DTC ERA

D2C の ポッドキャスト 広告ブーム、さらなる加熱の予感: Spotify のメガフォン買収によって

ポッドキャスト広告が活況を呈している。その背景にあるのが、D2Cスタートアップたちの台頭だ。

Spotify(スポティファイ)は11月10日、ポッドキャストにおける広告およびパブリッシングプラットフォームのメガフォン(Megaphone)の買収を発表した。インタラクティブ広告協議会(IAB)によれば、ポッドキャスト広告主における最大勢力はD2Cスタートアップで、その割合は22%に上っている。今回の買収劇は、D2Cスタートアップ勢に少なからず影響を与えることは間違いない。これは、Spotifyがポッドキャスト用のセルフサービス広告プラットフォーム事業を始めるというメッセージとも考えられるからだ。

同社のプレスリリースでは、今回の買収は「ポッドキャストの広告主により大規模なサービスを提供する」とだけ書かれていた。これにより、立ち上げから間もないD2Cスタートアップに、ポッドキャスト広告を早期からテストしやすくなるというメリットが想像される。一方で、セルフサービスプラットフォーマーには大きな障害となる可能性が透けて見えてくる。そもそもD2Cスタートアップにとってのポッドキャスト広告の最大の魅力のひとつが「独自の広告を、番組ホストと1対1の関係で作り上げられる」ことにある。セルフサービスとはまったく逆の手法である。

ブームを牽引してきたD2C企業

フリーランスマーケティングプラットフォームのマーケターハイヤー(MarketerHire)の共同創設者兼CEOのクリス・トイ氏は「Spotifyは、資金が集まるポッドキャスト広告に目をつけてプラットフォームを構築しようとしている」と語る。FacebookおよびGoogleは、社員が2人のECスタートアップであろうと、フォーチュン500企業であろうと、同じように利用できるセルフサービスの広告プラットフォームを構築し、数千億円規模の広告事業へと成長させた。Spotifyが同じような仕組みを作れば、その収益は計り知れない。

「セルフサービスは、金の卵を生むシステムだ」と同氏は続ける。

これまで何年にもわたりポッドキャストで活動を行い、ブームを牽引してきたのがブルーエプロン(Blue Apron)やキャスパー(Casper)、ミアンディーズ(MeUndies)といったD2Cのパイオニア企業だ。ポッドキャスト広告市場はいまだに大きな成長を続けている。IABは、今年の市場規模は昨年比で14.7%増と予測している。ブルックリネン(Brooklinen)でシニアグロースマーケティングアナリストを務めるジェス・ルーザン氏は、同社におけるポッドキャスト広告収益は、前年比150%増だと語る(なお、同社のポッドキャスト番組にかけている広告費用について、ルーザン氏は口を開かなかった)。


「ブルーエプロンの広告が挿入されてこそ、猟奇殺人事件のポッドキャスト番組だ。」

今や、猟奇殺人事件のポッドキャスト番組の合間にブルーエプロンの広告が流れるというのは、視聴者のあいだでおなじみとなっている。

ミアンディーズの広告出稿事例

ミアンディーズでグロースマーケティング担当ディレクターを務めるメーガン・イップ氏によれば、同社は2015年頃からポッドキャスト広告出稿を始めたという。当初、ミアンディーズにとってポッドキャスト広告はテレビCMより安価にもかかわらず、より多くの人々にリーチできるようになったと振り返る。さらに「その後、ポッドキャストのオーディエンスは比較的裕福層で、かつインテリ層が多いことがわかった」と続ける。

イップ氏はミアンディーズの広告予算に占めるポッドキャスト広告費用の割合については回答を避けたものの、同社にとって「ペイドソーシャルほどではないが、最大規模の広告チャンネルの一つ」だと述べている。ミアンディーズは現在、ジョー・ローガン氏の番組や、ダックス・シェパード氏の番組「アームチェア・エキスパート(Armchair Expert)」などで広告を配信している。

ミアンディーズにおける基本的な流れとして、まずエージェンシーおよび広告を配信する番組を決める。そして次に番組司会者に試してもらうための商品サンプルと、司会者がその商品について話すための脚本も届けるという。実際に司会者は、その脚本をたたき台にして商品説明を行っている。

番組では商品だけでなく、会員プログラムについて話をしてもらうことになる。だが、番組司会者が脚本から時に大きくアレンジすることも少なくないという。

イップ氏は「この点は関係者にとって、苦労の絶えないプロセスだ」と付け添える。たとえばFacebookであれば、広告主はクリエイティブをアップロードして、ターゲティングしたい層を指定するだけでいい。あとはFacebookが処理してくれるからだ。だが、同氏はこの手間のかかるプロセスにはそれだけの価値があると考えている。「ポッドキャスト番組視聴者は、かなり熱心に聴き入ってくれている場合が多い」。逆に言えばSpotify(スポティファイ)の音楽や、ラジオ番組を垂れ流しにしている人は、聞き流している場合も多いだろう。

弱点のひとつが追跡の難しさ

通常、ポッドキャスト広告の価格は、番組1回ごとのダウンロード数に基づいてCPMベースで設定される。また、番組内でいつ流れるかによっても価格は変動する。「ポッドキャストもテレビも、広告価格には大きな開きがある。しかしテレビの場合は視聴者数が基本的に大きいので、総支払額がどうしても高くなりがちである」と、マーケターハイヤーのトイ氏は語る。ポッドキャストにおいても、広告1本で1万円程度のこともある一方で、数十万円かかる場合もある。

ポッドキャスト広告の弱点のひとつが、出稿後の追跡の難しさだ。番組を聞き終わったユーザーが商品を購入したかどうか、そして何回番組を聞いた後に購入したかといった情報を把握しづらい。イップ氏によると、ミアンディーズでは購入者にアンケートを実施し、「ミアンディーズを知ったきっかけ」の項目において選択肢にポッドキャスト番組を混ぜることによって情報追跡を試みているという。だが、すべての購入者がアンケートに回答してくれるわけではない。それぞれの回答者が何回、広告を聴いたあとに購入を決意したのかも不明なままだ。これが、ポッドキャスト広告で顧客獲得コストを見極めにくい原因の代表例である。

Spotifyなどのプラットフォームにおけるポッドキャスト広告の最大の問題点について、イップ氏、ルーザン氏ともに同じ点を指摘している。「プラットフォーム間でユーザーの行動を追跡できる、Facebookやペイドソーシャルプラットフォームが提供するようなピクセルツール」の開発だ。こういったツールがあれば、視聴者が実際に番組を聴いた後にウェブサイトを訪れたのか、かつ商品購入にまで至ったのかが把握できる。

「間違いなく歓迎すべき状況」

Spotifyは、メガフォンの買収発表において、同プラットフォーム上のあらゆるポッドキャストパブリッシャーが配信に広告を入れられるようになり、広告展開の自由度が拡がると述べている。一方、ターゲット(Target)やウォルマート(Walmart)、スターバックス(Starbucks)も参加を表明しているメガフォンの広告プラットフォームの「ターゲテッド・マーケティング・プラットフォーム(Targeted Marketing Platform)」は、セルフサービスモデルを彷彿とさせる特徴を備えている。メガフォンのウェブサイトでは、「広告主がターゲティングしたいユーザーについて細かく設定する機能」があると書かれている。「ミレニアル世代の女性」や、「郊外に住む親」といった層を指定し、それに合わせた広告を配信できるシステムである。

ルーザン氏はセルフサービス広告プラットフォームのメリットを認めつつも、現行のポッドキャスト広告購入モデルが完全に置き換わるようなことはないだろうと語る。

さらに「両方を組み合わせるのが最適な戦略になるのではないか。いずれにせよ、このように合理化されたプロセスが用意されていることは、特にポッドキャストへ参入したばかりの企業にとっては、間違いなく歓迎すべき状況である」と続ける。

[原文:How Spotify’s Megaphone acquisition could further fuel the DTC podcast advertising boom

※記事公開後、Spotifyの日本語表記を誤記していたのを修正しました。

Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:長田真)