TikTokはこの1年間でオンライン新興企業、特にレシピに適している飲食品ブランドの間で一般的なマーケティングツールになった。有料広告モデルは依然として初期段階だが、新興企業のブランドはアーリーアダプターとしてこの機会に飛びつきつつある。
こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります
TikTokはこの1年間でオンライン新興企業、特にレシピに適している飲食品ブランドの間で一般的なマーケティングツールになった。一方でギャップ(Gap)、パクサン(PacSun)、ウォルマート(Walmart)といった小売業者はTikTok広告に慎重に足を踏み入れている状態だ。
ブランドへの認知を広め、顧客を獲得するための場としてTikTokを試すブランドが増え続けている理由はいくつか存在する。1つは、このプラットフォームの膨大な視聴者数(TikTokのユーザー数は9月に10億人に達した)がバイラル化マーケティングに適していることだ。またTikTokは、FacebookやGoogleのようなコスト高のほかの広告プラットフォームの代替品として成長しつつある。その結果、TikTokはショッピファイ(Shopify)との直接統合や有料広告の導入などによって、eコマース機能を急速に充実させつつある。有料広告モデルは依然として初期段階だが、新興企業のブランドはアーリーアダプターとしてこの機会に飛びつきつつある。
Advertisement
デジタルマーケティング代理店のオープンインフルエンス(Open Influence)のCEOであるエリック・ダーハン氏は、TikTokの使用は、有料のFacebookやインスタグラム広告に強く依存していた「D2Cマーケティングの黄金時代の末期」にちょうど間に合うように到来したと語る。TikTokは、楽曲やアーティストがバイラル化するよう支援することで、まずは音楽業界に影響を与えたとダーハン氏は言及している。現在は、小売ブランドがそれを探り出そうと試みている。
「これはまだアーリーアダプターの段階で、現在TikTokを使用している会社は最初の使用者であることにより利益を得ている」とダーハン氏は述べている。それでも、TikTokがアルゴリズムを駆使しているため、「自社の商品に興味を持ってくれる顧客を見つける」機会は無数に存在するだろうと氏は語っている。
バイラル性を利用して小売業者の目をひく――スパイクセルツァーのネクター(Nectar)の場合
2020年秋、スパイクセルツァーブランドのネクター(Nectar)にとって、TikTokが最後の頼みの綱になったと、共同創設者のジェレミー・キム氏は米モダンリテールに語った。キム氏はロサンゼルスを拠点とする同社によるスパイクセルツァーが、一連のサプライチェーン遅延のあとに発売されたために失敗したと考えていた。同ブランドは2020年の夏に発売される予定だったが、店頭に並んだのは同年の年末だった。
サンプルを手に、「私たちは200の小売業者に働きかけ、すべてに断られた」とキム氏は述べる。そのあとに氏は、TikTokで小売業者の注目を引くというアイデアを思い付いた。
「私たちは、アジア生まれのセルツァーを試してみてほしいという動画を作成し、動画の最後に電話番号を記載した」と氏は述べる。彼ら創設者たちは、ロサンゼルス現地の視聴者に対して、セルツァーを試してみたければ番号をテキストで送るように呼び掛けた。数日後に「投稿が爆発的な人気となった」と氏が表現しているように、動画が数千回も再生され、セルツァーを求める何百ものコメントが書き込まれた。その後、氏は現地の小さな店をまわり、TikTokでの評判を見せて「この商品への需要があることを説明した」。
それ以来、ネクターは次に商品を発売する場所を見極めるため、TikTokのリクエストのおかげで増え続けている自社のSMSリストを使用してきた。「これを使い、ロサンゼルスからオレンジ郡とサンディエゴに展開を進めた」と氏は述べる。
ネクターはTikTokの有料広告プログラムには参加していない。ここではアルコール飲料の広告がまだ許可されていないためだ。今のところ、同社は有機的に商圏を拡大していくとキム氏は語る。10月には、アンダーザインフルエンス(Under the Influence)という名前でTikTokの飲酒番組ページを開設し、12万人のフォロワーを獲得した。「TikTokでは、単に缶の写真を見せるわけにはいかないため、真正のコンテンツを作る必要がある」と氏は述べている。
ハードセルツァー市場は飽和しており、トルーリー(Truly)やホワイトクロー(White Claw)などの大手も含まれているため、(ネクターの#QuitTheClawハッシュタグのような)バイラル化に挑戦して競合に打ち勝つ必要があるとキム氏は語る。ネクターは来年に自社のハードセルツァーを100万人に試してもらうという使命も掲げ、自社のTikTokページ全体で宣伝している。
今日までのところ、ネクターのチームはカリフォルニアの小売業者250社に自分たちで商品を配送し、自社ウェブサイトから32州に発送している。同社の最近のバイラル性は、配送サービスのベブモー(BevMo)やゴーパッフ(GoPuff)とのブランドパートナーシップを締結するためにも役立っている。「現在では、当社が一貫した販売実績を見せられるようになったため、従来型の流通業者とも商談を行っている」とキム氏は述べている。同社は今月、ワシントン州に展開するため流通業者と契約した。「これは、今年の夏にシアトルで開いたポップアップで340ケースの商品を売り切ったことで成立したものだ」と氏は述べる。
コンバージョンを計算するのは難しいが、キム氏は同ブランドのTikTok再生回数が自社のD2C販売の成長と相互に関連しており、さらに場合によっては地元の小売販売店とも関連していると語っている。たとえば今週、ネクターの動画の再生回数は700万回に達した。「当社はほぼ同時に25の店舗から、当社の商品を扱いたいという要請を受けた」とキム氏は述べている。
この電話番号を使った大胆な行為はずっと続けるとキム氏は語る。「当社は300以上のテキスト登録があった都市であれば、どこにでも出向く」。
若い顧客層との接触――天然石けんのドクタースクアッチ(Dr. Squatch)の場合
天然石けんブランドのドクタースクアッチ(Dr. Squatch)にとって、TikTokは若い顧客層を増やすための中核チャネルとなった。
ドクタースクアッチの最高マーケティング責任者であるジョシュ・フリードマン氏は、同社は2019年末にTikTokを試しはじめ、一部の動画は急速に再生回数が1億回を超えたと語っている。
「当社はマンスケープド(Manscaped)に次いで、TikTokで2番目に大きな男性向けグルーミングブランドだ」と氏は主張している。氏によれば、インスタグラムが30代中盤の年齢層に偏っているのに対して、TikTokはより若い層である20代中盤の男性を顧客に加えられるチャンスだ。同社のTikTokページは現在11万3000人のフォロワーを持ち、100万を超える「いいね」を獲得している。
「当社は、TikTokが今年、自社の広告プラットフォームを開設した直後に使用を開始した」とフリードマン氏は述べる。現在のところ、ドクタースクアッチが新たに獲得する顧客のうちの15%はTikTokからのものだと氏は語っている。TikTokはFacebookに次いで、同ブランドの2番目に大きな広告チャネルで、Googleと同等になっている。「当社はTikTokの有料広告に投資し、当社独自のユーモラスなコンテンツと組み合わせるつもりだ」と氏は述べている。
広告の面では、ドクタースクアッチの社内チームはバイラル化成功のチャンスを増やすため、毎週10〜20件の動画を作成してアップロードしている。オーガニックの面では「毎日、または1日に何回も投稿を行っている」とフリードマン氏は述べている。
TikTokの若い顧客の希望に応え続けるため、ドクタースクアッチは定期的に限定版のソープバーを発売している。最新のものはビデオゲームフランチャイズのハロ(Halo)とコラボレーションしたものだ。フリードマン氏によれば、ドクタースクアッチは依然として「99%がD2C」であり、顧客の獲得と保持のためソーシャルメディアに依存している。同社は2019年から2020年に前年比で400%の成長を達成し、昨年の売上は1億ドル(約114億円)に上った。
最初の時点から「当社の戦略はチャネル混在の多様性を生み出すことだった」とフリードマン氏は述べる。ドクタースクアッチはYouTubeとスナップチャット(Snapchat)のページも積極的に運営している。「当社は依然としてFacebookに多額の投資を行っており、これは機能してはいるが、以前のように完璧なものではない」。
TikTokの変わった習慣を受け入れる――ウェルネスブランドのアラーエ(Arrae)の場合
消化器向け健康サプリメントを販売しているウェルネスブランドのアラーエ(Arrae)は2020年の設立直後、プラットフォームの名前を広めるための方法としてTikTokを選択した。アラーエの共同創設者のニッシュ・サマントレイ氏は「TikTokがバイラル性を得るのに優れたチャネルであると思われたので絶対に使用したいと考えた」と述べている。サマントレイ氏がニューヨーク市の自宅のアパートで配送ラベルを印刷している動画の投稿は、すぐに数百万再生を達成し、50万近くの「いいね」を獲得した。
「TikTokの視聴者は、他人が荷造りしているのを見るのを好む」とサマントレイ氏は、ソーシャルネットワーク上で人気の整理整頓トレンドを指して述べている。「成長中の小規模ビジネスの舞台裏を視聴者に見せてみたらどうだろうかと考えた」。
それ以来、アラーエのチームは自社の日常的で平凡な作業として、顧客からの注文の品を梱包する様子などを紹介するためTikTokを使用してきた。これらの投稿はTikTokユーザーからのエンゲージメントが最も高く、D2Cの売上が明らかに増大したとサマントレイ氏は語る。またチームは、チームのメンバーと各自の役割を紹介する動画も作りはじめた。「ときには、癒される作業の動画に当社のプロセスについての音声を重ねて、教育的な要素を持たせることもある」とサマントレイ氏は述べている。
アラーエもまた、顧客からのTikTokのクラウドソーシングを開始した。「当社は顧客が自分たちの購入したものをフォロワーに見せ、商品について気に入った点を伝えるよう促進している」とサマントレイ氏は述べている。
同ブランドは今年、多くのマイクロインフルエンサーとの協力を開始した。特にウェルネスと胃腸の健康に関して、アラーエの商品の材料を使用する料理やレシピについて話し合っている。
オーガニックなコンテンツとは別に、TikTokは予算の限られている新興ブランドにとって安価な広告プラットフォームでもある。サマントレイ氏は、Facebookの現在のCPM率が23ドル(約2620円)前後であるのに対して、TikTokは12ドル(約1370円)から13ドル(約1480円)であることを指摘している。「当社のクリックスルー率は3%を超えており、これは十分な量だ」と氏は述べている。アラーエはTikTokのスパークアド(Spark Ads)機能も活用しており、これによってページで自社の以前の動画をプロモートできる。
しかし、小規模な企業にとっての利点の1つは顧客サービスサポートで、TikTokが構築してきたものだ。サマントレイ氏は次のように語っている。「私は、Facebookの誰とも話ができたことがない。TikTokでは、何人かの人々が私たちと毎週連絡を取ってくれる」。
広告がバイラル化することはパズルのごく一部だが、「結局は魅力的なコンテンツを作ることに尽きる」とサマントレイ氏は述べている。そのようなコンテンツは、アルゴリズムにより何千もの人々に表示され、視聴者が「いいね」やシェアをしてくれるかどうかにかかっている。
それでも、アラーエにとって直接販売のコンバージョンは依然として低い。「この部分において、十分な結果は依然として得られていない。TikTokは依然として当社の有料広告総予算の5〜10%でしかない」とサマントレイ氏は述べている。
[原文:How 3 DTC startups are using TikTok to grow their businesses]
Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)