広告業界は、今後数カ月に渡って訪れるだろうプライバシーに焦点を据えた変革に備えている。Googleはプライバシーにフォーカスを据えつつも、広告によって資金を調達するネット世界を念頭に、代替案を形成するなかで、業界からのフィードバックも求めている。Appleが強硬なアプローチを見せているのとは対照的だ。
広告業界は、今後数カ月に渡って訪れるだろうプライバシーに焦点を据えた変革に備えている。変革の端緒は、議員やデータ規則当局からもたらされるかもしれないし、プライバシー保護に本腰をいれるブラウザからかもしれない。Googleはプライバシーにフォーカスを据えつつも、広告によって資金を調達するネット世界を念頭に、代替案を形成するなかで、業界からのフィードバックも求めている。Appleがデフォルトでユーザーのプライバシーを最大限保護するという強硬なアプローチを見せているのとは対照的だ。
サードパーティのCookieを締め付けるための道のりにおいて、パブリッシャーたちを犠牲にしてきたと、Appleを批判する業界関係者たちがいる。しかし、直近のITPアップデートにおいて、パブリッシャーたちが罰則を避けるためのガイドラインをさらに明確にすることで、Appleは強硬な姿勢を若干緩めたように思われる。主に広告によって収益を得ているGoogleにとっては、業界の動向はもっと身近な問題だ。彼らのアプローチが形成されるなかで、業界自体とコラボレーションをしようとする姿勢を見せている。
Googleが取るべきバランス
ここ4カ月のあいだ、規制されているサードパーティCookieの利用が、Chromeにおいてどのような形を取り得るかという点について、Googleは探ってきた。パブリッシャーの収益にどれほどのインパクトを与えるかについての業界リサーチを公開し、よりプライバシーが守られるウェブ構築の提案を行い、そして広告詐称を管理するためにマシンラーニングを使うと言った具合だ。
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もっとも最近では、8月にローンチされたプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)という形で出された提案の数々がある。これは広告業界のエコシステムに生きる企業たち(広告収益を巡ってどちら側に属していても)が、今後の業界の形に意見を投じるチャンスだ。スタットカウンター・グローバル・スタッツ(GlobalCounter Global Stats)によると、Chromeはグローバルでブラウザシェア65%を占めている。そのため広告収益が大半を占めるGoogleを含め、今後の多くの関係者の利害が関わっている。Googleは新しいプライバシー法を遵守する一方で、パブリシャーや広告主たちを排除しないようにバランスを取らなくてはいけない。
「ChromeとGoogleの広告ビジネスは、コミュニケーションは取るものの、必ずしも同じスペースで働きはしない。サンドボックスへのフィードバックを求めているGoogleは、責任ある行動を取っていると言える。ひとつのソリューションが、また新たなモグラ叩きのような状況になるまでにどれだけ時間が持つかはわからない。物事の運び方は複数ある。いま、業界全体がそれを探るフェーズにある」と、パブリッシャーであるデニス(Dennis)の収益オペレーションズ・ディレクターであるダニエル・パウエル-リーズ氏は言う。
業界関係者に開かれた機会
今後数カ月に渡ってGoogle、業界団体やベンダーによって主催されるイベントやワークショップを通じて、業界関係者たちは提案の形に影響を与えようとしている。Chromeにおいて規制されるサードパーティCookieの影響を理解するため、パブリッシャーたちはリソースを割いている。イミディエイト・メディア(Immediate Media)の推計によると、彼らのサイト50件において、ユーザーの約10%は広告ブロックをしているが、それと同じ割合の人々がChromeにおけるサードパーティCookieによるトラッキングを拒否するだろうとのことだ。ヨーロッパでは広告ブロック率は20%から25%のあいだで安定しているが、これがプライバシーについて何らかの保護対策を求めるオーディエンスの規模がどれくらいか、公平な推測の基準となっている。しかし、Chromeが加える変更がもたらす影響は、それぞれのパブリッシャーが抱えるオーディエンスの属性によって異なるだろう。
パブリッシャーとGoogle、そしてGoogleが有するマーケットにおける独占的な力の歴史はこれまで、波乱万丈だった。それでもパブリッシャーのほとんどはGoogleのテックスタックに頼ることから離れられない。Googleはプライバシーの取り組みという建前に隠れて自分たちの利益を追求しているという批判の声もある。しかし、これではオープンな議論が閉じてしまうと、ADZストラテジーズ(ADZ Strategies)のディレクターであるアレッサンドロ・デ・ザンチェ氏は言う。
「業界は、ほかのブラウザのほとんどで起きているイタチごっこ状況が良いとするのか、それともGoogleによるオープンなアプローチが良いとするのか、決める必要がある。Googleの方法であれば、議論が行われ、パブリックに批判が投げられる可能性もある」と、彼は述べた。
しかし、Googleからの提案や、そもそも新しいデジタル広告のエコシステムがどのように運営されるかについて、大手テック企業が調停者となるべきなのかと言った点について疑問の声も挙げられている。
良し悪しが入り交じるGoogle
サードパーティCookieを使わずに、ドメインを横断する形でユーザーをトラッキングするために、Googleは集団の統合的機械学習(Federated learning of cohort)枠組みを探っている。これはデバイス上で動くマシーンラーニングアルゴリズムを使い、ブラウザ上の行動に基づいてオーディエンスの興味関心ごとにグループ分けをするという、よりプライバシーに配慮した枠組みだ。データ自体はユーザーのデバイスに留まるのと、ユーザーたちが統合されたデータの小さな一部をシェアすることで、このモデルは構築される。それによって一人ひとりのユーザーがデータで表されるのではなく、何千人という単位のグループで表されるため、よりプライバシーが守られる、というわけだ。集団の統合的機械学習はもともと、プライバシーを守るためのデザインとして、非広告関連の目的を想定していた。メッセージの内容がデバイスを離れることなく予測変換・候補提示をするのが、その一例だ。この枠組みを使うことで、たとえばラグジュアリー広告に反応しそうな最適なグループをエージェンシーが特定する助けをしながらも、プライバシーという観点から安全な運用をするのがGoogleの狙いだ。
「それでも作られた人工知能モデルをひとりが所有してしまうことが問題だ。それをデバイスを横断してGoogleが使用することを人々は信頼するのか?」と、インフォサム(InfoSum)のCEOでありファウンダーのニコラス・ホルステッド氏は言う。インフォサムはプライバシー遵守のオーディエンスターゲティングのための代替プラットフォームを提供している。
Googleによって扱われる、このブラックボックス部分がどれほどのサイズ、スケールなのか、という質問は業界のエグゼクティブたちから繰り返し挙げられている。ほかの点に関しては、クリックスルーの計測に対するGoogleの代替案が、ユーザーのプライバシー保護という観点で、どれほど厳重なのかと疑問の声もあがっている。コンバージョンメタデータ(はGoogle提案の柱のひとつだ)は、パブリッシャーと広告主ユーザーを繋ぐのに使われる可能性がある。Googleはこれに対し、再度のユーザー特定を防ぐために偽のコンバージョンという形でデータを加えるという提案で反応した。プライバシーリスクの可能性がある以外に、この代替案は業界で標準的となったデバイス横断型のコンバージョン計測に制限をかける可能性がある。
上記のエグゼクティブは「提案のなかには非常に興味深く、広告のエコシステムを継続して維持できる可能性を持つ物もある。たとえば、計測とオーディエンスターゲティングが、それだ。しかし制限もある。広告を中心にビジネスを構築し続けるためには、こういった制限についても気付いている必要がある」と述べた。
パブリッシャー同士による抵抗
オゾン(Ozone)やその他のヨーロッパにおける連盟のような、パブリッシャー間での連携が台頭しつつあるが、これらは禁止されるサードパーティCookieの代替となれる、プライバシーを第一に考えたソリューションだとして売り込まれている。パブリッシャーたちはまた、自社データを最大限活用しようとしており、ログインする読者を増やすために、何ができるかを探っている。
デ・ザンチェ氏は、「長期的な計画をする必要があり、変化と混乱の時代にいることを受け入れる必要がある」と語った。
Lucinda Southern(原文 / 訳:塚本 紺)