今週のトピックはFacebookが動画コンテンツの制作・流通の枠組みを整備したことだ。今年はデジタル動画とテレビ動画の融合の年になるとDIGIDAYは伝えてきたが、その進展の速度はすさまじい。Facebookの例は「動画 […]
今週のトピックはFacebookが動画コンテンツの制作・流通の枠組みを整備したことだ。今年はデジタル動画とテレビ動画の融合の年になるとDIGIDAYは伝えてきたが、その進展の速度はすさまじい。Facebookの例は「動画のバリューチェーンをどう築くか」という課題を露わにしている。バリューチェーンとは原材料の調達から製品・サービスが顧客に届くまでの企業活動を、一連の価値(Value)の連鎖(Chain)としてとらえる考え方による。
Facebookは今後導入する動画配信サービスをめぐって、Vox Media、Buzzfeed、グループ・ナイン・メディアなどの若年層向けデジタルメディアと提携した。ロイターが24日(現地時間)報じた。関係筋によると、Facebookはスクリプト付きの時間の長いビデオコンテンツに対し1件当たり最大25万ドルを支払い、権利を取得。時間が短いビデオコンテンツについては1件当たり1万〜3万5000ドルを支払い、制作者に対し、広告収入の55%を支払う。
Facebookは長尺動画に関しては権利をもつということなので、定額型の展開を含みにしている。長尺はNetflix型、短尺はニュースフィードに流しYouTube型というやり方だろうか。
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この枠組みは、Facebookがコムキャストのようなケーブルテレビ事業者と、NBCのようなチャンネルを提供するテレビネットワークを兼ねていて、Vox Mediaなどがスタジオ、制作会社となっている。Vox Media、Buzzfeed、グループ・ナイン・メディア(Nowthisなどの持株会社)はミレニアル世代向けのデジタル動画制作が強みであり、Buzzfeedはもともと「Facebookメディア」と呼ばれるほどFacebookとの親和性が高かった。
3社の共通点はニューヨークの有名なデジタルメディア投資家ケネス・レラー氏の投資を受けていること。グループ・ナイン・メディアはレラー氏の長男、ベン氏が舵取りをしている。一家の投資先にはハフィントン・ポストやビジネスインサイダーもあり、ソーシャルによるコンテンツ流通に長けたメディア運営に長けているのだろう。
ケーブルテレビ網の発達した米国では、視聴者は高額の定額制の支払いを許容してきた。ユーザーにはケーブルテレビを解約してNetflixなどの定額制に移行する「コードカット」の傾向が出ており、昨年ごろからケーブルと同様のパッケージをネットで再現した「ストリーミングテレビ」が登場。最近、米国のキラーコンテンツであるNFLの木曜夜ゲームのライブストリーミング権を獲得したAmazonの参入も取り沙汰されている。FacebookもApple TVなどでストリーミングテレビアプリをローンチしている。
同時に広告予算でもダイナミックな動きが起きている。米国では2016年に、デジタル広告収益がテレビ広告収益を超えた。この記事で解説したが、IAB-PwCのネット広告レポートはデジタル広告費は今後数年間のうちにモバイルに集中すると予想する。モバイル動画は特に伸びが著しい。
マーケティングリサーチ会社eマーケターによると、米国のデジタル広告費は2016年に広告全体36.7%を占めた。2021年には過半に達すると予測される。モバイルがデジタル広告の成長を牽引し、2017年の段階でデジタル広告費の70.3%に達する。
動画視聴がデジタルデバイス、特にモバイルに移転したと、大手プラットフォームはかなり前から主張してきたが、その事実をマーケティング予算がついに追いかけようとしていると推測される。
新しい枠組みのテスト進む
日本でもテレビ事業者と広告代理店が動画プラットフォームの整備に動いている。
23日のプレスリリースによると、TBSホールディングス、日本経済新聞社、テレビ東京ホールディングス、WOWOW、電通、博報堂DYメディアパートナーズは有料の動画配信サービス新会社「株式会社プレミアム・プラットフォーム・ジャパン」を共同で設立することに合意した。定額制動画配信、独自コンテンツ制作などを目指し、テレビ離れ層などに伝えるという。開始時期は2018年4月を予定。
日本でも「火花」「ドキュメンタル」で吉本興業が制作、Netflix、Amazonプライムビデオが配信するという枠組みができた。動画を人々のもとに提供するコストが落ちたいま、優秀なクリエイターが豊かな制作費で、質の高いコンテンツを生み出すことを許容できるバリューチェーンを築くことが大きな差別化要因になりそうだ。Facebookの動きもそのひとつ。
以下、今週のほかのトピック。
▼三菱UFJ、トヨタが企業向けEthereumに参画
分散型アプリケーションプラットフォーム、イーサリアムは、企業向けの「Enterprise Ethereum Alliance」新規加入企業86社を発表した。三菱東京UFJ、トヨタリサーチインスティテュートが参画。トヨタリサーチインスティテュートは人工知能研究機関であり、自動走行車やIoTなどの文脈とブロックチェーンがつながるか、憶測が出ている。
▼ラストクリックアトリビューションよ、さらば?
Googleはマーケティング関連年次イベント「Marketing Next 2017」で、新しいツール「アトリビューション」を発表した(北米のみ)。アトリビューションはオンラインとテレビも含むオフラインの広告の貢献をラストクリックではなく、データドリブンな形で評価できるとしている。
一人でデバイス数台を使う場合、何台ではなく何人に広告をリーチさせたか分かる「ユニークリーチ」機能などもついた。Facebookが「ビジネスマネージャ」で提供する「人ベースの効果測定(People Based Measurement)」と同じ領域。
▼R/GAが日本オフィス開設
広告ホールディングス世界4位のインターパブリック・グループ傘下、クリエイティブエージェンシーR/GAは25日、東京オフィスを開設したと発表した。メンバーは楽天、電通出身者など。R/GAの詳細はこのDIGIDAY記事で。
▼ソフトバンクが「謎の半導体企業」株40億ドル相当保有
ソフトバンクが米AI半導体メーカー、NVIDIAの株式約40億ドル相当を買い集め、第4位の大株主に浮上。ブルームバーグが報じた。日経ビジネスが「トヨタが頼った謎のAI半導体メーカー」と形容するエヌビディアだが、AI開発の重要な基盤を握る、時価総額約9兆円の企業だ。
Written by 吉田拓史 / Takushi Yoshida
Photo by GettyImage