ECプラットフォーム「ハウスアカウント」は、全国各地に散らばる小規模ブティックを支援するために開発された。大規模な競合プラットフォームと比較して、こちらは店舗の自由が効き、より個々のブランディングの役に立つという。この包括的なEC支援を行うハウスアカウントは、どんな未来を見つめているのか?
ブティックのオーナーを務めるローラ・ビンルート・プール氏は、ノースカロライナ州シャーロットの自宅で、米DIGIDAYの電話取材に対して「私は仕切りたがり屋だ」と語った。「(仕切りが)上手にできれば、ビジネスに役立つ」。
実際、そうした性格はビンルート・プール氏にとって役立っているようだ。同氏は、20年前に高級ブティックのキャピトル(Capitol)をオープンしたのを皮切りに、コンテンポラリーストアのプール・ショップ(Poole Shop)を開店。ほんの2年前には、メンズショップのテイバー(Tabor)をオープンした(3店舗を合わせると、前年比の成長率は平均8%で、年間の売上額は「数千万ドル台」に達している)。小売市場の厳しさに直面しながらも、同氏は自ら選んだ道で成功を収めているのだ。
2008年の不況下、それまでの上得意客たちは、同氏の店舗でショッピングしているところを見られるわけにはいかなかった。「お得意様はバンク・オブ・アメリカ(Bank of America)の頭取や、ワコビア(Wachovia)の銀行員といった人たちだったし、この町のほとんどの人は銀行株を持っていて、配当金で生活していた」からだ。そこでビンルート・プール氏は、商品を持って得意客の家を回りはじめた。「在庫に目を光らせておく必要があることがわかった。ビジネスのやり方を変えると、利益が上がるようになった」と同氏は言う。
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また、この苦境は「ハウスアカウント(House Account)」というアプリをリリースする下地にもなった。2012年にリリースされたこのアプリは、ブティックが遠く離れたさまざまな場所の顧客にリーチできるよう支援するものだ。現在、ハウスアカウントは大規模なアップグレードの最中だ。その狙いは、あらゆるサービスを提供するデジタルマーケティングエージェンシーとして、デジタルに強い大規模な小売店を相手にせざるをえない専門店をサポートすることだ(ご存知のように、専門店はスタッフが少なく予算も限られている)。
アプリからエージェンシーへ
「eコマースは、小規模な店舗には手に負えないものであることがすぐにわかった」と、ビンルート・プール氏は、アプリの着想を得たきっかけについて語った。同氏によれば、大して見栄えのしないeコマースサイトを作り、新しく人を雇って運営するだけで、10万ドル(約1100万円)の費用がかかったという。「私たちほどの規模で取り組んでいる店舗はほとんどなかった。彼らにはお金も人もなかったからだ。しかし、デジタルでのプレゼンスを確立しなければならなかった。前に進まなければ、誰もが死んでしまう状況だったのだ」。
ハウスアカウントのCEO、アマンダ・ワイジガー氏によれば、最初のアプリのデザインはインスタグラムに似たものだったという。そのアプリを使えば、ユーザーは自分の住んでいない町の「クールなショップ」を見つけられた。また、そのショップの商品を買ったり、店員にメッセージを送ったりすることも可能だった。わずかな期間で30の州にまたがる450店のブティックがハウスアカウントに登録したが、これらのショップのうち、何らかの形でeコマースに対応しているところはわずか50%だったという。
だが、インスタグラム的なサービスを手がけていた多くの企業と同じく、このアプリの存在は2017年初頭に脅かされることになる。インスタグラムが、投稿から買い物ができる機能を一般に開放したためだ。そこでハウスアカウントは、販売とマーケティング用の高度なツールを提供するユニークなエージェンシーとして、新たな一歩を踏み出すことになったのだ。
ワンストップショップ
ハウスアカウントは現在、メールマーケティングサービス(ワイジガー氏によれば、メールチンプ[MailChimp]やコンスタントコンタクト[Constant Contact]のようなサービス)と、店舗が自社ブランドでサイトを運営できるサービス(ショッピファイ[Shopify]、ウィックス[Wix]、スクエアスペース[Squarespace]のようなサービス)を提供している。また、(PS Dept.に似た)パーソナルショッピングサービスや、(ショップティークス[Shoptiques]やファーフェッチ[Farfetch]のように)長年続いているマーケットプレイスもある。さらに、提携しているブティックのスタイルを取り上げたトレンド記事を利用したコンテンツコマースも手がけている。

ハウスアカウントのブティック向けメールキャンペーンは、ドラッグアンドドロップで操作できる
「競争相手は存在するが、我々が提供しているものをすべて手がけているところはない」とワイジガー氏は述べ、以前のハウスアカウントとはもはや違う企業になっていることを強調。同社はすでに50店のブティックを新しいプラットフォームに移行しており、夏までにはすべての店舗を移行する計画だ。そして、8万5000人の買い物客をさらに増やしたいとしている。
「何よりも重要なのは、ブティックがブランド構築できるようにすること」
ハウスアカウントは、提携ブティックにかなりの権限を与えている。これはビンルート・プール氏がきわめて重視していたことだった。彼女はかつて、ファーフェッチなどのマーケットプレイスでこの点にフラストレーションを感じていたからだ。
「店舗は自社ブランド全体をアウトソーシングし、ファーフェッチの手に委ねることになる。だが、彼らが関心を持っているのは、在庫を動かすことだけだ」と同氏は語る。「店舗は顧客との関係を築けず、顧客が郵便で受け取る商品などをコントロールすることもできない。郵便物にファーフェッチの名前は書かれていても、自社ブランドの名前は書かれていないのだ」。
ハウスアカウントなら、そんなことにはならない。
「何よりも重要なのは、ブティックがブランドを構築できるようにすることだ。電子メールはブランドのメールアドレスから配信できるし、ブランドのドメインをウェブサイトで利用できる。顧客がハウスアカウントから商品を買うと、その商品はブランドの箱に入れられ、ブランドが書いた手書きの手紙が添えられ、ブランドの包装紙やロゴが使われるようにしたいのだ」と、ワイジガー氏は言う。そのため、注文が確定すると、ハウスアカウントからブティックにレシートが送られ、その注文はブティックから直送される仕組みになっている。
ハウスアカウントの「野心的な」チームでは、7名のフルタイムの従業員と5名のパートタイマーが、ブティックのためのデジタル戦略に取り組んでいる。各店舗には1名の買い物代行者が割り当てられ、ハウスアカウントの画像認識技術が顧客に合ったスタイルを探せなかった場合に備えている。また、コンテンツの予定表を管理しているブランドマネージャーが、定期的にメールの配信やサイトの更新を行う。こうしたプロセスの大半は自動化されている。たとえば、新しいスタイルをハウスアカウントに追加すると、クライアントのソーシャルアカウントに自動的に読み込まれるのだ。つまり、ブティックのオーナーは、顧客とのやり取りや買い物代行者を含め、あらゆることを管理できる。
「こうした大変な仕事は、すべてハウスアカウントがやってくれる」と、チャールストンに本拠を置くブティック、ハンプデン・クロージング(Hampden Clothing)のオーナー、ステイシー・スモールウッド氏は言う。このブティックはハウスアカウントの古くからのクライアントで、すでに新しい機能を利用している。プレスリリースによれば、ブランドはハウスアカウントに対し、エージェンシー料として月に300ドル(約3万円)を支払うほか、販売手数料を支払う必要がある。だがスモールウッド氏は、これは優先順位の問題だという。「終わりを迎えつつある印刷メディアに投資する代わりに、私はハウスアカウントに投資しているのだ」。

ハウスアカウントを利用するブティックの販売予定表の例
ハウスアカウントの将来
ワイジガー氏は、卸売業者を通さないようにするブランドが増えているなか、従来の流通網にとらわれることなく、個々のデザイナーやスタートアップと直接取引できる機会があることに気づいている。「我々はいま、リジー・フォルトゥナート・ジュエルズ(Lizzie Fortunato Jewels)やフィグ・クロージング(FIG Clothing)といったブランドと提携し、業界の動向を調べているところだ」と彼女は話す。
だが、同氏がいまもっとも重視しているのは、現在の取り組みの規模を拡大することだ。「我々は、パーソナルショッピングチームやブランド管理チームの規模を拡大し、こうした人間的な触れ合いができる体験を今後もブティックに提供したいと考えている。婦人服のブティックの数はおよそ3万店だが、これは米国だけの数字だ。この市場は限りなく大きい」。
一方、小売店の現状を考えると、実店舗を閉鎖してハウスアカウントにすべてを任せたいと考えるブティックが少なからず出てくると思う人がいるかもしれない。だが、こうした見方は正しいとは言えず、ハウスアカウントもそのようなことは望んでいない。「我々は、彼らのビジネスを支援したいと考えているが、仕事を引き継ぎたいとは思っていない」とワイジガー氏はいう。ブティックは、多くのことを自分でコントロールできるようになるだけなのだ。
Jill Manoff(原文 / 訳:ガリレオ)