Netflixは広告事業の難航を受けて、広告戦略を見直す可能性を検討している。ある情報筋によれば、Netflixの最近のいくつかの動きは「広告ビジネスを本気で取り組む姿勢」を示しているという。Netflixが以前予測された10億ドル以上の広告ビジネスを実現するためには、どのような取り組みが必要なのだろうか。
今年の初めに、Netflixは広告事業の難航を受けて、広告戦略を見直す可能性を検討していることがわかった。
情報筋によると、この結果として、Netflixの広告テクノロジーをサポートしているマイクロソフト(Microsoft)との関係が根本的に変わるかもしれないという。まだ議論は初期の段階のようだが、その内容に詳しい情報筋は、これが最終的に同社が独自のアドテックを開発するか、あるいはアドテックを買収する布石になると示唆している。
こうした動きは、Netflixとマイクロソフトのパートナーシップが初期段階で思うように進まなかったことを暗示していると考えられる。実際、Netflixは最初の広告キャンペーンが当初の期待に応えられなかったため、広告主にリベートを発行する必要があった。
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ただし、米DIGIDAYに語ったある情報筋によれば、Netflixの最近のいくつかの動きは「広告ビジネスを本気で取り組む姿勢」を示しているという。Netflixが以前予測された10億ドル(約1327億7400万円)以上の広告ビジネスを実現するためには、どのような取り組みが必要なのだろうか。
期待外れのスタート
複数の買い手側情報筋によると、Netflixの広告提供開始時には「ぎこちなさがあった」と報告し、そのなかのひとりは在庫の利用可能性についての混乱があり、そのローンチは「謎に包まれていた」と言い切った。
別の意見として、ザンダー(Xandr)広告サーバー(マイクロソフトのアドテック・アセットのひとつ)の有用性が期待に応えられなかったとの声もあった。Netflixのアドテック・インハウス化についての初期の議論のなかでは、新しい広告サーバーの可能性についても話し合われたようだ。
一方で、ほかの人たちは広告ターゲティングと測定の制約、そして高いCPMも、期待外れのスタートに拍車をかけた要因だったと指摘している。
入札量を増やすため、リスクを受け入れる?
CTVキャンペーン管理プラットフォームであるライトボックス(LightBox)のCEOであるマーク・ギブリン氏は、米DIGIDAYに対し、英国のテレビバイヤーが利用するパネルベースの測定システムであるBARBへNetflixが参加意欲を示しているなど、前向きな兆候を示していると述べた。
「BARBでは放送日の夜に集計し、翌日に視聴率が分かる『オーバーナイト』での測定を行う。オンデマンド視聴の方法が通常とは異なることを考慮すると、(この集計方法では)番組の視聴率が実際よりも小さくなることがある。BARBは英国での現在のテレビの共通通貨であり、そのリスクを受け入れたわけだ」と同氏は述べる。
情報筋によると、Netflixで最初に広告が流れた際、広告運用は比較的手動で行われており、第三者による測定は利用できなかったとのことだ。ただし、別の情報筋によると、第三者測定へ徐々に歩み寄りを見せている同社の姿勢は、今後入札量を増やす意向があることを示しているようだ。「これはザンダーを中心に推進されたもので、プログラマティックで広告取引を行う意図があることを示しているかもしれない」とギブリン氏は付け加える。
測定の強化が期待される
ミック(MiQ)はNetflixにおける初期の広告キャンペーンに取り組んだアドテック企業のひとつだが、同社CSOであるジョン・ゴールディング氏は、DIGIDAYに対し、Netflixが最初に他社のアドテックから遠ざかるように体制をとったのは、プレミアムなメディア環境としてのサービスをあくまでも維持する意図を示していたのかもしれないと語った。
「広告の量が軽いこと、(広告表示)頻度には大きく制限をつけることが求められ、どのブランドが広告を配信できるかを選ぶ際にはかなり慎重だった」と同氏は説明している。「現在、私たちが本当に期待しているのは強化された測定が段階的に展開されることだ。それが大きな追加要素になるだろう」。
さらにギブリン氏とゴールディング氏は、とくにディズニーやコムキャスト(Comcast)傘下のピーコック(Peacock)、GoogleのYouTubeなど、競争が激化する市場において、番組レベルのターゲティングが広告主にとって魅力的な提案となるだろうと述べている。ゴールディング氏によれば、Netflixが長期的に重点を置くべき要素のひとつは、「データ・クリーンルーム」だという。
「非常にインパクトがある取り組みとなるだろう。当然だが、Netflixはプラットフォームに多くのプライバシー保護機能を組み込みたいと考えており、それが広告主にとって非常に魅力的な提案となるだろう」とゴールディング氏は付け加え、「(Netflixでのメディア購入に)自社データを活用してコンバージョン・アトリビューションを確認できたり、Netflix以外も含めてリーチや頻度などを見たりすることができれば、魅力的な提案となるだろう」と続けた。
M&Aが賢明か
いくつかの情報筋は、Netflixの議題の一部はアドテック買収を検討することであり、一部は公開市場での潜在的な買収ターゲットを探るよう助言しているとDIGIDAYに語った。
ファースト・パーティ・キャピタル(First Party Capital)のCEOであるキアラン・オケイン氏は、「Netflixのアドバイザーたちは、広告サーバーとサプライサイド・プラットフォームを探しており、M&Aのルートを取ることが賢明な選択かもしれない」と話す。
「広告テクノロジーを構築するのは本当に難しい。何が起こっているかを知るためには、(会社に)適切なDNAが必要だ」と同氏はいい、「(買収先として)企業を見るなら、消費者向け製品(および広告テクノロジー)でスケールを持つロク(Roku)があり、広告サーバーとSSPを持つ純粋な広告テクノロジー企業であるマグナイト(Magnite)もある」と付け加えた。
一方でNetflixは、コムキャストの広告テクノロジー専門部門フリーホイール(Freewheel)との提携を以前に辞退したことを撤回し、彼らが提供するアドテックだけを検討するかもしれないと一部では考えられている。(提携の辞退は、チャンネル関連のコンフリクトの懸念から断念したと広く理解されている)。
テレビ専門コンサルティング会社マター・モア・メディア(Matter More Media)のCEOであるトレーシー・シェパック氏は、米DDIGIDAYに対して「広告サーバーという最も重要な広告テクノロジーに関しては、Netflixにとってはそのような動きが望ましいかもしれない」と語った。
「彼らは本当にプレミアムな在庫を持っており、広告配信と測定を正しく行えば、的確にターゲットされたオーディエンスを提供でき、完全に成果に関する説明責任も果たせるようになる」と彼女は話した。「私は、彼らにはフリーホイールと提携するか、他社を買収するという2つのオプションがあると考える」。
Ronan Shields(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)