「ウィー・アー・ノット・リアリー・ストレンジャーズ(We’re Not Really Strangers:WNRS)」という、メンタルヘルスにフォーカスしたカードゲームがいま、TikTokをきっかけに話題になっている。
「ウィー・アー・ノット・リアリー・ストレンジャーズ(We’re Not Really Strangers、以下WNRS)」という、メンタルヘルスにフォーカスしたカードゲームがいま、TikTokをきっかけに話題になっている。
このゲームは、カードをめくると質問が書いてあり、答えることでお互いの仲を深められるという内容。TikTokのオフィシャルアカウントは、ローンチからわずか1年で、300万近くのフォロワーを獲得している。同アカウントから投稿された動画の総再生数は現在、約3億3600万回。一方、WNRSのハッシュタグの付いた投稿の再生数は7350万回と、4分の1以下となっている。WNRSは収益額を明かしていないが、TikTokにおける、D2Cブランドの情報分析を行っているネクストブランド(Nexttbrand)のニュースレターでは、WNRSは人気ランキングで21位となっている。この順位は、有名ブランドのカラーポップ(Colourpop)や、カイリー・ジェンナー氏のカイリー・コスメティクス(Kylie Cosmetics)といったインフルエンサーブランドを上回る。
WNRSのデジタル、およびeコマース担当 バイスプレジデント、ジェシカ・ポッツ氏は「TikTokにおけるプレゼンスは、間違いなく我々の中核戦略が実を結んだ結果だ」と胸を張る。「TikTokやインスタグラム用にコンテンツを作っても、ここまで上手くいくことは希だといって良い」。
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WNRSは、友人や恋人とより親密になることができる、そんなゲームだ。カードには質問が書かれている。たとえば「私はコーヒー派か紅茶派、どちらに見える?」といった内容で、それを相手に問いかける。またWNRSは、メンタルヘルスにも焦点を当てている。ゲームの核をなすのは「自分を大切にする」「自分の価値を信じる」といったテーマだ。それゆえTikTokに投稿された動画には、セルフケアのためのメッセージが散りばめられている。ひとつ例を挙げよう。ある動画では、通りにある看板がズームアップされる。そこにはこう書かれている。「相手を愛することで、傷つく必要はない」。ゲームについての最新リリースなどもたまにあるが、投稿の大半を占めているのは、セルフケアやメンタルヘルスに関する内容だ。
自ら発信することを重視
TikTokだけでなく、インスタグラムでも絶大なリーチを誇るWNRSだが、ポッツ氏は今後もなるべく自らコンテンツを発信していきたいと考えているという。投稿内容を考えているのは、少人数のチームだ。非公式にアイデアを募集したり、提案したりすることもあるが、基本的には自分たちのペースで、自分たちのアイデアによる投稿を行っている。「真夜中に、『良いアイデアが思い浮かんだ』というメッセージが送られてくることもある」とポッツ氏。「そこから、チームで一気にアイデアを肉付けして投稿する」。WNRSの動画は「5秒くらいで考えて投稿するものもあれば、構築から話し合いまで、長い時間をかけるものもある」という。
また同社では、動画が話題になり人気が高まると、売上にも良い影響が見られている。米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)が売上の伸びについて問い合わせたものの、「動画を投稿する主目的は、コミュニティの構築にある」として、残念ながら具体的な回答は得られなかったが、「ある商品の売上が、前日比で950%増加したこともある」とのことだ。
先述したネクストブランドのサーシャ・シルコ氏は、「WNRSはスターフェイス(Starface)やドゥーラッシーズ(Doe Lashes)といった美容ブランドと並び、一般的な知名度と比べてTikTokでとりわけ大きなプレゼンスを放っている」と分析する。また、WNRSがインフルエンサーを登用して知名度を上げるのではなく、自身によるコンテンツ発信を重視して成功を収めている点についても称賛する。
カードゲームとTikTokの相性
これまでも、TikTokが持つ商品をヒットさせる力は話題になっていた。たとえば2021年2月、米国Amazonで一番検索数が多かった「TikTokレギンス」も、TikTokで人気になった商品だ。だが、TikTokでプレゼンスを維持し続けるのは容易ではない。チポトレ(Chipotle)をはじめ、すでにある程度の知名度がある小売りチェーンであればさほど苦労しないだろうが、D2Cブランドとなると話は別だ。
そもそも、TikTokは動画ベースのプラットフォームで、一見カードゲームとは相性が良くないようにも思える。シルコ氏によれば、TikTokでトップのD2Cブランドの多くは美容やアパレルブランドで、いずれも視覚が重要な要素であるTikTokに適している。「メイクやエクステ、まつげなどはまさに『TikTok映え』するコンテンツだ」。実際、美容ブランドたちは非常にニッチな分野にも進出している。たとえばフローレンスバイミルズ(Florence by Mills)やグロッシアー(Glossier)、ミルク(Milk)といったブランドは、メイクのASMRを展開。TikTokユーザーからは、「不思議だが、満たされる感覚がある」と評判だという。ただ、カードゲームでこれを再現するとなると、そう簡単ではないだろう。
共感してもらえるテーマを重視
TikTokでは、「商品情報ではなく、共感してもらえるテーマを重視」して投稿する企業が増えている。たとえば、キャンドルブランドのホームシック(Homesick)は、キャンドルを最大限楽しむための方法を、発信している。WNRSも、メンタルヘルスにフォーカスしたテーマで、投稿を行っている。「商品自体は、あまり動画に向いていない。ならばどうすればオーディエンスの心をつかめるか、視点を変えて別の手法を考える必要がある」とシルコ氏。「ただろうそくを灯す動画を見ても、あまり楽しくはないだろう」。
WNRSは、TikTokやインスタグラム以外でも、メンタルヘルスをテーマにさまざまなチャネルでコンテンツを展開している。同社は製品の最新情報の代わりに、ユーザーに対し「周りに優しくしよう。私たちは皆、最善を尽くしているのだから」といったメッセージを届けている。
シルコ氏は「こうしたメッセージはとりわけコロナ禍のなかでオーディエンスの共感を得やすい」と指摘する。「商品を売るのではなく、共感してもらえるようなコンテンツを届ける。それが、彼らの見出した新たなアプローチだ」。
[原文:How a little-known card game took over TikTok]
MICHAEL WATERS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)