今春、米国のAmazonは大混乱に陥った。現在、販売業者は今後の大きな変化を想定し、さまざまな方策を試みている。Amazonの専門家は、春ほど極端な状況にはならないだろうと予測する。だがクリスマスシーズンを控えてAmazonもパニック買いに対する準備を着々と整えている。
今春、米国のAmazonは大混乱に陥った。
まずはロックダウンによるパニック買い(買い占め)が発生。さらに一部の卸売業者がこの状況につけこみ、マスクや消毒剤といった必需品の価格を吊り上げた。実際、価格が10倍に暴騰するケースも少なくなかった。これを消費者やメディア、さらに33州の法務長官が問題視し、全米に大きな話題として取り上げられた。自らの健康を守るための商品を人々が必死に求めているさなか、多くの人が利用するAmazonではこうした商品が法外な値段で売られていたのだ。大きな非難を受けたAmazonは、卸売業者の取り締まりを行った。だが、不当にアカウントが凍結された事業者を多数出したため、騒ぎのなかで拙策を講じた形となり、混乱を助長してしまったのだ。
現在、販売業者は今後の大きな変化を想定し、さまざまな方策を試みている。Amazonの専門家は、春ほど極端な状況にはならないだろうと予測する。だがクリスマスシーズンを控えてAmazonもパニック買いに対する準備を着々と整えている。しかし一方で未解決要素も多く、問題が起きる可能性がまだまだ残されたままとなっている。
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厳しい春
Amazonが利用する販売コンサルティング会社、バイボックスエキスパート(Buy Box Experts)の共同経営者ジェイムズ・トムソン氏は「何カ月も同じ価格帯で商品を販売していたのに、Amazonから『不当な価格』で販売していると判断されたクライアントが何社もある」と明かす。同氏が間違いを指摘して、すぐにAmazonがアカウントの凍結を解除したケースも少なくないという。だが、それ以外のクライアントの場合、販売業者の凍結解除の申立は困難を極め、「解除するまでに文字通り数週間かかった」という。
Amazonも販売業者も、この春のような騒ぎは2度とごめんだろう。実際、今春と同じ規模のパニック買いが起きる可能性は低いと想定されている。だが小規模ながら、パニック買いが発生するという懸念は絶えない。たとえば再度ロックダウンが始まった欧州では、必需品が店からなくなるという現象が起きている。一方、米国ではロックダウンが再び行われたわけではないが、新型コロナウイルス感染者数は過去最大を記録しており、非常に暗い見通しとなっている。ある調査では、米国人の52%が買い貯めをしているという結果が出ている。
だが、もしふたたびパニック買いが起きた場合でも、Amazonはすでに対策を講じているため、パニック買いに伴う価格高騰を防ぐ準備が整っていると自信を覗かせる。Amazonの専門家は、「以前のような、価格の不当な吊り上げが大量に起こることはないだろう」としつつ、「販売業者のアカウント凍結は、むしろ以前より増えるのではないか」と懸念している。Amazonの問題はふたつある。まずひとつが、Amazonが同社プラットフォーム上の業者すべてを調査するのは不可能だという点。そしてもうひとつが、システムのアルゴリズムの都合上、不当価格を設定していない業者のアカウントが、誤って再び凍結されるケースが起きる可能性があるという点だ。
確かにパンデミックはAmazonにとっても予想外の事態だったが、Amazonにおける価格吊り上げの問題は以前からあり、同社は何年も前から対策を講じるべく新しいアルゴリズムの採用とともに、システム改修を繰り返してきた。トムソン氏は「新しいアルゴリズムはこれまで、特にクリスマスシーズンに活用されてきた」と語る。たとえば12月15日に人気のおもちゃが売り切れている場合、Amazonではこの商品を3倍、4倍といった価格で販売しようとする業者をブロックする。
そしてこのアルゴリズムは、今年の春にも使用された。だからAmazonが失敗から学んでいるのは言うまでもない。ここ数カ月、Amazonはパンデミックで明らかになった新たな抜け穴を埋めるためアルゴリズムをアップデートした。たとえばザ・バージ(The Verge)は商品を「コレクターズアイテム」として掲載することで、新アルゴリズム採用後もアカウント凍結をすり抜けた業者を指定している。たとえば、ボウフレックス(Bowflex)のあるダンベルは、コレクターズアイテムとして元の価格の5倍以上の1275ドル(約13万3000円)で取引されていた。
トムソン氏は、「ただし、こういった問題は常にいたちごっこを続ける」と指摘する。Amazonはその巨大さゆえに、価格吊り上げへの対処方法が限られてしまう。「業者側も、いずれはAmazonの摘発システムを回避する方法を見つけ出してしまう」と同氏は語る。「Amazonが扱う商品数はあまりにも膨大で、商品を人間がすべて追うのは難しい」。
価格高騰をめぐる新たな戦い
実際にパニック買いが始まれば、たとえAmazonがどれほど対策を講じていたとしても、価格の高騰は起こるだろう。すでに、今秋にも新たな抜け穴が見つかっている。Amazonの価格検知アルゴリズムをすり抜けようとする業者が多く使うようになっているのが、「メタデータでウソをつく」という方法だ。たとえば除菌ワイプの場合、Amazonでは、除菌ワイプに分類される商品の価格確認はかなり正確に機能している。だが、もし業者が故意に商品カテゴリーとUPC(北米で使われる商品コード)を誤ったものに設定した場合、Amazonのアルゴリズムは価格のつり上げを検知できない。
こういった勝ち目のない状況の中、Amazonもこの抜け穴については認識しているようだ。同社は5月に米議会に対し、こういった行為を規制するよう求めている。だが、ここで大きなハードルとなっているのが、米国では州ごとに価格設定に関する法律に大きなバラつきがある点だ。たとえばカリフォルニア州では「10%以上の価格高騰」を吊り上げと設定している一方で、ニューヨーク州では「不当で過剰な値上げ」という曖昧な表現となっている。他の州では、25%の価格高騰を吊り上げと設定しているところが多い。このように州法にバラつきがある以上、Amazonも価格の吊り上げに簡単に対処はできないのが実情だ。
販売業者の側でも、懸念は尽きない。価格の吊り上げを行っている商品の掲載を停止し、アカウントを凍結するというのは、Amazonにとって真剣に取り組んでいることを示すアピールになる。実際、同社は50万の商品ページを掲載停止したことを大きく取り上げており、今後も同社が再び凍結に踏み切るという可能性は十分に考えられる。Amazon販売業者をクライアントに抱える弁護士のCJ・ローゼンバウム氏は「Amazonの販売業者の大半は、アカウント凍結を恐れている」と語る。
一方同氏は、「Amazonが再び価格吊り上げ対策を見直すとしても、前と同じように大量の凍結処分が行われることはないのではないか」と楽観視しているという。「常にAmazonから情報は共有されているので、そこまで懸念はしていない」。ローゼンバウム氏のクライアントのなかには、すでに準備を始めている販売業者もあるという。たとえば、一部の必須商品は価格が高騰し、アルゴリズムに引っかかる可能性が高いため、取り扱いを一時的に停止するといった対策だ。
いずれにせよ、Amazonにこういった価格の吊り上げを完全に防止することを期待するのは厳しいだろう。一方で、そもそもAmazonでこういった懸念が出ること自体がAmazonの強さを表しているといえる。トムソン氏は次のように指摘する。「我々はAmazonというひとつのチャネルに依存し過ぎなのだ。もし我々がみな、Walmart.comでショッピングをするようになれば、次はWalmart.comで価格のつり上げが起きるはずだ」。
[原文:How Amazon is trying to safeguard the next wave of panic buying]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
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