QR技術は30年近く前に登場したもので、これまでブランドがデジタル素材を物理的な顧客に簡単に売り込むための手段でしかなかった。だが2020年、そんな二次元コードが新たな高みに達した――QRは現在、中小企業にとっての主要な支払手段として利用されるとともに、多くの商品パッケージやDMカタログに付与されている。
おなじみの二次元コード、クイック・レスポンス(QR)コードはいまや、コロナ禍を代表する存在になった。
英調査会社ジュニパー・リサーチ(Juniper Research)の最新報告では、2022年までにおよそ53億個のQRコードクーポンが利用されることになるという。この莫大な数字に大きく貢献しているのが、近年におけるQRコード使用数の急増だ。マーケティングデータベース、スタティスタ(Statista)は、2020年末までにQRコードを読み取る世帯数は約1100万に上ると予想した。データ分析プラットフォーム、ブルー・バイト(Blue Bite)によれば、最近のQRコードの累積成長には著しいものがある。2018年から2019年にかけて26%増だったQR利用数は、2020年に35%増を記録した。
QR技術は30年近く前、90年代半ばに登場したもので、これまでブランドがデジタル素材を物理的な顧客に簡単に売り込むための手段だった。だが2020年、そんな二次元コードが新たな高みに達した――QRは現在、中小企業にとっての主要な支払手段として利用されるとともに、多くの商品パッケージやダイレクトメールカタログに付与されている。サイン/ディスプレイ用のアドオンでしなかったものが、主要なマーケティング&コマースツールにまで成長したのだ。
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たとえば、米大手薬局チェーンCVSは2020年夏、QRコードによる決済の導入を発表した。eコマース勢では、eBay(イーベイ)が2020年秋、提携郵便局/フルフィルメントセンターにおいて出品者がQRコードを利用して宛名ラベルを印刷できるようにした。さらには、ますます多くのリテーラー/ブランド勢が決済の簡便化だけでなく、ほかの目的での利用も始めている。以下に、リテール業界のブランド勢によるQRコードの利用法をいくつか紹介する。
マーケティングツールとしてのQRコード
2020年6月、米フラワーギフトチェーンである1-800フラワーズ・ドットコム(1-800-Flowers.com)はファッションデザイナー、ジェイソン・ウー氏とのコラボレーションのマーケティングツールとして、QRコードを利用した。オーダーシートに付与されたQRコードを読み取ることで、顧客はウー氏による独占秘蔵コンテンツを入手できる、というサービスだ。このコラボが口火を切る恰好となり、昨年のコロナ禍中、QRコードを活用したキャンペーンブームが起きた。
ベルギーのビール大手、ステラ・アルトワ(Stella Artois)の場合も然りだ。2020年の感謝祭週間中、同社はジェームズ・ビアード財団(James Beard Foundation)への募金を名目とし、個人間送金アプリ、ベンモ(Venmo)用のスタンプを提供した。スタンプはテックスタートアップ、ホラー(Holler)との提携によるもので、11月13日から27日まで、これを付したベンモでの支払1回につき、同社は5ドルを[飲食店の支援目的で]ジェームズ・ビアード財団に寄付した。同キャンペーンに参加したレストランおよびバーには専用QRコードを表示させ、ユーザーがこれを読み取ると、ベンモを利用して友人や家族間で支払を分け合う際に、ステラのスタンプを入手できる仕組みになっていた。
アルコール飲料メーカーによるライブイベントキャンペーンが依然、厳しく制限されるなか、ステラはこれで屋外バーの顧客に対する非接触リーチに成功した。さらに、コロナ禍中にベンモのスタンプを活用したアルコール飲料メーカー勢は、ステラが最初ではない。ミケロブ・ウルトラ(Michelob Ultra)やスミノフ(Smirnoff)、グレイグース(Grey Goose) も、QRコードを活用した同様のマーケティングキャンペーンを実施している。
「使用頻度がもっとも高いアプリを介して顧客にリーチするのは、非常にスマートなやり方だ」と、ミケロブを製造販売する米ビール大手、アンハイザー・ブッシュ(Anheuser-Busch)のプレミアムディビジョン・マーケティング&コミュニケーション部門ディレクターで、このキャンペーンを率いたローラ・アリート氏は言う。今回、人気アプリのベンモと提携したことで、ステラ・アルトワはその主要ユーザーである若年層にもリーチできた。同社によれば、同キャンペーン期間中、ステラ・アルトワのインプレッション数は180万に上った。
QR経由のカスタマーサービスおよびブランド体験
ラルフローレン(Ralph Lauren)やプーマ(Puma) といったアパレルブランドも、購入後の顧客体験に活用するべく、製品へのQRコードの付与を始めている。2020年、ラルフローレンはサプライチェーンのトラッキングの透明性向上を図る手段として、商品タグへのQRコードの印刷を開始した。同社はまた、インタラクティブな買物体験を可能にするQRコードも実店舗に表示している。
一方、プーマはさらに一歩踏み出し、2019年以来、コードを読み取ることでAR体験を可能にするQRコードをデザインに取り入れたスニーカーを販売している。
一方、2019年創業のD2Cキャンドルブランド、ケイデンス・キャンドル・コー(Cadence Candle Co.)は、QRコードを介し、商品と音楽プレイリストを融合させている。同社は製造販売する各種アロマキャンドルに、香りごとに厳選したSpotify(スポティファイ)プレイリストを付けており、その人気はこの数カ月間でさらに高まっている。また、同社の「About(会社紹介)」ページと「Meet The Founder(創業者紹介)」ページには、商品パッケージに印刷されたQRコードを介してアクセスできるようにしてある。キャンドルと音楽プレイリストの融合というアイデアは、「ミレニアル世代とZ世代の顧客に身近に感じてもらえる」技術をベースにした独自のブランディングで行く、という発想から生まれたと、創業者のテイラー・サーモン氏は言う。「それから間もなくコロナ禍が生じ、それを受けて、いまの好調がある」。同社はさらに、ネイバーフッド・グッズ(Neighborhood Goods)のニュースレターおよびソーシャルメディアをはじめ、リテールパートナーのキャンペーンとの融合によるブランディングも展開している。
商品デモの提供をタッチスクリーンからQRコードを介する手法に切り替えるのか。従来型のリテールからデジタルへの移行に投資するのか。検討事項は各社さまざまだろうが、いずれにせよ、2021年がこれまでとは様相を異にする一年になるのは間違いないと、ニューヨークに拠点を置く広告エージェンシー、スティンク・スタジオ(Stink Studios)のUX(ユーザーエクスペリエンス)ディレクター、マギー・ブライアン氏は指摘する。そして、QRコードはすでに広く浸透しているため、ポストコロナ時代にも残り、ショッピングに欠かせない存在になることが予想されると、氏は続ける。
「QRコードが『イケてる』のは、どこか未来的だからではない。魔法のような働きをしてくれるからだ。見かけは妙だが、使い方はごくシンプルであり、きわめていい仕事をする」。
[原文:In 2020, QR codes finally became cool]
Gabriela Barkho(翻訳:SI Japan、編集:長田真)