Googleが小売事業者への優遇策を続々と講じるなど、オンライン販売のマーケットプレイスを盛り上げようと取り組んでいる。しかしその努力とは裏腹に、いまだ大きな成功には結びついていない。
Googleが小売事業者への優遇策を続々と講じるなど、オンライン販売のマーケットプレイスを盛り上げようと取り組んでいる。しかしその努力とは裏腹に、いまだ大きな成功には結びついていない。
Googleの検索窓の下部にある、オンライン商品購入専用タブの「Googleショッピング」。米国Googleは、2020年7月からここへの商品掲載を無料化するという思い切った策に出た(日本でも2020年10月から無料化)。このGoogleショッピングへの商品掲載費用のほか、すでに販売手数料の支払いも免除されている。
Amazonに対抗できるサードパーティ向けマーケットプレイスの構築に奮闘してきたGoogleにとって、これはまさに起死回生を狙った一手ともいえる。現在のGoogleショッピングは、基本的に商品のリンクをクリックすると外部サイトへと移動し、そこで購入できるという仕組みになっている。同社は、Googleのページ上で直接購入できる「Buy on Google」というシステムもリリースしたが、普及は遅々として進んでいない。eコマース解析企業のマーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)によると、2020年末まで「Buy on Google」に商品を掲載した小売事業者数は7432に過ぎなかったという。2020年7月時点の数は5644だったため、7月から年末までの5カ月間の増加数は2000にも満たなかったことになる。ウォルマートの7万業者、Amazonの200万業者と比べれば差は歴然。大きく水を開けられている。また、米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテール(Modern Retail)がBuy on Googleで商品を販売している複数の小売事業者にインタビューを行ったところ、Buy on Googleでの売上が全体に占める割合は微々たるものだという。
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モダンリテールの質問に対し、Googleの広報担当者は次のように述べている。「Buy on Googleの手数料無料化は、包括的な戦略のなかのひとつの取り組みに過ぎない。また、全ストアが『ショッピング』タブと『検索』タブに無料で商品を掲載できるようになった。これによりブランドのウェブサイトへのトラフィックが大幅に増加して、最終的にはユーザーの選択肢が増えることにもつながる」。
実際、Googleの方針は小売事業者にとってかなり有利なものとなっている。だが、問題はGoogleショッピングで商品を購入しようとするユーザー数が非常に少ないことだ。マーケットプレイスパルスの創業者のジューザス・カジウケナス氏は「手数料ゼロでも、売上がゼロなら意味がない」と語る。たしかに小売事業者にとって手数料ゼロは非常に魅力的だ。しかしユーザー数が少ないのは、はるかに大きな問題だ。
また、Googleの最大の強みであり、誰もが利用するGoogle検索とBuy on Googleは有効に連携できていないため、シナジーメリットをほとんど出せていない。カジウケナス氏によると、Google検索でトップに表示されるGoogleショッピングの商品の大半は有料広告を出したものだという。つまり、小売事業者が広告料を支払わない限り、Google利用者の目に商品が触れる機会がないという状況にある。「マーケットプレイスは稼働しているのに、商品を買い物客へ結び付けられない破綻したシステムに陥っている」と同氏は語る。「この点について、Googleは打開策や方向性をまったく示していない」。
しかしGoogle自体、同社サイト内で直接商品を販売するBuy on Googleの運営に関して、小売事業者の数をあまり重要な指標とは見なしていないという。より重視しているのは、Googleサイト内で直接販売するかどうかに関わらず、Googleショッピングで無料掲載される商品ページ数だという。「購入行為がGoogle内のサイトで行われるのか、ブランドのサイトで直接行われるかはユーザーの判断で良い。当社がサイトの開発や運営においてもっとも重要視しているのは、小売事業者とユーザーをつなげる最適な場所を提供することだ」と同社の広報担当者は述べる。
Buy on Googleに至るまでの道程
Googleショッピングの歴史は2013年にまで遡る。この年、同社は「Google Express」というサードパーティ向けのマーケットプレイスを立ち上げた。一時は、短期間とはいえ宅配サービスも提供されていた。だが、これが軌道に乗ることはなかった。アーリーアダプターのオフィス・デポ(Office Depot)やステイプルズ(Staples)、アメリカン・イーグル(American Eagle)といった企業は次々と撤退。2019年には、ウォルマートも「Google Express」での販売を中止した。
そして2019年末にGoogle Expressは廃止となり、Googleショッピングに組み込まれ、現在の「Buy on Google」となっている。「Buy on Google」は、ブランドなどの外部ページには移動しない。その名の通り、Google上で直接支払い、決済ができるシステムだ(Google Expressも同様だった)。
Buy on Google自体はマーケットプレイスではない。Googleショッピングという大きなカテゴリーのなかの1サービスだ。Buy on Google に比べ、Googleショッピングには多くの小売事業者が集まっている。だが、商品リンクをクリックすると外部のウェブサイトへと移動する場合がほとんどで、Google上で決済までを終えられるのはBuy on Googleを利用した場合だけだ。「Buy on Google」にアクセスするには、商品を検索し、「ショッピング」タブに移動、「Buy on Google」でフィルターする必要がある(日本では未実装)。
カジウケナス氏は「Googleにとって、現在、Amazonは最大の脅威となって立ちはだかっている」と指摘する。現状、Googleの最優先事項はもっぱら広告事業だ。同社のECビジネスに関する決定も、基本的に広告業界への影響力を維持することを目的としている。Amazonは、広告インフラを急速に拡大しており、小売事業者は広告を出すことで、Amazon.com上で商品を目立って表示させることができる。これがGoogleにとっての大きなプレッシャーとなっている。実際、商品広告のコンバージョン率はGoogle検索よりAmazonのほうが高くなっているという検証結果も出ている。「マーケットプレイス上に広告を掲載するほうが検索広告よりも効果が高いのであれば、Googleもマーケットプレイスを構築すべきだ」。こうしてGoogleは、ソリューションとしてマーケットプレイスの開発に乗り出した。
カジウケナス氏は「消費財業界では、多くのブランドが多額の予算をAmazonの広告に割くようになっている。Amazonはショッピングにおいて、もはや巨大な検索プラットフォームといえる」と語る。「Googleは危機感を覚えている。未来のショッピングのあり方、またGoogleの優位性を保つために今後何をすればよいか、さまざまな角度から分析している」。
EC分野のゴーストタウン
動画ショッピングプラットフォームのショップループ(Shoploop)や1月に開始したYouTube動画のショッパブル化など、ECへの取り組みを長年続けてきたGoogle。だが、いまだ安定したマーケットプレイス戦略は確立できていない。
Buy on Googleに対し、一時は小規模ベンダーだけでなく、ターゲット(Target)やベスト・バイ(Best Buy)、プーマ(Puma)といった大企業も関心を持った。だが、モダンリテールのインタビューに対し、Buy on Googleの小売事業者は「販売ルートの多様化のために加入してみたものの、売上はかんばしくない」と証言している。たとえばTシャツおよび玩具ブランドのマイペアレンツベースメント(My Parents Basement)は、季節にもよるが、1日あたり100から、多いときには800ものオンライン注文を受ける。だがオーナーのアーロン・セドフォード氏によれば、現状、同社のGoogle上での月間販売数は9に過ぎないという。
セドフォード氏は、プラットフォームの多様化という名目で、3年前にGoogleでの販売を開始した。「Googleはひとつのチャネルとして広告から販売、決済まであらゆる機能を備えている。ほかのチャネルでそこまで揃っているのはない。だから加入してみても良いと思った」と同氏は語る。「新たなチャネルが出てきたら、それが比較的簡単に利用できるようであれば、我々はいつも利用を検討するようにしている」。
つい最近まで、Google上での販売には、奇妙とも呼べるような時代錯誤な手続きをしなければならなかった。たとえば、無料化前はGoogleへの手数料の支払いは郵便小切手とされていた。世界最大級のIT企業のGoogleだが、当初はオンライン決済のオプションがまったく用意されていなかった。一方、Buy on Googleではかなりスムーズに決済が行えるようになっている。
Googleには、オンライン販売においてもユーザーに支持されるポテンシャルはあるのかもしれない。だが、8年間にわたり同分野に力を入れてきたにもかかわらず、いまだにその境地に達していない。その理由として、カジウケナス氏は次のように指摘している。「Googleのオンライン販売は、大半の消費者にとってあまりにも分かり難い。今年も、いや今後も、うまくいくと断言できるようなサービスではない」。
[原文:Google’s marketplace is free for sellers. The results so far are mixed]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)