大手ブランドのFacebookボイコットが主要なニュースを賑わせていたが、ローカルな顧客をターゲットに活動する中小企業にとって重要なのは、地域を限定したFacebookグループだ。必要な顧客だけに必要な情報を届けられるFacebookグループは、今やローカル中小企業の重要なマーケティングチャネルとなっている。
Facebookは創業以来約15年の大半を通じて、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏がいうところの「デジタル世界における町の広場」であり続け、物理的空間の制約をほとんど受けてこなかった。人と連絡を取り合うことの難易度は、相手が町の反対側にいようと地球の反対側にいようと変わらない。「Facebookグループ」では、ドッグスポッティング(Dogspotting:犬にまつわる面白いニュースや画像を共有するグループ)や珍しいウィキペディアの項目に関するコミュニティなど、趣味を同じくする人々が集まる場が立ち上がり、国境、海、大陸を越えて人々をつないでいる。
しかし新型コロナウイルス流行を受けて各地で発令されたロックダウンの期間中、Facebookユーザーの多くが近隣の通りに住む人や隣家の住人とコミュニケーションをとる手段としてこのソーシャルメディアを活用した。自己隔離や都市封鎖により近所の人たちと外で会って話す機会が制限され、Facebook上で地域の政治にかかわる話やビジネス関連のおすすめ情報をやりとりする機会が増えた。文字通り「デジタル世界における町の広場」と言える地域特化型グループの活動が目立つ。
そうしたグループは、代表者ひとりまたは複数のパートナーが経営する地元の小規模事業者にとって、顧客とつながり、自社のサービスを宣伝し、安心して取引を行える場所となっている。一方、地域内でも遠く離れた場所へ出かけられない顧客にとっては、自宅周辺のおすすめの店とつながりを持ち、苦境に陥った地元企業を応援するためのツールとして利便性が高い(インスタグラムも次第に同様の機能を果たすようになっており、企業とその顧客は営業時間について案内したり問い合わせたりする際にGoogleの利用を避ける傾向がみられる)。
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グループに注力してきたFacebook
7月30日におこなわれた第2四半期決算説明会にリモートで出席したザッカーバーグ氏は次のように述べた。「コロナ禍が始まって以来、Facebookのユーザーは当社のサービスを利用して直接会えない友人や家族との連絡を取り合い、小規模ビジネスの運営を続けている。当社のサービスの重要性がこれまでになく高まっている」。
ザッカーバーグ氏によれば、Facebookの月間ユーザー数は昨年同時期の24億1000万から増えて27億人となり、過去最高を記録したという。同氏はまた、約1億8000万にのぼる小規模ビジネスユーザーの重要性を強調した。そうしたユーザーの多くがメッセンジャー(Messenger)またはワッツアップ(WhatsApp)を利用して業務の大半をおこなっている。Facebookが「グループ」機能の強化を始めたのは2016年。そのころ同社は、ロシアがFacebookを使って米大統領選に介入した疑惑の影響と戦っていた。
ザッカーバーグ氏は2017年に書いた文書で「有意義なコミュニティ」の必要性を強調した。例としては希少・難治性疾患自助グループ、新米の親たちのグループ、宗教の信者グループなどがあるが、同氏は「オンラインのコミュニティは現実のコミュニティを補強するもので、離れた場所にいる人同士のオンライン、オフライン両方の交流に役立つ」と記しており、「Facebookの利用者は20億人もいるのに、そのうち1億人しか有意義なコミュニティに誘引できていないのはどうしたわけか?」としている。
この「有意義なコミュニティ」への10億人参加という目標を達成するため、Facebookはユーザーの位置情報と関心事のデータにもとづき、AIを駆使してその人に合うグループを推奨し参加をうながした。ただしこの取り組みの結果、大きな問題が起こった。閉じられた場を奨励したことで、グループがフィルターバブル(※情報が個人に最適化されすぎて一方的な情報しか入らない状態)と偽情報の温床となったのである。2019年4月時点で、グループの参加ユーザー数は4億人に達した。
一方、データマーケティング大手マークル(Merkle)の調査によると、2020年第2四半期のFacebook広告におけるインプレッション数は前年同期比25%増となった。CPMは前年同期比17%減で、小規模事業者向けはさらに価格を引き下げている。
「ターゲット層をピンポイントで」
エリザベス・ヴァンメーター氏とモリー・ウィルソン氏は2019年11月、ラヴィッシュ・グレイジング(Lavish Grazing)という小さな会社を設立した。ふたりにとって本業であると同時にお気に入りのプロジェクトでもあるこの事業の拠点は、米ミズーリ州スプリングフィールド。結婚披露宴やパーティなど大規模イベント向けに、シャルキュトリー、チーズ、果物などが美しく盛りつけられたグレージングテーブルのケータリングサービスを提供している。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、パーティなどのイベントの多くが中止になったり、社会的距離を確保するために企画の大幅な変更を強いられたりした。「感染症の流行はウェディング需要に大きな暗雲を投げかけた」とヴァンメーター氏は言う。ラヴィッシュ・グレイジングは、評判の「フード・アート」でテーブルを飾るかわりに、一人前のフィンガーフードを詰めた「グラブ・アンド・ゴー」(grab-and-go)ボックスを出席者に配り、皆がそれぞれの席で適切な距離を保って飲食できるサービスを始めた。同社は現在、この種のボックスに地元の農家が生産したチーズや食肉加工品を詰めて近隣の食料品店で販売している。
Facebookには、「Welcome to Springfield, MO」のようなスプリングフィールドの地域特化型グループが存在する。こういった公開グループが見込み顧客とつながる貴重な手段であることは実証済みだ、とヴァンメーター氏は語る。 「当社は地域住民のニーズに応えたいと考えている。そのためにはFacebookのグループを利用してターゲット層との接点をもつこと、我々の活動を紹介すべく情報発信することが非常に重要だ」。
ラヴィッシュ・グレイジングは、主要なオーディエンスをターゲットとして1件あたり2ドル(約211円)でFacebook広告も利用している。とはいえ、Facebookの地域特化型グループに会社の情報を何度も投稿していると、買うなら地元産がいい、地域に根づいたブランドに接したいと望む顧客の共感が得られるようになる。ヴァンメーター氏とウィルソン氏は、「Welcome to Springfield, MO」のコミュニティに向けて個人のプロフィールと会社の活動内容を発信しており、気取らないおしゃべりのような長めのメッセージを投稿している。グレイジング・ボードの作り方教室の様子やグラブ・アンド・ゴー・ボックスの写真、扇形に広げて美しく盛りつけたシャルキュトリーの食欲をそそる画像などで、何百という「いいね」を獲得している。
しっかりとつながる手段
米ニューヨーク州サニーサイドでは、小規模ビジネスを経営する家庭内シェフが同地区の住人を対象としたのようなFacebookグループ「Sunnyside Together」を利用して、家で調理した食事や焼き菓子などの宣伝を始めている。商品はFacebookのページから注文可能だ。ジェシカ・モレノ氏はパンや菓子作りを独学で身につけ、10年前に家族と協力してスリーガールズ・コンフェクションズ(3 Girls Confections)を設立し、オーナーとなった。モレノ氏が焼くのはバースデーケーキ、カップケーキなどで、商品の配達もすべて本人がおこなう。
「私がめざしているのはコミュニティ支援。だからこそ手頃な価格で商品を販売している」とモレノ氏は語る。「ふたつの仕事をかけ持ちして家計をやりくりし、子どもの誕生日を祝ってやりたいと望む親を、低予算でも買えるバースデーケーキを提供して応援している」。
家族とともに会社を立ち上げたモレノ氏だが、今はひとりで事業を運営している。「まさにワンマン体制で、ケーキを焼くのも、デコレーションも、配達も何もかも自分でやっている」。自ら配達するのは「お客様と接するため」でもあり、「名前しか知らなかった人の顔が対面でわかるのが嬉しい」という。
モレノ氏は3つのFacebook公開グループに登録している。「Sunnyside Together」「NYC Moms」「I Love Queens, NY」という名称のグループで、週に1回、自身の名前で記事を投稿している。地元の顧客とのつながりを保つためと、1回かぎりのプロモーションを宣伝するためだ。7月4日の独立記念日に国旗の色である赤・白・青をあしらったバラエティボックスを15ドル(約1580円)で販売した特別キャンペーンもそのひとつだ。
新型コロナウイルスが拡大しはじめた当初から、モレノ氏はFacebookを利用して常連客にも情報発信してきた。「多くの店や会社が休業するなか、自分はがんばってビジネスを続けているのだと訴えた」。グループへの投稿に対する顧客の反応は従来の広告に対する反応とは異なり、感謝や励ましの言葉が書き込まれていたという。
「好意的な感想やお誉めの言葉をたくさんいただき、ありがたかったし、嬉しかった。達成感があった」とモレノ氏は語る。そうした投稿にある顧客から返信が来た。写真つきで、購入したケーキを食べた感想が長々とつづられていた。「まじめで、すごく優雅。気取ったおしゃれさん、って感心させられるぐらいゴージャスなケーキだったわ。サニーサイドの町の誇りよ」。
[原文:How neighborhood Facebook groups became havens for ultra-local businesses]
Natasha Frost(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)