米国のAmazonがようやく、過激な政治思想を掲げるグループの商品の取り締まりに乗り出した。1月第3週に、AmazonはQアノンの関連商品をマーケットプレイスから一掃することを発表した。また、同種の商品の提供を継続する業者には、追放という非常に厳しい措置に踏み切るという。
米国のAmazonがようやく、過激な政治思想を掲げるグループの商品の取り締まりに乗り出した。
1月第3週に、AmazonはQアノンの関連商品をマーケットプレイスから一掃することを発表した。また、同種の商品の提供を継続する業者には、追放という非常に厳しい措置に踏み切るという。この決定に先立ち、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)が右翼団体の過激派活動の温床となっていたSNSアプリ、パーラー(Parler)を排除した。さらにAmazonは、オースキーパーズ(Oath Keepers)やスリーパーセンターズ(Three Percenters)といったグループが出品している民兵組織の商品も排斥している。こういった取り組みの結果、ついにAmazonから白人至上主義の書籍が無くなったという報道も見られる(米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテールはAmazonにコメントを求めたものの、この記事の発表までに反応は得られなかった)。
フロリダ大学電気通信学部の教授、ジアン・シン氏はこれについて「かなり思い切った決定」と驚きの声を上げている。FacebookやTwitterではすでに、危険な情報を含むコンテンツの排除を目的に「ファクトチェック」ラベル制度を導入し、またFacebookに至っては諮問委員会も設立しているが、Amazonはこれまでにこういった措置を一切講じていなかった。
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独自性が見られないAmazonの対応
Amazonは、Facebookのように純粋なコンテンツ企業ではない。だが、米国ではSNSプラットフォーマーが問題のあるコンテンツの取り締まりに積極的に乗り出しており、またショッピファイ(Shopify)はトランプ氏関連のストアの停止措置に踏み切っている。これらの動きが、今回のAmazonの決定に少なからず影響を及ぼしたと考えられる。ガートナー(Gartner)の小売業界アナリストのチェルシー・グロス氏は、「大手SNS企業やコマースプラットフォーマーは、現時点でいずれも似たような対策を採っている」と指摘する。「各社のあいだでは、流れに乗り遅れまいとする、一種のトレンドとなっている」。
Amazonはこれまで、過激派やワクチン反対派をはじめとする有害サイトの取り締まりに消極的だった。そんな同社がこうして非常に目立つ動きを採ったことで、今後さらに積極的な対策が進むのではないかと期待する声は少なくない。だがグロス氏は、「新たな時代の幕開けであるとか、業界の構造が変わるとは言い切れないのではないか」と釘を刺す。「Amazonの対策に、独自性がほとんど見当たらないのだから」。
もちろん、Amazonが方針転換を考えていないとは言い切れない。その一方で、実施面での問題がある。そもそも今のAmazonのアルゴリズムでは、問題となるサイト(主に商品販売サイト)を完全に排除するのが困難である。Amazonのお勧めサイトのアルゴリズムは、完全に中立的なものとして設計されている。これが変わらなければ、ワクチン反対派や白人至上主義団体の商品やコンテンツなどのサイトが、監視の目をすり抜けて検索結果として表示されてしまうケースは今後も起きていくだろう。
「おすすめ商品」を導き出すアルゴリズムの役割
Amazonは、これまでコンテンツの取り締まりが不十分であるとたびたび非難されてきた。それは、いわゆる「おすすめ商品」を表示するアルゴリズムによるところが少なくない。Amazonは、アルゴリズムの正確な仕組みについては公開していないが、シン氏は「検索キーワードや売上、レビュー、購入履歴、ショッピングカートの中身、似たようなユーザーが購入した商品など、数百の要素を組み合わせている可能性が高い」と分析している。
これまで行われてきたいくつかの研究結果により、Amazonのアルゴリズムは虚偽情報を助長するような商品に対し、完全に中立的なアプローチをとっていると考えられている。そのため、危険性を含むコンテンツが上位に表示される要因となっている。わかりやすい例が、Amazonのマーケットプレイスに表示されるワクチン関連の書籍だ。シン氏は、Amazonの推奨品表示アルゴリズムとワクチン反対派の書籍の関連性について研究した論文を昨夏に発表している。同論文は、次のような結論を導いている。「Amazonのアルゴリズムはあらゆる変数を取り込み、プログラムを実行して結果を算出する。このアルゴリズムは、ワクチン反対派の書籍を優遇しているわけではない。一方で、事実に基づいたワクチン賛成派の書籍と比べて、反対派の書籍の優先度を下げているわけでもない」。
現実として、Amazonではワクチン反対派の書籍がトップセラーに名を連ねている。それは、Amazonのプログラムが処理する「客観的な」要素(売上やレビューの数)が、結果としてワクチン反対派のコンテンツにとって有利に働いているためだ。シン氏は、「アルゴリズムは情報を取得し、結果を調整するだけの存在だ」と語る。「アルゴリズムにバイアスがあるとは思わない。だが、より責任あるやり方へと改善していく必要はあると思う」。
2020年秋に発表された論文でも、この現象は裏付けられた。そしてこの論文では「正確な情報を配信する(つまり、虚偽情報を流布しない)サイトよりも、虚偽情報を流布するサイトのほうが高い評価を受けている」と結論付けられている。米非営利報道機関プロバブリカ(ProPublica)は、最近実施した「Amazonにおける白人優位主義に関する調査」のなかで、こういった類の本の読者が、レビューで高い点数をつける傾向があり、結果として検索結果で高い順位に表示されがちだと指摘する。
「虚偽情報を売る」歴史は長い
Amazonではこれまでも、「憎悪、暴力、人種差別、性的差別、宗教的差別を助長、扇動、または称賛する商品、もしくはそのような価値観を擁護する団体を助長する商品の出品」が禁止されてきた。しかし、実際にそのポリシーに従った行動は、これまでほとんど見受けられなかった。大手メディアは、2018年以降にAmazonでQアノン関連の商品が増えていると何度も指摘してきた。過激派によるブーガルー運動(米国の極右や反政府、過激派グループによる政治運動)関連商品の陳列も多く見られるのが現状だ。それ以前にも、Amazonはワクチン反対派の商品を多数出品させているとして批判を受けてきた。
2019年3月のCNNによる報道を受けて、Amazonがプライムのワクチン反対派の動画を削除したという例はある。だがこれは例外的で、決してこれまで積極的な取り組みは行われてこなかった。「Amazonはこういった取り組みをアピールしてこなかった」とグロス氏は語る。
しかも、これらの問題のある商品が人目に触れずこっそりと売られているのではなく、堂々と紹介され、販売されている。2019年には、「Qアノン: 素晴らしき気づきへの招待(QAnon: An Invitation to the Great Awakening)」という本が、Amazonの売れ筋ランキングのトップ50に入ったこともある。昨年10月にモダンリテールが行った調査では、Qアノンを象徴するマークの帽子が「Amazon’s Choice」とされていたことも判明している。
シン氏は、Amazonが「民主的な見地から商品の推奨を決めているわけではないのだろう」と語る。確かに、AmazonはQアノンや白人至上主義に関連する商品を撤去する決定を下した。これにより、少なからずAmazonは健全な方向へと進み始めたように思える。だが、Amazonの有する「徹底した中立性」、これが危険性を含んだ商品の表示につながっていることに変わりはない。今後、そうした商品の取り扱いに対しユーザーからの厳しい目が注がれるようになれば、本格的な変革が進められていくのではないだろうか。
[原文:How Amazon’s algorithm allows extremist merchandise to spread]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)