変化があまりに度重なると、むしろ何も変わっていないように見えてくることがある。Googleがこのところ提唱しているサードパーティCookieのない日常は、まさにその一例だ。
変化があまりに度重なると、むしろ何も変わっていないように見えてくることがある。Googleがこのところ提唱しているサードパーティCookieのない日常は、まさにその一例だ。
Googleがユーザーレベルのトラッキング禁止を、疑問の余地なく業界に打ち出してから数週間、マーケターたちは次から次へと不確実な状況に振り回されてきた。しかし、不確定要素が山積する一方で、GoogleがサードパーティCookieを締め出すという現在の構図には、どうにも既視感がつきまとう。結局のところ、プライバシー保護がデフォルトになったとしても、ウォールドガーデンが有利であることには変わりないし、むしろ拍車がかかる可能性すらある。彼らには莫大なリーチと、確立された顧客と類似オーディエンスに基づく、非常にすぐれたターゲティング手段があるからだ。
匿名を条件に米DIGIDAYの取材に応じた、ある製薬会社のマーケティング・調達担当責任者は、「Googleの計画は意外なものではない。要するに、これまでと同じで、壁をさらに高くしているだけだ」と語る。「GoogleがサードパーティCookieを廃止する決断に至った理由は、同社が純粋にプライバシー保護の潮流に賛同しているからであり、将来の収入源を見込んだものではない、そんな風に考える人はいないだろう」。
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サードパーティCookieのない世界は、多くの点でこれまでの世界と似たものになるだろう。マーケターはこれからもGoogleに巨額の資金を投じることになる。
Googleへの依存度はむしろ高まる?
「数百万ドル(数億円)もの資金と労力を、Googleのエコシステムにつぎ込んできたブランドは、引き続きFLoC(Federated Learning of Cohorts:コホートの連合学習)といった、Googleが提供するプライバシーに配慮した代替手段を採用する可能性がきわめて高い」と、コンサルティング企業、エビキティ(Ebiquity)の北米部門で技術担当責任者を務めるトラビス・ラスク氏は述べる。
マーケターは苦い経験を強いられた。GDPR(EU一般データ保護規則)導入に対応する形で、今頃は、個人を特定せずにターゲティングを実施する方法がアドテク業界で編み出されているだろうと、彼らは期待していたのだ。しかし実際に与えられたのは、Google自身のマーケットプレイスではトラッキングの特権が与えられる一方、外部ではその機能が損なわれるという手法だった。少なくとも、慎重なマーケターはそう考えている。
彼らによると、Googleが提示している手法は、サードパーティCookieと同様、透明性という点では曖昧だ。また、Googleが首尾よくそうした手法を普及させた場合、広告主にも、パブリッシャーにも、データプロバイダーにも、ファシリテーターにも、キャンペーンが成功あるいは失敗した明確な理由を知ることは難しくなる。結果、Googleのウォールドガーデンへの依存度はより高まるだろう。
「この依存関係こそ、Googleの新たな市場独占の未来像であり、ターゲティングやデータに関する知見を、市場と他社から奪うことにより、スケールをさらに拡大しようとしている」と、あるアドテク企業幹部はGoogleとの業務上の関係が損なわれることを恐れ、匿名を条件にこう述べた。
ほかに選択肢がない
それでもマーケターにとって、サードパーティCookieなき世界では、馴染みのある方法を選ぶほうが安全だ。
現在、Google以外の企業が提示する、サードパーティCookieの代替となるユーザーレベルの識別子のなかには、少なからずプライバシー規制に抵触する可能性があるものがある。つまり、今後もし問題が起きた場合、Googleは自らのソリューションである、コホートベースのトラッキングへの、お墨付きを得ることになるだろう。コホートベースのトラッキングそのものは、サードパーティCookieに代わるほかの手法の有効性を貶めるわけではない。ただマーケターたちは、従来に近い形でターゲティングを望む自分たちの想いと、トラッキングされたくないという人々の欲求とのあいだに、どう折り合いをつけるかを考えなければならない。
「Googleはデータシグナルを減らすことを求めているが、それ以外のアドテク企業は、むしろ増やすことを望んでいる」と、あるグローバルメデイアエージェンシーのデータ担当責任者は述べる。この人物もまた、Googleとの業務上の関係への影響を危惧し、匿名を条件に取材に応じてくれた。「アドテク業界が行っていることの問題は、サードパーティCookieの終焉による技術的制約に対処することはできても、Cookieが葬られた、そもそもの原因には対処できていないことだ」。
だからといって、マーケターがプライバシーに対するGoogleの新しいアプローチを気に入っているわけではない。むしろ、ここ数週間で相次いで露呈したGoogleに対する懸念が、多少なりとも当たっているとしたら、状況はその対極といってもいい。彼らは単に、アドテク企業がサードパーティCookieの代替策として提示するユーザーレベル識別子が、これから直面する大きな課題を乗り越えられると信じられずにいる。ほかに選択肢がないと考えているのだ。
ジレンマに陥るマーケターたち
マーケターたちは、ジレンマに陥っている。彼らは、GoogleがサードパーティCookie廃止を決断したのは、純粋にプライバシー規制当局の一歩先を行き、自社のエコシステム内部のデータの出自について、適切な説明責任を果たすためだと、ある程度は納得している。しかし、それが同時にGoogleの独占化を進めるものである点についても、懸念を抱いている。
「現実に、私はYouTubeを見るためにYouTubeを開くのだから、私のデータはそこにとどめておくべきだ」と、あるメディアコンサルタントは匿名を条件に語る。「我々が最近Google幹部と会ったとき、彼らはユーザーレベル識別子に反対する立場を明確に示した。個人識別が可能な情報を扱うのは、ビジネスモデルとして不安定だと彼らは考えている。我々が話したGoogleの幹部は、『法的な視点からも擁護できない』と述べていた」。
裏付けを求めるマーケターも
一方、ユーザーレベル識別子に関する、こうした注意喚起を信用しつつも、裏付けが欲しいと考えるマーケターもいる。
そのため、一部のマーケターは代替識別子のテストを進めている。ただし、どのソリューションを試すかは、マーケターが持っているデータの量による。自社データ、つまりファーストパーティデータを蓄積し把握している広告主は、それに用いたイノベーションを模索している。たとえば彼らは、プライバシー規制に準ずる方法で、パブリッシャーのデータと自社データを組み合わせたり、決定論的識別子からどれだけの情報が得られるかの検証も実施している。ファーストパーティデータの活用をテストし方針を定めたうえで、新たなオーディエンスにリーチするために、確率論的識別子を使ったソリューションから得られる情報で、自社データを補完するというのがマーケターたちの計画だ。
「決定論的識別子のアプローチは正確さに優れているが、ユーザーデータがないためスケールには限界がある」と、メディアエージェンシーのエニシング・イズ・ポシブル(Anything is Possible)でCEOを務めるサム・フェントン=エルストーン氏は指摘。「これらの用途は結局、ファーストパーティデータに限定される可能性が高い。そのため、マーケターはファーストパーティデータの増強にフォーカスすべきだ。GoogleのFLoCや類似の確率論的モデリング、つまりユーザーをコホートグループに分類する手法は、今後主要になっていくだろう」。
Cookieなき世界の景色は、さほど変わらない
Googleの広告ビジネスに、さらにメディア予算が流れることは避けられないだろう。問題は、それがどれくらい増えるかだ。パブリッシャーたちはこの点について、いいたいことがたくさんあるだろう。
繰り返すが、サードパーティCookieなき世界の景色は、いまとさほど変わらないことが予想される。その理由は、いずれファーストパーティCookieが、Googleのプライバシーサンドボックスにあるソリューションと併用される段階に至ることが予想されるからだ。Googleは、実質的にこのことを公言している。同社はFLoCとFLEDGE(First Locally-Executed Decision over Groups Experiment)を推進する計画を打ち出しつつ、一方でパブリッシャーが自社のエコシステム内で提供する識別子を容認している。
ここで摩擦が生じる。Googleは自社のバイサイドオファーを、パブリッシャーと広告主をつなぐPPIDに限定するが、パブリッシャー同士、広告主同士を結びつけることはない。本来であれば、この共有を行い、企業間の差別化を促進することが、オープンエコシステムの精神の強みであるはずだ。しかしこれを実現しつつ、プライバシー規制に100%準拠するのは難しい。
データクリーンルームソフトウェア企業のハブ(Habu)でCEOを務めるマット・キルマーティン氏は、「将来像を理解しはじめているマーケターは増えており、彼らはファーストパーティデータの収集とコラボレーション戦略を積極的に検討している」と述べた。
[原文:Google’s privacy plan brings changes, but not as many as marketers think]
SEB JOSEPH(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:村上莞)