2023年第2四半期の決算シーズンを振り返ると、またもジェネレーティブAIが大きな話題を集めている。業界を問わず、さまざまな企業がAIを活用した製品やサービスを競って発表し、あるいは他社が提供する各種のAIツールを導入す […]
2023年第2四半期の決算シーズンを振り返ると、またもジェネレーティブAIが大きな話題を集めている。業界を問わず、さまざまな企業がAIを活用した製品やサービスを競って発表し、あるいは他社が提供する各種のAIツールを導入するなど、議論の中身も多岐にわたる。
数十におよぶ企業が「ジェネレーティブAI」に言及した書類を米国証券取引委員会(SEC)に提出している。その反面、最近相次ぐAI関連のニュースは、この分野で突出したい企業に対して、さまざまな課題を突きつけてもいる。
ガートナー(Gartner)のアナリストであるジェイソン・ウォン氏は、「企業はAI疲れのレベルを評価する必要があり、AIを大規模に導入する準備ができているのかどうかを見極める必要もある」と述べている。
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ジェネレーティブAIのリスク
決算報告とは別に、一部の大手IT企業は安全なAI開発に向けて協力体制を敷きはじめた。たとえば、オープンAI(OpenAI)、Google、マイクロソフト(Microsoft)、アンスロピック(Anthropic)は7月26日、業界標準の策定で足並みを揃えるため、「フロンティアモデルフォーラム(Frontier Model Forum)」という業界団体を発足させたと発表した(この発表に先だつ7月21日、同4社にメタとAmazonらを加えた米AI主要企業の首脳がホワイトハウスに集まり、AIの安全対策等について当局者と議論している)。
また、ジェネレーティブAIを活用した各種ツールが急速に普及していることから、消費者による安全な利用をどう担保するかという新たな問題も生じている。フォレスター(Forrester)が行った最近の調査によると、ジェネレーティブAIを利用する人のざっと半数は、データの扱いについて「無分別」だという。
「SNSに投稿する際、ほとんどの人は外に向けて情報を提供しているという認識がある」と、フォレスターのアナリストであるマイク・プルー氏は話す。「AIツールに関しては、まだこの認識ができていない。公共のジェネレーティブAIツールをめぐる無知、衝動、好奇心ゆえに、多くの人が自社のデータについて判断ミスを犯している」。
ここ数週間に行われた決算説明会や財務諸表の開示で、ジェネレーティブAIに言及した企業の一部を以下にまとめる。
メタ(Meta)
メタの決算説明では、ジェネレーティブAIの話題が幾度も登場した。この説明会のちょうど1週間前に、同社はオープンソースの新しい大規模言語モデル「Llama 2(ラマツー)」を公開したばかりだった。メタは四半期決算書のなかで、AIへの投資の中身として「Facebookとインスタグラムを横断して、個人的につながりのないアカウントから関連性のあるコンテンツを推奨する機能の開発、広告ツールの拡充、新しいプロダクトの開発、AIを活用した既存プロダクトの新機能の開発」などを挙げている。
マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、Llama 2をオープンソースのAIモデルとして提供するというメタの決断について語る一方、AIを活用したプロダクト開発が3つのカテゴリーに分類されると説明した。具体的には、少ないクリエイティブ素材でより多くの広告を配信できるようにすること、生産性と効率性に焦点を当てた社内ツールを構築すること、AIを活用した「エージェント」機能を導入することの3つだという。
なお、ザッカーバーグ氏によると、このエージェント機能については9月に開催予定の開発者向け年次会議「メタコネクト(Meta Connect)」で公開するという。(同氏はさらに、このほど試験運用を開始した「AIサンドボックス(AI Sandbox)」にも言及した(広告コピーのバリエーションの生成、画像の背景の生成、画像のアスペクト比の調整をAIが支援するという)。
メタの取り組みに反発がないわけではない。投資家から成る非営利のアドボカシー団体「アズユーソウ(As You Sow)」は、4月にSECに書簡を提出し、こう訴えた。「メタの誤情報拡散問題は、同社のイノベーション力と競争力を阻害し、リスクを増大させている。(中略)AIは将来的にはソーシャルメディア上の誤情報検知に応用できるかもしれないが、現段階では誤情報と戦うための有効な手段とは言えないうえ、メタの傷ついた企業イメージという問題に対応できるものでもない」。
マイクロソフト(Microsoft)
マイクロソフトの四半期決算説明会で、サティア・ナデラCEOは「マイクロソフト365コパイロット(Microsoft 365 Copilot)」のようなAI搭載ツールがどの業界でも活用できる汎用性の高いツールである一方、「ギットハブコパイロット(GitHub Copilot)」のようなツールは開発者の生産性向上に貢献すると指摘した。さらに、HP、ランドローバー(Land Rover)、アルバートソンズ(Albertsons)、エクイノクス(Equinox)ら、すでに多くの企業が同社のAI搭載ツールを活用していることにも言及した。
AIは「Microsoft Bing(マイクロソフトビング)」の利用拡大にも役立っている。同社が今年1月にオープンAIへの投資を発表し、これを皮切りにAIの推進を開始して以来、誰もが疑問に思っていたことだ。ジェネレーティブAIによる広告事業の成長について、同社は詳しい情報を何ら明らかにしてこなかったが、今四半期の決算報告を見る限り、「検索連動型」および「ニュース」の広告収入は前年比3%増の8600万ドル(約123億円)だった(また、Bingユーザーによるチャットボットの利用が10億件超、Bingイメージクリエイターで生成した画像が7億5000件超におよぶことも発表された)。
「AIへの投資を継続するなかで、Bingの利用シグナルや長期的な機会創出に大きな期待を寄せている」とナデラ氏は語った。
「アジュールオープンAIサービス(Azure OpenAI Service)」の顧客も1万1000社を超えたという。ナデラ氏によると、前四半期は毎日最大100社の勢いで新規顧客が増えたようだ。一方、同社の「パワープラットフォーム(Power Platform)」でAI機能を活用する顧客は前四半期から75%増えて6万3000社を超え、「パワーオートメイト(Power Automate)」の月間アクティブユーザー数も前年比55%増の1000万人に達した。
アルファベット(Alphabet)
7月25日(現地時間)に行われたアルファベットの決算説明会で、スンダー・ピチャイCEOは5月に公開されたGoogleの「サーチジェネレーティブエクスペリエンス(Search Generative Experience)」に触れ、「ジェネレーティブAIを活用して、もっと自然で直感的に使える検索エンジンを実現する」と語った。同社はさらに、ジェネレーティブAIをAndroid 14に統合し、ユーザーが自分の携帯端末をパーソナライズできるようにする計画にも言及した。
対話型AIサービスの「バード(Bard)」にも新機能が追加されるほか、次世代型の大規模言語モデル「ジェミナイ(Gemini)」もまもなく公開の予定だという。ピチャイ氏はまた、テキスト生成AIのコーヒア(Cohere)、ジャスパー(Jasper)、タイプフェイス(Typeface)を含む、ジェネレーティブAIのスタートアップ、いわゆるユニコーン企業の70%以上がGoogleクラウドの顧客であると強調した。
Googleも広告の配信面やフォーマットにジェネレーティブAIを組み込む実験を行っており、一部のツールはすでに公開している。具体例として、シニアバイスプレジデントで最高事業責任者を務めるフィリップ・シンドラー氏は、AIを搭載した「バーチャル試着ツール」と、同じくAIを活用して魅力的な商品画像を生成する「プロダクトスタジオ」を挙げた。年末までに、「顧客のクエリに対してより適切な広告」を生成するためのAIツールを、追加で公開する予定だという。
スナップ(Snap)
スナップは今年2月に、ChatGPTの技術を使った独自のAIチャットボット「My AI(マイエーアイ)」を公開した。7月25日(現地時間)に行われた決算報告会でもMy AIについて語っており、直近、スポンサードリンクを追加する初期テストを開始したという。また、ほかのソーシャルプラットフォームは大規模なAI投資を声高に謳うが、同社のデレク・アンダーソン最高財務責任者(CFO)は決算報告会で、「My AIへの投資はいまのところ比較的少額だ」と述べている。
それでも、同氏によるとMy AIには「検索意図や興味関心を理解するための直接的なインプット」があり、アプリ内の高いエンゲージメントに貢献しているという。エヴァン・シュピーゲルCEOによると、Snapchatが「非常に明確な意図シグナル」を活用して、拡張現実(AR)ツールや広告を含む各種コンテンツのランク付けや最適化を改善する際にも、My AIが役に立っているようだ。
シュピーゲル氏は、「コミュニケーション力という我々の強みを活かし、AIチャットボットでより多くのツールを提供する機会を見出した。さらに、従来は推測するしかなかったが、こうした意図シグナルがあれば、業績の改善を図ることも可能だろう」と期待した。
アドビ(Adobe)
アドビのAI開発は同社独自の画像生成AI技術「ファイヤーフライ(Firefly)」に重心を置き、フォトショップ、イラストレーター、アクロバットを含む各種プラットフォームへのジェネレーティブAI機能の搭載を進めている。
たとえば、シャンタヌ・ナラヤンCEOの説明によると、マーケターがアドビセンセイ(Adobe Sensei)のジェネレーティブAI機能を用いてエクスペリエンスクラウド(Experience Cloud)内でオーディエンスを作成し、このオーディエンスに向けてパーソナライズドキャンペーンを展開するなどが可能だという。アドビはまた、Googleと提携してファイヤーフライの各種ツールをバードに組み込むなど、外部のAI企業との連携も積極的に進めている。
アドビの決算報告書は、AIの潜在的なメリットについて詳しく語る一方、AIのような新興技術の台頭がSNSや倫理問題に絡む新たなリスクを生む点にも言及している。同社の四半期決算報告書には、こう記されている。「社会に及ぼす実質的な影響ゆえに、論争を呼ぶようなソリューションを使用可能にする、または提供する場合、ブランドイメージや競争力の低下、あるいは法的責任などにさらされることも考えられる」。
オムニコム(Omnicom)
AIに注力するのは巨大IT企業だけではない。メガエージェンシーのオムニコム(Omnicom)でCEOを務めるジョン・ウォレン氏は、「ジェネレーティブAIはオムニコムはもとより、業界全体に計り知れない影響を与えるだろう。そこには巨大なビジネスチャンスがあり、我々はAIの導入を急ピッチで進めている」と話した。具体的には、同社が運営するマーケティングプラットフォームの「オムニ(Omni)」にジェネレーティブAIを組み込み、顧客のデータ活用を推進し、提携するテクノロジー各社のジェネレーティブAIモデルの導入を支援するなどしているという。
その反面、オムニコムは潜在的なリスクにも目を向けている。SECに提出した報告書のなかで、オムニコムはジェネレーティブAIの活用にまつわる潜在的な危険性、たとえば「倫理問題、社会の認識、知的財産権の保護、法令遵守、プライバシーとデータセキュリティの問題」などについても考察し、こう指摘している。「AIをめぐる新たな展開、リスクや課題にうまく対処できなければ、新たなリスクがオムニコムに打撃を与える可能性も否定できない」。
四半期決算でジェネレーティブAIに言及したそのほかの企業
- ロシア最大の検索エンジンとして知られるヤンデックス(Yandex)の財務開示によると、第2四半期に配信した広告インプレッションの25%以上がジェネレーティブAI技術に由来し、同社のAIモデル「ヤンデックスGPT(YandexGPT)」は、音声AIアシスタントの「アリス(Alice)」にすでに統合済みだという。
- イーベイ(eBay)は同社が掲げる戦略的イニシアチブの箇条書きで、ジェネレーティブAIに短く触れている。それによると現在、ジェネレーティブAIを活用したモバイルアプリ向けの新機能をベータテスト中だという。この新機能について、同社は「出品者がタイトルまたはキーワードを入力すると、詳細な商品説明を生成してくれる」と説明している。
- 学習プラットフォームのコーセラ(Coursera)はオープンAIとの提携に言及。ChatGPTを搭載したバーチャル学習アシスタントを開発し、コンテンツのパーソナライゼーションを導入した。
- AT&Tはマイクロソフトと共同で「アスクAT&T(Ask AT&T)」というジェネレーティブAIツールを公開したことに触れている。
- インテル(Intel)はボストンコンサルティンググループ(Boston Consulting Group)と共同で、法人顧客向けのジェネレーティブAIツールを開発中だと述べている。
[原文:How generative AI has shown up in earnings chatter again this quarter]
Marty Swant(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)