多くの広告主はメディア予算を少しばかり余らせ、年末までに消化しなくてはならない状況に陥っている。なぜなら使い切らないと、なくなってしまう。奇妙だが、ありふれた難題だ。お金を失うのも嫌だし、かといって無駄遣いもしたくない。そこで一部の広告主が出している答えが、TikTokだ。
1年の終わりが駆け足で近づいてくるなか、多くの広告主はメディア予算を少しばかり余らせ、年末までに消化しなくてはならない状況に陥っている。なぜなら使い切らないと、なくなってしまう。奇妙だが、ありふれた難題だ。お金を失うのも嫌だし、かといって無駄遣いもしたくない。
そこで一部の広告主が出している答えが、TikTokだ。
2020年における同ソーシャル動画アプリの成長に多くの広告主は目を見張っているが、それでもなかなかメディア予算を投じるまでには至らない。いま注目のソーシャル動画アプリにいち早く広告を出すことで得られるメリットが、投資分のリターンを得られないリスクを上回らないからだ。
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どのみちパンデミックになって以降、広告主のメディア予算は必ずしも潤沢とはいえなかった。また、たとえ予算があっても、それは十分に効果が証明されているメディアオーナーに費やされ、TikTokのような実験的なところには回らなかった。しかし、年末の広告支出増によってこの図式が逆転しており、とりわけ予算編成の都合で広告費の消化を迫られている広告主にその傾向がみられる。目下ほとんどのことがそうであるように、今年の残る数カ月間で何が起きるかわからない状態なのだ。
「TikTokを試してみるチャンス」
「今年は多くのマーケターがメディア戦略を見直しており、残る数カ月はTikTokを試してみる好機と考えている」と、デジタルエージェンシーのオサカ・ラボ(Osaka Labs)の創設者サム・ゴームリー氏はいう。
ゴームリー氏によると、そうした要望はしばしばCPG(消費財)業界から寄せられるという。D2C業界の発想や行動をもっと取り入れたいと、幹部たちが躍起なのだ。そのためマーケターは、新たなチャネルの効果を既存チャネルと比較することをますます求められている。
「第4四半期に入り、動画チャネル全体でインベントリー(在庫)が少なくなっている。たとえば、OTT(インターネット配信)の一部チャネルは事実上売り切れ状態だ」と、メディアコンサルティング企業トゥー・ニル(Two Nil)のマネージングディレクターを務めるアンドレ・アルタチョ氏は明かす。「(広告主は)TikTokのような新しく有望なチャネルへの支出を増やしている。その理由として、第4四半期に例年みられる広告費消化の動きが、今年は第2、第3四半期に取り消しになった広告の予算が第4四半期に回されていることで拍車がかかっており、加えて米大統領選がらみの広告出稿でインベントリーがさらに減少している」。
テレビと比較するマーケターたち
しかし、そのように性急にお金を使うと、分別を欠いた支出が発生するリスクが常につきまとう。この年末の広告費消化を「非合理的な予算の破棄」と呼ぶマーケターがいるのには、それなりの理由があるのだ。そのような無駄を避けるために、広告主はTikTokにおける広告効果をテレビ広告と比較している。「マーケターはTikTokに出稿する広告の価値を評価したいと考えており、その方法として、TikTokで購入する広告をテレビで購入する広告と比較している」と、ゴームリー氏は説明する。
これはあながち的外れな比較でもない。TikTokはソーシャルネットワークというよりは動画プラットフォームの側面が強い。広告主もTikTok広告をそのように扱っていて、TikTokのことを、あまりテレビを見ない若いオーディエンスにリーチする手段とみていると述べている。
「若く、エンゲージメントの高いユーザーを抱えるTikTokは、テレビから広告予算のシェアを奪う絶好のポジションにつけている」と、エージェンシーのユニバーサル・マッキャン(Universal McCannでクライアントディレクターを務めるローレンス・ドッズ氏は話す。「当エージェンシーにも、テレビからTikTokに予算を移そうとしているクライアントがいるが、テレビは依然として大きなリーチを生み出してくれるので、移すといっても大きな割合ではない。テレビからTikTokのようなプラットフォームへの移行率は、クライアントによって2~5%程度だと考えられる」。
「テレビの延長線上にあるもの」
だからといって、第4四半期に恒例の広告支出増を背景としたTikTokの伸びが、翻ってテレビのお株を奪うということにはならない。たしかにTikTokはテレビからメディア予算をいくらか奪いはしているが、その点はTikTokよりも大規模かつメジャーなオンラインプラットフォームにしても同じことだ。
実際、オンライン広告に支配的地位を有するGoogleとFacebookは、その恩恵をもっとも受ける企業だ。グループエム(GroupM)の予測が正しければ、5300億ドル(約55兆4800億円)規模とみられる2020年の世界広告業界の半分以上を、オンライン広告への支出額が占めることからだ。それに比べたら、TikTokがテレビから奪うメディア予算のシェアなど大したものにはならない。少なくとも今のところは。
「これは(TikTokの)プラットフォームを必ずしもテレビに取って代わるものとしてではなく、テレビの延長線上にあるものとして位置づけ、効果測定調査に裏付けられたインクリメンタルリーチを広告主が獲得できるようにしようという試みだ」と、やはりクライアントから同様の問い合わせを受けているメディアエージェンシーのスターコム(Starcom)のパフォーマンスマネージメントパートナー、ポール・カサミアス氏は話す。
オンライン動画市場における勝者
しかし広告主にとってそれ以上に重要なのは、TikTokのオーディエンスがテレビと重複し、テレビのオーディエンスがTikTokと重複する部分だ。
「CPG業界の広告主のテレビキャンペーンでは、リーチが70%に達することも少なくない」と、カンター(Kantar)のグローバルブランドディレクター、ダンカン・サウスゲート氏はいう。「すなわち、TikTokである広告を見る人の約3分の2が、おそらくそのテレビバージョンも目にしていることになる。これはインクリメンタルリーチを獲得するという以上に、視聴者の重複がもたらしうる相乗効果を目的としたものだ」。
広告主が必要に応じてメディア予算を一時停止したり移動させたりするなかで、第4四半期におけるTikTokの成長には、テレビだけでなく、印刷や屋外メディアといったその他の苦境にあるチャネルから獲得した分も含まれるだろう。そしてその勢いは来年に入っても継続するとみられる。結果としてTikTokは、今後12カ月間のオンライン動画市場における勝者のひとつとなりそうだ。
「ユーザーとのつながりを構築できる」
カンターの調査に回答したシニアマーケター733人のうち、2021年にTikTokへの支出額を増やす予定だと回答した人は3分の2(66%)に上った。
「2020年は、ブランドのTikTok広告戦略にとって大きな進化の年となっている」と、TikTokの欧州におけるグローバルビジネスソリューション責任者を務めるスチュアート・フリント氏はいう。「ただ我々からみて明らかなことは、ブランドが当社プラットフォームで成功を収めているのは、単純にテレビコマーシャルをモバイル向けに使い回しているからでも、最高に洗練された広告を流しているからでも、ビッグネームをキャンペーンに起用しているからでもない。感情や動き、音を通じて、巧みにユーザーをエンゲージし、つながりを構築することができているからだ」。
SEB JOSEPH(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:長田真)