2020年に注目を浴びたプラットフォーマーといえばTikTokが思い浮かぶ方も多いだろう。だがこの期間、Snapchatもまた急速な成長を遂げてきた。そんなSnapchatが、より優れたコマースプラットフォームへと進化を続けている。
Snapchatが、より優れたコマースプラットフォームへと進化を続けている。
2020年に注目を浴びたプラットフォーマーといえばTikTokが思い浮かぶ方も多いだろう。だがこの期間、Snapchatもまた急速な成長を遂げてきた。2020年のアクティブユーザー数は、1日あたり2億6500万人と報じられている。これは前年比で22%増にも及ぶ。要因として挙げられるのが、さまざまな新機能の導入だ。とりわけ話題になったのが、最近ロールアウトした『スポットライト(Spotlight)』だ。これはTikTokのようなタブで、ここに投稿した動画が人気になれば何億円もの収益を得られる可能性がある。
しかし、実際にはそれだけにはとどまらない。あまり知られていないが、Snapchatもまた、TikTok同様にEC機能を充実させようと動いている。2020年7月からは『ブランドプロファイルズ(Brand Profiles)』というブランド向け機能の試験運用(ベータ版)を開始している。これによりスナップショットを1ページに固定できるようになる(通常は24時間で消える)ほか、ユーザーのデモグラフィックデータを利用できるようになる。そしてこれは、Snapchat内ではじめて買い物ができる機能でもある。ターゲット(Target)やディオール(Dior)などが利用を開始しており、数十社が承認済みとなっている。参加企業は間違いなく増えていくだろう。ブランドプロファイルズでとりわけ注目を集めているのが、ショッパブルな拡張現実(AR)フィルターだ。実はSnapchatの狙いは、ARで買い物ができる、コマースプラットフォームの実現にある。
Advertisement
Snapchatはカメラ企業
「将来的には、ARのECマーケットプレイスへの移行を目標としているはずだ」と予測するのが、ウォルマート(Walmart)やパネラ(Panera)といった企業のフィルターをデザインしたARマーケティングエージェンシー、Qリアル(QReal)のゼネラルマネージャーのマイク・カドゥ氏だ。QリアルはSnapchatと提携しており、カドゥ氏自身も時折Snapchatとの会議に参加する。Qリアルは、ほかのSNS向けにもARや3D広告を制作している。
Snapchatは、2020年6月の時点でグッチとコラボして、ARで試着ができるというショッパブルなAR機能「レンズ・イン・スナップチャット(Lens in Snapchat)」を実験的に搭載している。たとえば、スマホのカメラを足元に向けるだけでARフィルターによりグッチの靴をはいた様子が映し出されるという仕組みだ。ARフィルターには購入ボタンがあり、アプリからそのまま購入できる形になっている。だが、今や多くのブランドがARのショッパブル機能を試験的に実装し、ユーザーの評価を調査している。最近では、アメリカン・イーグル(American Eagle)がSnapchat上でARでジーンズを試着する機能を発表している。
また、この種のAR試着機能を導入しているプラットフォーマーはSnapchatだけではない。インスタグラムやピンタレスト(Pinterest)も、グロッシアー(Glossier)をはじめとするブランドの商品をARでメイクできるようなページを実装している。だが「SnapchatのARレンズは競合サービスよりも秀でた点がある」とカドゥ氏は指摘する。「使われているAR技術は最高峰だ。Snapchatは自らを『カメラ企業』と名乗るくらいで、ARを中核戦略に据えているのだろう」。
いまARが求められている理由
小売業界ではARフィルターは何年も前から存在してきた。SNSプラットフォーマーも、コマース関連の提携時にARフィルターを採用したところは多い。だが、実際に利用する層が十分に存在しているのかは不透明だった。一方、マーケティング面でいえば、ARフィルターで重要なのはエンゲージメントとなる。「レンズのユーザーあたりの使用時間は平均で9秒という試算もある」とカドゥ氏。「現在のマーケティングでは、この9秒が命だ」。カドゥ氏が顧客評価を調べたところ、「ARフィルターは好評で、ユーザーが商品を見るところまで操作する可能性は非常に高い」という。
SnapchatのARフィルター機能は、外部の協力者も多い。さまざまなアーティストがARをデザインし、ブランドと提携するマーケティング企業がフィルターを制作している。たとえばレンズリスト(Lenslist)は、プーマ(Puma)やKFCといった顧客向けに数十人にも及ぶレンズ・クリエイターを確保している。
「SnapchatのショッパブルARへの動きは加速するだろう」と分析するのが、レンズリストのパートナーシップマネージャーのズザ・スリウィンスカ氏だ。「最新機能として、3Dのボディトラッキング機能が実装された。作成した3Dモデルに自分のシルエットを追加できるというものだ」。
進化を続けるARフィルターが、長年EC企業を悩ませてきた返品問題の解決策になるのではと期待する声もある。オンラインで販売される商品のなかには、想定外に返品率が高いものもある。現時点では、「足をスキャンして靴のサイズを正確に測れる」ようなARフィルターは存在しない。「だがカメラの奥行きの認識機能が向上すれば、これができるARフィルターの実現も近いのではないか」とカドゥ氏は語る。「巨大アパレルブランドにとって、喉から手が出るほど欲しいはずだ。そして返品率の高い企業にとっても、ARで課題解決を図ろうと期待を寄せている」。
ブランドを引きつけるSnapchat
また、Snapchatは広告ネットワークをはじめさまざまなコマース関連の機能を実装している。11月には広告の新プラットフォーム「スナップコネクト(Snap Connect)」をローンチした。これはダイレクトレスポンス広告中心のプラットフォームだ。Snapchatの広告に魅力を感じるブランドは、確実に増え続けている。
[原文:How Snapchat’s AR capabilities are boosting its commerce efforts]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)