲティングすれば、また戻ってくる可能性はある」と、同氏は分析する。

いつでも解約、いつでも再加入

カスタマーの解約リスクを抑えるため、Amazon Primeやスポーツ配信サービスのDAZN(ダゾーン)は月間契約よりもオトクな年間契約料金を設定している。今年3月、DAZNは米国でのサブスクの月額料金を2倍の19.99ドル(約2150円)に値上げするとともに99.99ドル(約1万800円)の年間契約を導入した。1カ月あたり8ドル(約860円)程度となる計算だ。

DAZNは米国内におけるボクシングの放映権を有しており、継続的に契約してコンテンツを視聴している加入者だけでなく、ペイパービュー的にお目当てのイベントを視聴して解約する加入者も少なくない。今回の新料金体系であれば、どちらの視聴者にも対応可能だ。ペイパービュー的に利用する加入者に対し、低価格な料金設定のままでは収益を確保しづらい。

DAZNの広報担当は、いつでも好きなときに加入して解約できるように、そして必要なときに再加入できるように、柔軟で利用しやすく手頃な価格を設定したと述べている。

サブスクを一時停止できる設計

シーズンのオンオフがあるスポーツ分野では、サブスクを一時的に止められるサービスを提供するメディア企業もある。ローシーズンとなる夏場の解約に対処するため、DAZNもまた解約時における一時停止機能を追加している。同社は昨年夏に一時停止機能を導入してから、再加入者が推定で140%増加したとしている。

選択肢が増えて価格も引き下げられたということは、オーディエンスの側からすれば複数のOTTと契約しやすいだけでなく、簡単に複数のサービス間で行き来できるようになったことを意味する。そのため、オーディエンスを再び呼び込むのも容易になっている。少なくとも各社のあいだでそういった考えがあるのは確かだ。

メディア解析企業アンペア・アナリシス(Ampere Analysis)によると、今年はじめから米国とヨーロッパにおける一人あたりのOTT加入数の平均は3となっており、全世帯のおよそ7%が5以上のOTTサービスに加入しているという。NetflixとAmazonに加えてもうひとつのサブスク配信サービスと契約している人の割合は全体の11%にのぼる。ブロートン氏によれば、NetflixやAmazonのような幅広いコンテンツを提供する配信サービスの年間解約率は約20%なのに対し、ニッチなサービスの解約率は約30%と高くなる傾向にある。

消費者が選べるメニューの多様化

英国の民間放送局ITVもまた、消費者が選べるようにいくつかの価格体系を用意した。およそ30万人が加入するITVハブ+(ITV Hub+)は月額3.99ポンド(約550円)を支払えば、見逃し配信サービスをCMなしに視聴できる。そんなITVハブ+だが、定期配信よりも一気に視聴するオーディエンス向けのサービスに興味を示している。

ITVハブ+のデジタル商品およびオンラインマーケティング部門でディレクターを務めるスティーブ・フォード氏は以前、こうしたサービスのテストと構築のため、CMなしの年間パスに加えて、一定期間CMなしで好きな番組を視聴できるパッケージをユーザーに「プレゼント」できるシステムを検討していることを明かしている。

OTTサービスでは有料テレビと比べればカスタマー獲得コストは低い。だが、市場が飽和しつつあるなかで、そのコストも増加している。Netflixが国際的に新規カスタマーひとりを獲得するためにかかるマーケティングコストは60ドル(約6500円)未満だ。だが、200を超えるOTTサービスがひしめきNetflixの加入者がすでに多い米国の場合、このコストは200ドル(約2万1600円)近くにまではねあがる。当然、獲得したカスタマーを数カ月以上引き止めることがより重要になってくる。

それに加えて短期の加入者は、LTV(顧客生涯価値)の測定結果にも影響を及ぼす。

ブロートン氏は、「長期的なカスタマーの知覚価値にも動きに変化が生じる」と語る。「有料テレビ業界では、カスタマーに一度解約されたら3年以内の再契約は非常に難しいというのが常識だ。(配信サービスの場合)長期間追跡し、1年あたりのサブスク収益を確認するのもひとつの手だろう」。

Lucinda Southern(原文 / 訳:SI Japan)