ペアアイウェア(Pair Eyewear)がはじめてTikTokでバイラル化したとき、共同創業者で共同CEOのソフィア・エーデルステイン氏はスマートフォンにアプリを入れていなかった。これは2020年10月のことで、同ブランドは当時まだ早期段階の新興企業であったため、このプラットフォーム上で広告を出したり、インフルエンサーと仕事をしたりすることはまだなかった。
「その日のことはよく覚えている。私の友人が10人くらい、TikTokの動画へのリンクをDMで送ってくれた。それがこのプラットフォームに移行するきっかけになった」と、同氏は米モダンリテールに語った。
カスタマイズ可能な10種類のスタイルのフレームを紹介する顧客の動画は、「お金をかけずに眼鏡をおしゃれにする方法(The Cheaper Way to Accessorize Your Glasses)」というキャプションで、数十万もの「いいね!」を獲得した。ペアアイウェアは透明なベースフレームを60ドル(約9000円)から販売し、その上にマグネットで付ける、色やパターン柄が付いた「トップフレーム」を販売している。トップフレームの価格はそれぞれ25ドル(約3750円)からで、いくつもの色やパートナーが豊富に用意されている。
動画がバイラル化したことで、社内チームはそれと同様の構造、すなわち自撮り形式で、ユーザーがペアアイウェアの透明な眼鏡にカラフルなトップフレームをマグネットで貼り付ける動画を使って、TikTokでのブランドの存在感を高めることができると気づいた。続きを読む
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
ペアアイウェア(Pair Eyewear)がはじめてTikTokでバイラル化したとき、共同創業者で共同CEOのソフィア・エーデルステイン氏はスマートフォンにアプリを入れていなかった。これは2020年10月のことで、同ブランドは当時まだ早期段階の新興企業であったため、このプラットフォーム上で広告を出したり、インフルエンサーと仕事をしたりすることはまだなかった。
「その日のことはよく覚えている。私の友人が10人くらい、TikTokの動画へのリンクをDMで送ってくれた。それがこのプラットフォームに移行するきっかけになった」と、同氏は米モダンリテールに語った。
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カスタマイズ可能な10種類のスタイルのフレームを紹介する顧客の動画は、「お金をかけずに眼鏡をおしゃれにする方法(The Cheaper Way to Accessorize Your Glasses)」というキャプションで、数十万もの「いいね!」を獲得した。ペアアイウェアは透明なベースフレームを60ドル(約9000円)から販売し、その上にマグネットで付ける、色やパターン柄が付いた「トップフレーム」を販売している。トップフレームの価格はそれぞれ25ドル(約3750円)からで、いくつもの色やパートナーが豊富に用意されている。
動画がバイラル化したことで、社内チームはそれと同様の構造、すなわち自撮り形式で、ユーザーがペアアイウェアの透明な眼鏡にカラフルなトップフレームをマグネットで貼り付ける動画を使って、TikTokでのブランドの存在感を高めることができると気づいた。
売上全体の25%はTikTok経由
同社は10月10日、プリズムキャピタル(Prysm Capital)主導のシリーズCファンディングで7500万ドル(約113億円)を調達したと発表した。今後の成長に向けて、海外での販売を進めるとともに、実績のある小売ブランドを通じた卸売に移行する予定だ。これまで調達してきた総額は1億4500万ドル(約218億ドル)を超える。しかし、ここまでの道のりは主にTikTokによって切り開かれてきたもので、2022年には、もっとも多くダウンロードされたモバイルアプリから、ユーザーをコンバージョンさせる方法のケーススタディとなっている。
多くのブランドは注目を集めるためにTikTokを検討してきた。しかしペアアイウェアの場合、それはコンバージョンにつながるものだ。約5万人の顧客がTikTokからのもので、ブランドの合計売上の少なくとも25%を占めている。今年販売したトップフレームは約320万本で、そのうち少なくとも30万本がTikTok経由のものだ。
エーデルステイン氏は、TikTokでの成功は、年齢、人種、地理的な面で「米国の国勢調査のように見える」ことをめざす顧客層の多様性など、いくつかの要因によるものだと評価している。中西部と南部が最大の顧客基盤であり、ペアアイウェアは20歳から65歳のインフルエンサーと提携している。また、TikTokユーザーが1つの動画で複数のスタイルを披露していることは、一部の顧客がトップフレームのコレクションを構築する上でも重要な役割を果たしており、ペアアイウェアが毎週新しいスタイルをドロップすることで促進しているリピート購入戦略に基づいている。
3つの戦略
デジタルウォッチフェイスのフルムーンデジタル(Fullmoon Digital)の創業者兼CEOのデレック・チュー氏は、TikTokで成功するには、ほかのプラットフォームと同様、ブランドが自社の商品、業界、人気のある投稿スタイルについてより広い視野を持ち、何が話題になっているかに注目することが必要だと語る。
「ソーシャルメディアを運営するのは簡単だし、ソーシャルコンテンツの投稿も簡単だ。しかし、ソーシャルメディアで成功するための鍵は、聞くということだ。トレンドを追いかけているか、自社のスペースで人々が聞いているものを把握しているか、プロフィールへのエンゲージメントを追跡しているか、それに反応する能力と熱意があるか、そういった部分が重要になる」と、同氏は述べている。
ペアアイウェアは、動画がどれだけの実績を挙げられるかを理解した時点で即座に行動し、TikTokに参入した。マーケティング担当バイスプレジデントのグラント・ゴールドマン氏によると、動画共有アプリであるTikTokは、ユーザーが商品の使い方を正確に見ることができるので、ペアアイウェアに適しているという。
「TikTokは非常に視覚的なので、当社のストーリーを語る場所として最適であり、顧客との対話にも適している。うまい言葉が見つからないが、トップフレームをパチッとはめたりはずしたりできるのは、人の注目を集める。顧客の目を引き、バイラルな動画を作ることができる」と同氏は述べている。
ブランドが成長するにつれ、TikTok戦略は3つにわかれてきた。まず、コンテンツを作成してフォロワーと関わるための専用のアカウントがある。有料広告も行っている。しかし重要なのは、インフルエンサーとクリエイターのプログラムで、今年は1000人以上のクリエイターと提携した。クリエイターには、フォロワーに共有できる割引コードが与えられる。
この点で、ペアアイウェアの戦略は、量よりも質を重視したものだ。もっともフォロワー数の多いクリエイターと提携するとは限らないし、Z世代のみを対象にするわけでもないと、ゴールドマン氏は言う。むしろ、幅広い年齢層や属性の人との協力をめざしているという。クリエイターは、ソーシングプラットフォームのクリエイトリック(Creatoriq)で探すこともあれば、単純にTikTokアプリで探すこともある。協力を開始してからは、アルゴリズムを使用して支払いを決定すると、ゴールドマン氏は言う。ほとんどのクリエイターはいくつもの#WearPairハッシュタグを使って、複数の投稿にまたがる継続的な関係を保っている。
「眼鏡をかけている人に注力していきたい。これらの人々は、眼鏡をかけることの大変さを理解しているからだ」とゴールドマン氏は述べている。ただしペアアイウェアは、眼鏡をアクセサリーとして使用する人たち向けに、度なしレンズも販売している。
インフルエンサープログラムがうまく機能しているもうひとつの理由は、それに付随する特典かもしれない。インフルエンサーはコードを受け取ってフォロワーに共有し、それによってフォロワーは15%の割引を受けられる。そして、ペアアイウェアは新規顧客向けのお得なキャンペーンや紹介プログラム、リワードプログラムを用意しているものの、基本的には商品の価格は固定されている。
ヒーローデジタル(Hero Digital)のコネクテッドコマースリーダーを務めるジョー・ハロウニ氏は、ペアアイウェアがTikTokで成功したのは、商品に関する動画をオーガニックに投稿するユーザーの数が多いことが理由の一つかもしれないと語る。ユーザーの一部は、ブランドやインフルエンサーが使用しているハッシュタグ「#WearPair」を使用する。また、同ブランドがTikTokから売上を生み出すことに成功したのは、その多層的な戦略によるところもあるという。
「ブランドの認知度を高めて注目を集めるのはとても簡単だ。しかし、コンバージョンを促進するにはコンテンツ戦略が必要になる」と同氏は述べる。
顧客のロイヤルティ
ペアアイウェアのTikTokでの存在感は、リピート購入も促進しているとエーデルステイン氏は述べる。これは、新しいトップフレームを毎週ドロップしているためだ。それにより、顧客はトップフレームを話題にしたり、見せ合ったりしている。
なかには、750ものトップフレームを保有している顧客も、少数ながら存在すると、エーデルステイン氏は述べている。
このコレクション形式の取り組みは、TikTok上の戦略や会話にも反映されている。ある動画では、#over50clubというタグを付けているクリエイターが、ワンダーウーマン(Wonder Woman)のアイコンの柄の眼鏡を着用し、次にサングラスをかけ、そしてべっ甲柄の眼鏡を順に着用している。
「インフルエンサープログラムを開始し、そのプラグラムを重視し、規模を拡大して以来、顧客もその行動を真似るようになった。たとえば水曜日に、人々がプラットフォーム上でコレクションのどのトップブランドを買うかについて話し合っていたとする。その翌週、商品を受け取ると、その顧客はプラットフォームに戻ってきて、どれがお気に入りかについて人々と話し合っている」という。
ペアアイウェアの将来について、その戦略の重要な部分になるのは海外での成長だとエーデルステイン氏は話す。これは、TikTokでバイラル化した動画が、欧州や、アジア、南アフリカまで到達したことに影響を受けた部分があると、同氏は述べる。最初の海外市場は今年前半に進出したカナダで、米国でもさらに拡大する準備をしていると同氏は明かした。
エーデルステイン氏は、卸売パートナーシップも進行中だといい、「垂直統合のプロセスを続ける」と語る。レンズとトップフレームはカリフォルニアのアーバインにあるいくつかの工場で製造しており、オンデマンドでの生産が可能だ。
また、処方箋が必要という商品の性質上、TikTokショップの世界にはまだ踏み出していないものの、エーデルステイン氏は、交換可能なトップフレームをサイト上に掲載することを検討しはじめるかもしれないとも述べた。
「カスタマイズ可能で手頃な価格のアイウェアを製造しているのは、この市場で我々だけだ」とエーデルステイン氏。「我々は、顧客が好み、強く必要とし、望んでいるものだということを証明できたと思う」。
[原文:How Pair Eyewear uses TikTok to drive more than a quarter of its sales]
Melissa Daniels(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Pair Eyewear