小売事業者やEC企業にとって、サードパーティCookieによるリターゲティングやルックアライクターゲティングは常識となっていた。だがサードパーティCookie利用の見直しが間近に迫っている。広告主は新規顧客開拓のための新たなマーケティング戦略や、既存顧客へのアプローチ方法を再考する必要があるのだ。
これまで小売事業者やEC企業にとって、サードパーティCookieによるリターゲティングやルックアライクターゲティングは常識となっていた。
だがサードパーティCookie利用の見直しが、いよいよ間近に迫っている。たとえばGoogleは、Google以外のサイトで販売されているインベントリーに対し、個人レベルのトラッキングによるターゲティングを禁止した。それは広告主にとって、新規顧客開拓のための新たなマーケティング戦略の立案を余儀なくされる。今後、既存顧客はもちろん、自社の商品やブランドを検索する見込み客へのアプローチを継続する一方で、次なる一手として、ログインしているユーザーの特定を可能にするGoogleやそのほかのプラットフォームのウォールドガーデンに着目するだろう。見込み客開拓についても、既存の方法から変更せざるを得ない。たとえば掲載した広告からサイトにアクセスしたユーザーへのリターゲティングや、既存カスタマーと似た特性のオーディエンスを狙い撃ちするルックアライクといった手法にいつまでもすがることはできない。
「見込み客に対するアプローチについては、大きく変えざるを得ない。Googleはトラッキングに基づく見込み客へのターゲティングはサポートしないと明言している」と話すのは、グループM(GroupM)でグローバルデータ戦略およびパートナーシップ担当SVPを務めるクリスタル・オリビエリ氏だ。「(実証済みの)これまでの手法からの転換は避けられない。それに慣れてきた企業にとっては大きな悩みの種だ」。
Advertisement
ブランドのデータ使用と管理を支援するマイティハイブ(MightyHive)でグローバルデータ担当EVPを務めるタイラー・ピーツ氏は「とりわけ小売企業は、これまでGoogleを使って新規開拓を推し進めてきた」と指摘する。「一部のパフォーマンスマーケターにとっては、非常に頭を悩ます問題となるはずだ。ユーザー個人とGoogleのIDの紐付けが、コンバージョンを含め一切できなくなる。短期的で済めばいいが、いずれにせよ大きな障害として捉え、相応の措置を講ずる必要があるだろう」。
ウォールドガーデンの今後の見通し
デジタルエージェンシーのグッドウェイグループ(Goodway Group)で企業提携担当バイスプレジデントを務めるアマンダ・マーティン氏は「現在の広告主は、ルックアライクの1対1のターゲティングに慣れている」と話す。ルックアライクは、リーチできるオーディエンスの範囲を拡大できるだけでなく、ファーストパーティデータに新たな情報を追加し、精度向上をもたらすというメリットがある。マーケターが従来の手法から支出をシフトするにつれ、マーティン氏をはじめとするエージェンシーの役員たちは、Googleの変更が自社だけでなくウォールドガーデン全体にも利益をもたらすと期待している。
「個々のオーディエンスを把握しておらず、レポートもできないパブリッシャーに対し、ブランド各社が今以上に予算を投じる可能性はあまり想像できない」とマーティン氏は続ける。「別の方法でパーソナルトラッキング可能なメディアへシフトするはずだ。そうなると、AmazonやGoogleといったウォールドガーデンが有利になる」。
一方、「ほかの広告主が見落としているオーディエンスを求めて、ウォールドガーデン以外を模索する企業も出てくるのではないか」とも分析する。「実際、Cookieレスブラウザを使うオーディエンス開拓に力を注ぐブランドも出てきている」とマーティン氏は語る。「たとえばAppleのSafariを通じてアクセスできるユーザーは非常に貴重だ。Cookieレスだからと避けていては、機会損失につながる」。
検索もまた、オーディエンス開拓に適したカテゴリーと言える。ただし多くの企業にとって、検索といえば実績ある「Google検索」が思い浮かぶ。そして、Googleのサービスは今後も顧客との紐付けが可能だ。
それゆえ、「各ブランドが検討する新規顧客開拓の予算の投じ先として、やはりGoogleは強力な候補のひとつになる」と指摘するのが、デジタルエージェンシーの3Qデジタル(3Q Digital)のCSO、サム・ハストン氏だ。「見込み客開拓に充てる予算の一部は、『検索』へと流れるのではないか。ユーザーがログインしている状態ならマッチング可能で、かつ個人情報を保護しつつ体験をパーソナライズできる」。
ロイヤルティで収益を増やす
広告主向けにGoogleやその他のプラットフォームで広告キャンペーンの管理を手がけるティヌイティ(Tinuiti)でCSOを務めるニイ・アヘネ氏は、「人気ブラウザのChromeでサードパーティCookieを利用できなくするというGoogleの決定は、広告主のリターゲティングやルックアライクに大きな影響を及ぼしている。ただし、この変化によるルックアライクの有効性の低下については、少々誤解があるようだ」と話す。
「現時点で新規顧客開拓に多額の費用を投じているブランドも、3〜5年ほどで既存顧客からの収益を増やす方向に広告予算の割り当てを調整するだろう」とアへネ氏は語る。「広告主は、これまでとは違うポイントからCRMデータを区分して、各ユーザーに対し異なる切り口で再アピールする方法を見出していく必要がある」。
また、ブランドのサイトやコンテンツ、モバイルアプリを立ち上げることで既存顧客とのつながりを維持する方針のエージェンシーやデータサービスも存在する。
ティヌイティが分析したところ、比較的小規模なブランドでは収益の半分が既存顧客(各社、顧客層別で16~20%程度を占有)から得られていることが分かった。「企業は、ロイヤルティ確保につながるマーケティング活動に力を入れるべきだ。既存購入者にリピートを促す取り組みこそが求められる」とアヘネ氏は提言する。
一方、グッドウェイグループのマーティン氏は「ロイヤルティ確保への取り組みは反射的なものに過ぎない。中長期的な観点に立ったものではない」と、異なる指摘をする。「まずはGoogleのトラッキング規程の変更に伴い、ブランド各社は既存顧客からの収益が実際に減少するかを評価する必要がある」。
「Googleのような認証や測定可能なプラットフォームにおいて、何をすれば収益を上げられるか、ブランド各社はこれまで以上に熱心に取り組むことになるだろう」。
KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)